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身近な異人と異国――『すずみんは肉食系火竜』

当然と言うべきか、京都大学の中では結構留学生を見かけます。
ということは、大学の近隣でも会う可能性はあるということです。
そしてまた、それとは別に、京都市内では観光に来ていると思われる外国人に出会うことも結構あります(古くは十数年前、中学か高校時代に学校行事で京都に来た時も外国人に道を訊かれたことがあります)。

が、フランス語で話しかけられたのは昨日が初めてではないかと思います。
それも、バス内でフランス語の研究書を読んでいたばかりに、西洋人のお婆さんに……何を見られているか分からないものです。

まあ、「面白い?」と訊かれた程度のことだったので、「Oui」と頷いて終わりましたが。やはり会話はいまいちです。

 ~~~

さて、今回紹介するライトノベルはこちらです。

すずみんは肉食系火竜 (ファミ通文庫)すずみんは肉食系火竜 (ファミ通文庫)
(2013/05/30)
西野吾郎

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作者の西野吾郎(さいの ごろう)氏は『SUSHI-BU!』で第13回えんため大賞特別賞を受賞してデビューした作家で、本作は第2作となります(その他、『ホラーアンソロジー“赤”』でも短編を書いていますが。)。

本作『すずみんは肉食系火竜』の世界では、人間の中に一定数「竜」と呼ばれる者が出現するという設定です。彼らは普通の人間と外見はほぼ変わりませんが、ただ種類に応じて髪や目の色が様々で、ブレス等強大な竜の力を使えます。
その力ゆえに、「竜」と認められた人間は学校も「竜科学校」に振り分けられ、竜としての力の使い方などを教えられます。

主人公・白石鋼平(しらいし こうへい)は中学校まで普通の中学校に通っていましたが、中学3年次に受けた検査に時にギリギリで竜と認定されるラインに引っ掛かったため、高校から竜科高校に通うことになりました。
しかし、入学してから少し経って、隣家に幼馴染の少女・穂村すずみが竜として覚醒してしまい、しかも彼女は強大な力を持つ上にきわめて希少なケースで……

そんなわけで、「竜」としては初心者の主人公の視点から「竜科学校」という世界への導入を描きつつ、さらに後追いの初心者であり強大な力をコントロールできないすずみが巻き起こすトラブルを描く……という構成になっています。
今まで竜として認定されずに来たくらい出力は弱いが、硬さに関しては抜きん出ているという主人公の特性も、その能力の成長と併せて上手く使われていますし。

物語の後半では“敵”が登場して命を懸けたアクションもやりますが、血腥い展開にはならず、最後は敵対した相手とも“落とし所”を探すという安心できる(そして、ある種現実的でもある)話になっています。
クラスメートたちもいい奴揃いですし。
そしてラブコメとしては、すっかり公認カップルというか夫婦のような扱いになっている鋼平とすずみの仲という軸が揺らがないのが一つの特徴です。サブヒロインにも可愛い子たちはいますし、フラグの立っていそうな子もいますけれど、メインは鉄板でしょう。

他方気になるのは設定でしょうか。
竜には力の大小とは別にI種II種の区別があり、すずみは後天的にI種に覚醒したのですがこれは先例がないとか、さらにI種としても特殊なスキルの持ち主であるとか言った設定が語られます。
説明は明瞭で分かりにくいことはないかと思われますし、すずみの持つ特別な力こそ、後半で敵に狙われたりもする物語のキーです。ただ、そこにおいてI種II種の区別といった設定が全て必要だったのか、ちょっとよく分からない面もあります。もっとも、また今後に生きてくる部分もあるのかも知れませんが。

それから、この作品の舞台はあくまで現代日本です。
基本は現代日本であるけれど特殊な能力を持った人間がいて、そうした人間のための教育機関もある…という設定は、今では珍しくないものですが、「そのようなものが存在したら社会のあり方はどう変わるのか」というのは、真面目に考えると奥の深い問題です。
本作の場合、別に竜に関係して最近戦争や社会闘争があったわけでもありませんし、基本的には現実準拠でそこまで違和感はないでしょう。

ただ、重要なポイントとして「富士」(富士樹海の辺り)が独立国であるという設定と、この世界の日本には「陸軍」が存在しているという設定があります(ちなみに「戦後」という言葉もあるので、アメリカとの戦争については基本は現実と変わらないのでしょう)。
しかも、特殊な人間が存在するからそういう人間の国がある、というのならまだ分かりやすいのですが、「富士」は逆に、竜の血の流入を認めない純粋な人間の国家なのです。なぜそうなっているのかの由来は、神話の時代に遡るとも言われるのですが……
そして、これが終盤のストーリーにきっちり絡んできます。

「龍道派……って、なんですか?」
「表向きは軍内部の勉強会なんですが……簡単に言えば『憂国の青年将校』グループですよ。思想の中心は反富士を核とした竜至上主義。彼らの主張をざっくり言うとですね、『軍を担う竜が中心となり、富士におもねって竜を弾圧している現政府の方針を正し、美しく誇り高かったかつての日本を取り戻しましょう』って感じですね」
 憂国に、青年将校……失礼ながら、古めかしい響きだ。
 日本史の教科書を開けば、近現代史でいくつか青年将校の蜂起事件は見つけられる。
 でも、それはあくまで教科書の中の話だ。この平和なご時世に……時代錯誤だろ。
「驚くでしょ? でもね、龍道派は軍の若手にはちょっとした人気なんですよ。主張は過激にして単純明快! 悪いのはみんな外国とその手先だ、腐った国を正すのは選ばれた俺達だと声高に叫ぶんです。竜のエリート意識もくすぐられますし、優秀な若者ほどハマっちゃうんですよね。ほら、何しろそういうのってカッコイイですからな!」
 (西野吾郎『すずみんは肉食系火竜』、エンターブレイン、2013、p.236)


青年将校の蜂起と言えばまずが「二・二六事件」辺りが思い出されますが……これは今日日のナショナリズムと関係して、現在改めて注目を浴びる歴史上のトピックでもあります。
しかも、同時に本作では「竜」という、特殊な力を持つマイノリティであるがゆえの苦労にも触れられていることを考えると、ここに社会問題との結び付きを見ずにはみられません。

上述の通り、本作は重い方向には展開しません。
ただ、身近に「外国」があり、それを敵視する青年将校の過激派もいるという設定は、一見遠い世界のようでいて現実の縮図であると見ることは十分に可能でしょう。


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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