スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

脆弱な仮面――『鳥葬 ―まだ人間じゃない―』

今回取り上げるライトノベルはこちら。

鳥葬 -まだ人間じゃない- (ガガガ文庫)鳥葬 -まだ人間じゃない- (ガガガ文庫)
(2013/05/17)
江波 光則

商品詳細を見る

作者・江波光則氏の作品は、私としては初めてです。

本作の主人公・陵司は幼い頃、車に石を投げて遊んでいた時、調子に乗って石を投げ、ドライバーを殺してしまった過去を持ちます。ただ幼すぎて、法的な責任を問われ罰を受けることはなかった――これが「まだ人間じゃない」の意味です。
この時に陵司と一緒に遊んでいたメンバーの内、いじめられていた八尋(やひろ)は陵司と「過去を交換」しました。何があったのか詳細は当事者しか知らないのを利用して、八尋の方が「俺は人を殺した」と吹聴し、そうしていじめられる立場を脱したわけです。

その人を殺した「事件」から10年、陵司たちが高校生として過ごしている時、八尋が死にました。自殺か他殺かも定かでない状況で、しかも最期に陵司に「過去に殺される」というメールを送って……
というミステリ的な要素を持って始まる物語ですが、内容としてはミステリというより、贖罪や人間関係に関わる人間模様を描いた物語です。

陵司はずっと人間関係を避け、読書に生きてきました。
他方で、10年前の「事件」の時に一緒にいたメンバーの内、桜香(おうか)は女子校に進学、上手く人付き合いをこなしていましたが、それは自覚的な上辺だけの付き合いでした。一学年上の瑛二(えいじ)燈子(とうこ)は、社会のルールを無視したような生き方をしながら、お互い相手だけがいればいいと思って、二人の世界に生きています。
そして八尋は……「人を殺した」ことを掲げてワルとして生きてきた彼はまた、ネット上で陵司の名前と顔写真を使ったアカウントを持っていたことが発覚します。

過去を交換したとは言え、なぜ名前と顔まで……と陵司は思います。

本書のタイトル「鳥葬」は、ギリシア神話で人間に火を与えたプロメテウスが受けた、生きながら肝臓を鷲に啄(つい)ばまれ続けるという罰を指します。
そしてこれは、罪に対する贖罪の問題であると同時に、ネット上に自分のことが切り刻まれバラ撒かれることと重ねられてもいます。

人間関係そのものを避けてきた陵司は、そんな風に自分がバラ撒かれることを耐えがたく思います――他人にバラ撒かれるのはもちろん、自分でやるのも。だからインターネットのソーシャルな繋がりそのものを不気味に感じます。

 他の、アカウント。
 それは俺にとっては未知の言葉だった。他のアカウント。違う自分。同時進行で同じ自分を演出しながら、二重人格、いやそれこそ多重人格のように“違う自分”を運営できるなど信じられなかった。
 (江波光則『鳥葬 ―まだ人間じゃない―』、小学館、2013、p.191)


「あとは多分……違う自分になりたいから、じゃない?」
 ぼそりと囁く桜香のその言葉は、とても辛辣に俺の心に刺さった。桜香自身にその心算がなかったとしても、痛烈な皮肉に聞こえていた。
 俺と八尋の関係は、まさにそのものだったからだ。
「……例えばさ。自分のコピーがたとするじゃない? クローンでもいいけど。そういう感じ」
「どういう感じかワカラン」
「試しに殺してみよっかなって感じだよ。ゲームとかやる?」
「ちょっとは」
「ゲームでさ、一旦、セーブしてから無茶やる感じ。そういうのを何度でも繰り返せる。面倒になってきたらアカウント消せばいいだけだしね」
「消したって、どこかには残ってる」
「残ってても、別に気にならない。陵司はそういうのを気にしすぎてる」
「俺は、そんなに神経質かな」
 (同書、pp.191-192)


陵司と八尋は過去を交換し、桜香は外面のいい自分を演じました。
皆それぞれに、「違う自分」に憧れています。
そして、それをもっとも容易に体現できるのが、インターネットの世界です。

ただ、これに馴染めない陵司は作中でも言われている通り、神経質すぎるのであって、このように「顔」を使い分けることは誰でも多かれ少なかれやっている、そう考えることもできるでしょう。
様々な顔の下に不動の「本当の自分」があるのではないのだと。

こういうことを論ずる場合、必ずといっていいほど言われることで月並みですが、「人格」を意味する person の語源は、古代ギリシアの演劇で使用された「ペルソナ(仮面)」なのです。

ただし、様々な顔を使い分けることは必ずしも、その「顔」を自在に剥ぎ取って捨てられることを意味しはしません。
仮面だからといって捨てられるとは限りません。
裏を返せば、いつでも捨てられる顔は、相応の重みしかないのです。

「違う自分」への憧憬が強ければこそ、それはあまりにも脆弱な手段です。
そのような脆弱な「殻」に頼った生き方とそのほつれ――それが本作の主題であり、上述の事件の中でいかなる意味を持っていたか、最後で見事浮き彫りになります。

 羞恥心は人間だけが、全ての生物の中で人間だけが持ち合わせているんだと言う。だからそれを持った時が『人間になった』時なのだ。鏡に映る自分を醜いと感じた時が一人前なのだと、どこぞの作家のエッセイで読んだ記憶がある。全く、その通りだ。
 (同書、p.270)


見栄えの良い仮面だけで生きられないということ――


縛られたプロメーテウス (岩波文庫 赤104-3)縛られたプロメーテウス (岩波文庫 赤104-3)
(1974/09/17)
アイスキュロス

商品詳細を見る


私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)
(2012/09/14)
平野 啓一郎

商品詳細を見る

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

No title

ただいまで~~~~す

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

普通に生きることに向かって――『密葬 -わたしを離さないで-』

フランスから注文した本にこんなものが挟まっていました。 よく見ると、どうも万引き防止タグのようです。 取り除き忘れだと思いますが……まさかこんなものがフランスからの本にくっ付いて来ようとは。  ~~~ さて、発売から少し遅れてしまいましたが、今回取り上げるライトノベルはこちら。江波光則氏の『鳥葬』の続編です。 『鳥葬』は単独でそれなりに完結していたの...
プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。