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迫害される者たちを前にして――『ミス・ファーブルの蟲ノ荒園』

前回の話題を引き継ぐようなところから始めますが、そもそも障碍や差別といった現実に存在する問題を描くのは、結構厄介なことです。
そうした(現実には解決されるとは限らない)問題がご都合主義的に解決されてしまえば、現実にそれらの問題で苦しみ続けている人に不快感を与えないとも限らず、解決されなければ「結局、どうにもならないのだ」と絶望させる可能性もあるからです。
結局、どう転んでも扱いが安易にならざるを得ない、という面もあるのです。

ただし、さらに考えてみるならば、「政治的に正しい答え」を描くのだけが文学ではありません。そこに可能性もあります。

 ~~~

これが前置きになっているかどうかは微妙なところですが、今回取り上げるライトノベルは今月の電撃文庫の新作『ミス・ファーブルの蟲ノ荒園』です。

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(2013/06/07)
物草純平

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タイトルからも予想が付かないではなく、あらすじを見れば明らか、「ファーブル」とはあの『昆虫記』のファーブルですが、本作においては美少女で魔術師になっています。
ジャンヌ・アンリエット・ファーブル――ですが、仕事等では史実のファーブルと同じ男性名のアンリを名乗っているという設定です。

歴史上の人物を美少女化するIF歴史ものというのはオタク文化ではよくあるパターンで、有名人など本当に何度となく美少女化されてます。
現在のライトノベルの有名どころでは、織田信長を美少女化した『織田信奈の野望』といった例があるでしょう。

さらに、本作『ミス・ファーブルの蟲ノ荒園』の舞台は1840年のフランスですが、作中では世界中に「蟲(ギブルと呼ばれる巨大な虫が出現しています。
冒頭から、小型の飛行機で空を飛び、全長20メートルくらいの巨大なスカラベを相手にする虫好きの少女アンリはどう見てもナウシカです(ちなみに、最初がスカラベというのは『昆虫記』1巻がスカラベであることをきっちり押さえた摑みと言えましょう)。

そして、主人公は開国したばかりの日本からフランスにやって来た侍の少年・秋津慧太郎(あきつ けいたろう)です。
しかも、フランス到着直前で船の襲撃事件に巻き込まれて海に落ち、何とか陸地に流れ着いた慧太郎は、諸事情あって身元を隠すため、女装してアンリの通う女子校に通うことになります。
女装少年が女子校に入学する(させられる)話ももはや数え上げることのできないほどよくある定番ですが、ただ本作の場合、学園生活の比重はそれほど大きくなく、学外の活動では女装を解いていることが多いため、これはおまけ要素という感が強いのですが。

しかしそれでも、こうして見ると何とも色々な要素を詰め込んだ感がありますが、話の筋は比較的明瞭です。

巨大な虫と侍というと、江戸時代を舞台に巨大昆虫と戦う剣士たちを描いた漫画『ムシブギョー』辺りを思い出しもしますが、『ムシブギョー』と違い、本作の主たる敵は虫ではありません。
人間よりも虫が好きだと言うほどの少女アンリは、「蟲」絡みの問題を解決する仕事でも、極力蟲を殺さないで片付けようとします。
まあ、ファーブルとナウシカがモデルならばそうなるでしょう。

本作には人間の敵がいます。そしてそれは、慧太郎の乗った船を襲撃した連中です。
ですが、その連中――「裸蟲(ミルメオレオ)は、異形の姿ゆえに迫害を受け続けている人たちです。
一方には「裸蟲」たちを「炙り出す」ために現代の「魔女狩り」を行おうとしている権力者がおり、裸蟲の組織「ブリュム・ド・シャルール」それを阻止するためテロ活動を行おうとしています。

真っ直ぐに正しく行きようとする慧太郎は、敵を単に「悪」として割り切ることができない現実にぶつかり、苦しみます。
それでも、確実に出ると分かっている被害を防ぐため「ブリュム・ド・シャルール」と戦わないと、という主張は「正しさの陰に隠れなきゃ満足に主張もできない」と厳しく言われもします。
そしていずれにせよ、さらなる事態の悪化を防ぐためテロを止めたところで、裸蟲たちの権利を獲得するのは困難な道のりでしょう。いつまで未来を信じていられるのか、信じれば良いのか――

この1巻で描かれたのは、慧太郎が不器用にも正しく生きようとする自分を受け入れ、決意するところまでです。
ここで、差別という大きな問題は、結局主人公の個人的な問題を描くための道具立てであって、差別問題そのものがどれだけ描かれているかは疑わしいと言えば、そうなのかも知れません。
ただ、「差別を描く以上は、それとしてその問題に取り組まねばならない」という政治的正しさに固執するだけが物語でもないでしょう。

まあ、次巻以降への伏線もいろいろあるので、今後次第という面もありますが。


キャラクターは魅力的――特に活動的なヒロインのアンリ――で、主人公が強くアクションシーンにも盛り上がりがありますし、巨大な虫というモチーフの面白さも活かされていると思いますが、気になるのは細部の設定でしょうか。
まず、アンリの使う魔術がどれだけのことが出来るのか、現段階ではよく分からないままであること。

そしてもう一つ、こちらは多少のネタバレに関わることですが、「蟲」は死ぬと――その体組織の一部だけであっても――すぐに化石化するという設定です。この化石が優れた燃料になることが、現実の1840年以上の技術の発達(とりわけ飛行機械)を可能にしていもいます(ただ同時に、この化石化をさせないで『ナウシカ』におけるように殻を利用する技術もどこかに存在している模様)。
そしてこれは、「裸蟲」に関しても同じだというのです。
が、「裸蟲」は普通の人間に擬態できるため、それを炙り出そうとすれば多大な被害が出るというのですが……この設定だと、血の一滴でも流させれば判別できるような気もするのですが。


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愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
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