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これは事件解決なのか――『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』

最近2巻が出た小説をまだ1巻まで読んだところなのでタイミングが良くないのですが、この小説を取り上げてみますか。

櫻子さんの足下には死体が埋まっている (角川文庫)櫻子さんの足下には死体が埋まっている (角川文庫)
(2013/02/23)
太田 紫織

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2巻↓

櫻子さんの足下には死体が埋まっている   骨と石榴と夏休み (角川文庫)櫻子さんの足下には死体が埋まっている 骨と石榴と夏休み (角川文庫)
(2013/05/25)
太田 紫織

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ライトノベルと一般の中間であるメディアワークス文庫ができ、書店では角川文庫とメディアワークス文庫が近くに置いてあることが多いだけに、ライトノベルと連続性を持った感覚で読めたりしますが……

本作は骨の好きな名家のお嬢様・九条櫻子(くじょう さくらこ)が謎解きに活躍するストーリーです。
最近多い「日常の謎」路線ではなく、死体が出ます。むしろそれゆえに、法医学者を父に持ち、自らも日々動物の骨格標本を作っている櫻子の知識が活かされるのです(法医学以外での洞察を振るっている場面も多いのですが)。
ただ、櫻子が事件を解決するかというとそうでもなく、彼女がいち早く洞察した真相を主人公に語り、その後、彼女が言わなくとも事件は自ずから解決している、というパターンの方が目立ちます。
それは良いとしても、そもそも解決編で新情報が出てきたりもするので、「フェアなミステリ」として良い出来とは言えません。

そんな本作の特徴は何かというと、まず死体というモチーフへのこだわりがあります。
ミステリであっても、「死体があった」と発見は軽く流し、検死の結果はは後から言うだけ、という作品もあり得ます。そこで法医学そのものをメインに持ってきたのは一つの着眼点でしょう。
ただその点に関しては本作も、主人公は死体をまともに見ていないで櫻子の観察と分析を聞くだけだったりするので、それほど決定的とは言えないでしょう。

もう一つの特徴として、後日譚まで含めると割と後味の悪い内容になっているという点があります。
真相が警察によって明らかにされ関係者が自殺した、ということを少なくとも数ヶ月後の視点から語る後日譚が入るのですが、そもそもなぜこんな事件が起こったのか、これで良かったのか、という点について、なんとも割り切れないものが残ります。

そもそも、事件の処理方法は常に問題になることです。
単に悪人の敵を切り捨てることができれば爽快ですが、そんな風にできるとは限りませんし、ミステリ(風味)の場合、善悪よりもまず謎が生まれることが優先されます。
警察が犯人を「逮捕する」というのは、何だかよく分からないけれど便利な解決法です。
一応それで話を締め括ることができますし、道徳的な善悪はさておき法に触れたのだから逮捕する、情状酌量の余地があるならば法廷で問うという含みも残せます。

ですが実際には、法廷に訴えても誰も納得する解決が与えられる保証はありません。
道義的には悪人が法には触れておらず、罪のない人が苦しむこともあります。

さて、櫻子は死体が出ることを喜ぶようなかなり不謹慎な人物であり、そして死体となればただのモノ(彼女にとっては“価値あるもの”には違いありませんが)であるという唯物論的な考え方の人物であることが窺えます。
事件関係者に対して心理的な分析を行っていることからも分かる通り、彼女は人の気持ちが分からないというわけではないのですが、あまりそれを慮りはしません。

このことが、「機械的に真相を暴くこと」と「関係者の気持ちに整理を付けること」の隔たりをよく示しているのではないでしょうか。

ある事件では、被害者遺族が率先して犯人を告発せず、真相を闇に葬ることを主張します。
犯人にも悪意はなかったのかも知れませんし、告発すればその他にも都合の悪いことが色々と明るみに出て、多くの人が不幸になる、そうかも知れません。
しかし、それでいいのか……? と主人公にももやもやしたものを感じさせておいて、さらに後日譚では、結局納得していなかった人物が告発してしまい、多くの被害が出たことが語られます。
真相を闇に葬ることも告発することも、いずれについても「これで良かったのか?」と思わせる仕組みです。
仮に闇に葬った方が丸く収まったとしても、それに納得せず告発しようとする人を残してしまう限り、結局は良くなかったし丸く収まらなかった、とも言えます。

そうした「ミステリにおける“事件解決”」を巡る問題を衝いた作品だと言えるでしょう。
ただやはり、当のミステリ要素がもっとしっかりしていればいっそう引き立つネタなのではないか、とも思いますが。

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Author:T.Y.
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