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終末と平和な世界で終われない――『ささみさん@がんばらない 11』

今日は創立記念日で授業は休みでした。
むしろ創立記念日が休みになることに驚いています(授業日数はちゃんと調整されているのですが)。

 ~~~

今回取り上げるライトノベルは本日発売、『ささみさん@がんばらない』の11巻です。

ささみさん@がんばらない 11 (ガガガ文庫)ささみさん@がんばらない 11 (ガガガ文庫)
(2013/06/18)
日日日

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 (前巻のレビュー
前巻から6ヶ月と、珍しく間が空きました。その間にアニメも放映されましたが、まるでその期間を避けたかのように(アニメ放映に併せて単行本を出した方が商業的にはいいと一般には思われますが…)。
前巻と同時に1巻の発売されたコミカライズはこの間に2巻が出て、3巻がこの原作11巻と同時発売です。

ここ数巻、最終決戦間近なことは匂わされていましたが、あらすじを見ると

神様のいない世界――。月読日留女によって、世界は、滅んだ。そして……。戻ってきたのはいつもの日常だった。新たに始まった自分の人生のために「がんばる」ささみさん。ときどき思い出すのは、みんながいた、あの日々のこと――。どんなにがんばっても、もう戻らない、もう一度手に入れることができないもの。神々の最後の戦いとは何だったのか、邪神三姉妹は、情雨は、玉藻前は……。人間も、神様も、すべての運命を巻き込んだ、破壊と再生。アニメ化され話題になったシリーズ、最新刊にしてクライマックス。


と、いきなり最終決戦が終わっています。
読んでみても、カラー口絵とプロローグはいきなり5年後になって、神様のいなくなった、つまり邪神三姉妹もいない世界で鎖々美(大卒の23歳)が当時のことを回想しています。

そして本編は5年後からの回想として、決戦前の別れ、そして最終決戦が描かれます。
この世界を去る決意を固めた邪神三姉妹たちが明らかにそんな素振りを見せつつ(それも、彼女らがいなくなると知っている読者視点であればこそよく分かるのですが)、言ったら反対されるがゆえに明言せず、密かに去ろうとしている様子が描かれます。
仲良くなった人たちの間に交わされる想い、そして別れの前に皆で鍋を囲んでの「最後の晩餐」……いずれも悲壮で、感動的です。

しかし、ほとんどの神話を喰い尽くしたラスボス・月詠日留女の力は圧倒的です。
それに対し神々が取った手段とは……ここで、邪神三姉妹がそれぞれアンリ・マンユ(ゾロアスター教)、ルシフェル(ユダヤ教)、フェンリル(北欧神話)の力を手に入れていたことが活用されて、壮絶な戦闘シーンが描かれます。

ただ、何よりもこの最終巻の題材はキリスト教。敵である月詠日留女は「闇の聖母(ブラック・マリア)であり、そして「世界は、滅んだ」とある終末は、ノアの大洪水黙示録に言及しながら描かれています。

滅びの後に訪れる千年王国――ただしそれは、神々も霊的存在もいない世界です。
その世界では鎖々美たちも一切の霊能力を失っており、それゆえに神々のことも忘れていきます。元よりそんなものはなかった世界なのですから。
鎖々美が忘れないように思い出を記録していて、それが「長編小説十冊以上にも」なったと――つまりそれこそが本作であるというメタ言及的な要素も入れてエピローグに向かいますが……しかしあらすじに「クライマックス」とはあっても「最終巻」とはなかったのが味噌で、まだ終わりません(同レーベルの同時期発売作品を見てもだいたい、最終巻となるものはそう書いてありますから)。

黙って全てを引き受け立ち去られて、遺された者達としては納得できるはずもないのが定番です。

――ここで少し小説の内容から外れますが、旧約聖書にあるノアの大洪水の原形となった洪水伝説は『ギルガメシュ叙事詩』にあるというのは比較的よく知られています。
ただ、その内容はかなり違っていて、『ギルガメシュ叙事詩』においては神々から不死の秘法を授けられたという賢人ウトナピシュティムが、世界の滅びた大洪水においてただ一人生き延びた人物として、その時のことを語るのです。
彼の孤独はどれほどのものだったのでしょうか。
他方で旧約聖書においては、人間が不死になるといった要素は丁寧に排除されており、ノアは不死ではありませんし、一族とともに箱舟で生き延びています。

ですが、『ギルガメシュ叙事詩』のバージョンに立ち返ってみると、生き残らされた側としてもそうそう納得できるものではないでしょう。

閑話休題。小説に戻ります。
ラスボス日留女ですが、彼女は余計な心を持って裏切ったりしないよう、「アラハバキ」首領によって定期的に記憶を失うよう設定されています。そのため性格は幼児のようで、ただ霊的なもの全てを喰い尽くすという食欲のみによって動いています。

 日留女ちゃんは無視するように、かぶりを負って不満げに喘いだ。
 その瞳は、獣欲に支配されている。
 (日日日『ささみさん@がんばらない 11』、小学館、2013、p.193)


しかしこれは、土着の神話・宗教を悉く取り込んで勢力を拡大してきた一神教――キリスト教の姿でもある(そもそも本作の設定において、一神教とはただ一人の神が他の神々を飲み込んで成立するものであり、「アラハバキ」はそれにより世界征服を目指す集団でした)ことを思うとなかなかに背徳的ですが、しかし彼女は本来、ただ邪悪で背徳的なだけの存在ではありませんでした。
そもそも日留女は「太陽神アマテラス」「人間の部分」であり、「人間だったころ、がんばりすぎて疲れきって、使いつぶされてしまった」(同書、p.273)人物、その結果として名前までも忘れ去られていた人物です。
それが数奇なことに、鎖々美の願いを叶える代償として復活させられたのですが、その結果として「アラハバキ」首領に利用され、ラスボスに仕立てられてしまいました。

彼女に救いはないのか……この11巻では終盤で、神臣が対話に臨んでいましたが、さてどうなったことでしょうか。

それに、「闇の聖母」というと「黒い聖母」像を連想させますが、黒い聖母というのは黒いけれどもれっきとした信仰の対象であり、悪ではありません。
日留女もただ悪の権化としては終われないのではないでしょうか。
あとがきでも「個人的にも基督教をまだまだ語り尽くせてはいないので」(p.294)続く旨を語っていますし。

とは言え、この11巻は「このままでは終われない」ことを最後に見せたところで終わっており、ここからどんな解決が可能なのかはまだ見えていません。
おそらく次巻辺りで終幕かと思われますが、どうなるのでしょうか。期待しています。



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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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