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逃れられない祖国で、良い将来のために――『銀閃の戦乙女と封門の姫 3』

昨日今日と強い雨が降っていましたが、授業があれば大学に行きますし、本も買いに行きます。


そんなわけで今回のライトノベルは本日発売、『銀閃の戦乙女と封門の姫』3巻です。

銀閃の戦乙女と封門の姫3 (一迅社文庫)銀閃の戦乙女と封門の姫3 (一迅社文庫)
(2013/06/20)
瀬尾 つかさ

商品詳細を見る

 (前巻の記事

前巻では、人工的に作られた亜世界クァント=タンのが登場しましたが……この王、自分が権力を握るために世界を作る時に細工していたり(モンスターの出現やマナのねじれといった住人にとっての脅威もそれが原因)、権力を奪われるのを恐れて実の子供たちにも呪いをかけていたりと、筋金入りのクズでした。
しかし、その王も前巻で死にました。この3巻では、クァント=タンは次期王位継承争いに入っています。
けれども、王族の中でも最強の第三王女ソーニャは、継承争いから引いています。が、それが事態を厄介にしている面もあるようで…

「個人の戦力においても功績においても比類なきソーニャお姉さまが後継者レースの先頭に立てば、それで万事、よろしかったのです。クァント=タンは個人の武力に重きを置く国。先王ガァドの前例を伝統と称し、かの無能な王の施策を継承すると宣言すればよかったのです」
 己の父に対してひどい言いぐさだが、趣旨についてはカイトでも理解できる。
 同時にまた、ソーニャがそうしなかった理由についても、痛いほどわかっていた。
 カイトのせいだ。
 女王となる以上、王配(女王の配偶者となる男性)を選ぶ必要がある。
 それは否応なく、カイトを政争へと引きずり込むことだろう。ソーニャがカイトを望む、望まずに関わらず、周囲がそうする。
 ソーニャは、国の行く末より先に、カイトのことを案じてしまった。
 (瀬尾つかさ『銀閃の戦乙女と封門の姫 3』、一迅社、2013、pp.36-37)


シャーロッテが前巻で、地球とクァント=タンのどちらを祖国として選ぶかカイトに問うたのも、そこに理由があります。
カイトをクァント=タンから追放した王がいなくなり、カイトのこの国に対する複雑な心情も前巻で一区切りついたわけですが、そこでまた新たな問題が生じてくるわけです。

しかしそれでも、ある程度吹っ切れるものがあったのか、カイトは現状に対し、自ら動く意志を見せます。
そもそも前巻で描かれたのは、モンスターの脅威やマナのねじれといった要素に苦しめられていても、生まれ育った祖国でしか生きられない者達がいるという現実であり、そして二つの祖国の間で引き裂かれるハーフのカイトの立場でした。

苦しくとも“この国”から逃げ出すことができず、ここで生きていくしかないならば、生まれ育った状況に拘束されて生きながらも、少しでも状況を改善していくより他ありません。
全肯定かそれとも全否定か、という極端な選択を突きつけるのはよくある詭弁のレトリックですが、実際にはそんな選択こそほとんどあり得ないものです。

カイトも、そうした現状変革の道を提案します――それも、クァント=タンという亜世界に新たな国を作るという壮大な野望を。
それは、モンスターとの戦いに特化してきたクァント=タンの人間に新たな生き方の可能性を提起するものであり、また交易のための都市国家を作ることで現在の国の弱点を補うものでもあり、そして地球とクァント=タン両方の人間が交わって生きていける場を作ることでもあります。
自分の存在が大切に想う女性たちに不自由を強いてしまうのならば、そうした大きな改革を――

「おれはこの国のためにどうって理由じゃ動けない。おれの動機は、いつだってきみやソーニャさま、それにフレイのためだ。おれはソーニャさまも、シャーリーも守りたい。だから、ずっとそのことを考えてきた。結論として、この国がいまのままじゃ無理だと思った」
 (同書、p.54)


ただ、ここで政治的な術策を巡らすのはもっぱら第四王女シャーロッテの役割であり、だからカイトも彼女に協力を仰ぎます。この世界についての知識はまだ少ないはずなのにやたらと察しのいい梨花(カイトの義妹)とシャーロッテが結託する一方で、難しい話になるとカイトが脳筋なソーニャともども「さっぱりわからん」と口を揃えているコミカルな場面は可笑しいですね(ソーニャはネタキャラとしての印象が強くなっていますが)。

とにかく、この巻でのメインストーリーは湖の底に発見された水中ダンジョンの攻略です。
元々シャーロッテが依頼してきたことですが、ダンジョン開拓から得られる利益で政治的・経済的な力を増した彼女の支援がカイトの野望のためにも必要になるのでしょう。

一応、恋愛上のメインヒロインはフレイのようです。これまでずっと表紙を飾っていることもありますし。
一夫多妻がありの習慣に反発してか、女性関係でも韜晦していた節のあるカイトも、一区切りついたことによってか真剣に女性陣に向き合う姿勢を見せ、デートのような場面も少しあります。
ただ、フレイの活躍は前巻に引き続き微妙だったりします。この3巻後半では、クァント=タンの人々は泳ぎが苦手という理由で、主人公と一緒に冒険し戦うのは梨花ですし。それでも、フレイは憑依のような魔法によりずっとカイトに寄り添ってはいるのですが。

そして最後には、不吉な将来を匂わせる引きも……


あとがきによれば、すでに4巻、5巻のプロットもあるとのこと。次巻でいよいよ王都と大学が舞台になると言いますから、いよいよこの世界の社会の中心に食い込んでいく物語になるのではないでしょうか。
前巻で同作者の前作『魔導書が暴れて困ってます。』シリーズとのリンクも示唆されていましたが、今回は『魔導書』で物語の主軸となっていた魔法も登場。他方で地球の方でも世界情勢が大きく変わるような大異変があったことが語られ、次第に大きな世界観が見えてきています。
ある程度書いてからシナリオを修正するところがあったのか、細部の記述にはところどころ不整合や妙な箇所がありますが、なかなか壮大で読み応えのあるストーリーです。

魔導書が暴れて困ってます。まぁ、どうしよう! ? (一迅社文庫)魔導書が暴れて困ってます。まぁ、どうしよう! ? (一迅社文庫)
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瀬尾 つかさ

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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