オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
時を越えた巡り合い――『時の悪魔と三つの物語』
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ヨーロッパ風の世界を舞台にしたファンタジー、ただし魔法などは一般に用いられているわけではなく、イレギュラーな存在という世界観です。
そんな中で、タイムトラベルして過去をやり直すことを可能にする「時の砂」を人間に与える「時を駆ける悪魔」と、それによりタイムトラベルする人々を巡る3本の物語です。
ただこの3編、まったく「時を駆ける悪魔」のみを接点としたオムニバスというわけでもなく、時系列的にも隔てられていますが相互に関連していて、その繋がりが後半になって徐々に見えて来る構成は秀逸です。
ただ、最後は「時を駆ける悪魔」自身の誕生にも関わる話で、つまり過去の起源に遡る話なわけですが……それほど捻れた話にはなりません。タイムトラベルによりパラレルワールドが生じるという設定にして、あらかじめタイムパラドックスを回避しているせいもあるでしょう。
そのため、最後は少々綺麗に片付きすぎた印象もあり。
ただ他方で、このパラレルワールド設定のために、「自分は過去へ駆けてやり直しても、他の人は自分のいなくなった世界に残される」という問題も出てきますし、この問題が重要な部分で扱われてもいます。
恋愛物としてはいっそう、綺麗だけれど普通という印象が強いですね。
3つの物語はそれぞれ1組のカップルを描いていて、いずれの主人公も大切な人を助けるためにタイムトラベルする、あるいはタイムトラベルさせるのですが、その相手との関係は幼馴染であるとか、ワガママで高飛車なヒロインと喧嘩しながらの生活といった、分かりやすい定型に頼っている感が強いのです。
世界観ですが、本好きのお姫様のために本が多く出回り、「本の世界」とまで呼ばれている国があって、庶民にも読書家がたくさんいます。第1章の主人公は山村に住む少年ですが、彼の書いた小説が行商人の目に留まり作家としてデビュー、遠方でも作品が出版されています。
これほど本の敷居が低くなっているということは、印刷術のすでに定着した世界なのでしょうか(それにしても、庶民が本を読んでいるというのは――現代でないとすれば――ヨーロッパよりは江戸時代の日本を思わせます)。
まあ18~19世紀になっても封建的な制度の強く残っていた国と地域もあるので、おかしいとばかりも言い切れませんが、そんな中「鎧を着た兵士」が古めかしさを感じさせるような……
そして、たとえ近代的印刷術が定着していようと、ワープロのない時代に年間20冊という執筆ペースは、かなり常軌を逸しています(1冊の厚みにもよりますが)。
色々言いましたが、新人としては構成は上手い、とは思います。 テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育
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