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「中世」とはいつか?

唐突ですが、「中世」とはいつでしょうか。

 とくに中世を考える場合、(1) 西暦紀元四〇〇年から一四〇〇年の一〇〇〇年を射程に収めるのがいいか、(2) 五〇〇年から一五〇〇年の間の一〇〇〇年にするか、(3) 六〇〇年から一六〇〇年までの間の一〇〇〇年にするか、あるいは、三〇年単位を持ち出して、(4) 四〇〇年から一六〇〇年までの間の一二〇〇年にするか、思いつく「中世哲学の時代」の選択肢はこれだけある。
 (八木雄二『天使はなぜ堕落するのか』、春秋社、2009、p.61)


どの区分を取るかは、歴史観の問題に直結しています。
しかし今回は、現実の歴史の話ではありません。

「剣と魔法」のファンタジー――あるいは魔法が登場しなくても、剣で戦うわけでなくとも、舞台がヨーロッパ(風の世界)で、銃や機械工業はなく、移動は馬……といった世界観の作品を「中世ヨーロッパ風ファンタジー」と言うことが多いようです。
もちろん、作中人物が「今は中世」とは、さすがに言いません。地の文が超越的な視点から「中世」と言うことはあり得ますし、また異世界召喚物であればこちらの世界の人間が向こうの世界を「中世風」と評することもあり得ますが、私の印象ではそれもあまり目立ちません。
基本的に、「中世風」とは読者が作品を評して言う言葉です。

しかしたとえば、「剣と魔法のファンタジー」であり自動車や銃器の活躍しない世界観であっても、「中世風」とは言えない例もありました。
例として『吼える魔竜の捕喰作法』『銀閃の戦乙女と封門の姫』があります。もっともさすがにこれらの作品を「中世風」と評する人はいないかも知れませんが、もっと現実寄りの、「魔法」の類で近代技術を代替しない作品でも微妙なものはあります。

たとえば『狼と香辛料』は、人間の少女の姿に変身できる賢狼ホロの存在を除いて、あまりファンタジックな要素はないファンタジーです。行商人の主人公ロレンスは荷馬車で旅をしています。
しかし、タイトルにある「香辛料」からして、貿易が盛んになったのは中世も終盤、早くとも13世紀でしょう。
しかも1巻には唐辛子が登場しています。唐辛子は南米原産、つまり16世紀以降のものです。

まあそれくらいのことなら、フィクションの世界ですから多少は史実と違うのもありかも知れません。
が、そもそも、教会が異教の取り締まりに精を出しており、ホロの正体がばれれば悪魔憑きとしてロレンス達も一緒に処罰を受けることになるというのは、この作品の基本設定です。
そして教会が「異端」ではなく「異教」の取り締まりに精を出すようになったのは、まさしく近世の特徴です。

異端審問の対象である「異端」はあくまでキリスト教の異端です。
そもそも中世には、儀式には教会に通ってもキリスト教の教義などよく理解していない民衆が民間信仰を続けているのは当たり前でした。そんなものをいちいち取り締まってはいられません。
まあ上述の区分で、1600年までを「中世」とする説を採れば、その辺もなんとか中世末に入ってくるのかも知れませんが……

また、ロレンス達作中の商人は金儲けを悪徳とする倫理観からは切れていて、金儲けのために手を尽くすのを当然のこととしています。もちろん登場人物の考え方が現代的である等という野暮なことは言いません。それは現代の読者を対象にしている以上、ある程度は仕方のないことです。数百年を生きているホロは昔と比べて「いつの間に教会はこんな大それたことを言うようになったのか」と呆れています。
これらを合わせて見ると、教会の掲げる教義や倫理に縛られない世俗の拡大と、それを前に対抗して権威を拡大しようとしている教会の対立という空気が、『狼と香辛料』の全編を貫いているように思われるのです。
私はやはりこれを「近世初頭」と呼びたいですね。

つまり、「中世ヨーロッパ風ファンタジー」と言う時の「中世」は、通常の歴史区分よりもかなり広い意味で使われているのではないか、と。


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Author:T.Y.
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