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悪への意志とその迷い――『トカゲの王V ―だれか正しいと言ってくれ―』

今回取り上げる小説は『トカゲの王』の新刊です。
昨年11月以来、実に8ヶ月ぶりの新刊です。この間に『僕は友達が少ない』の新刊等が発売延期されていることからある程度予想されてはいましたが……今巻ではイラストレーターのブリキ氏のコメントに「病に伏しておりましたが、無事回復致しました!」とあり、原因がはっきりしました。
あとがきにも「もうちょっと早く出したかった」とあり、一度予定告知したものを延期という形にはなりませんでしたが、ブリキ氏の事情で先送りになっていた可能性が高いのでしょう。

トカゲの王 (5) ―だれか正しいと言ってくれ― (電撃文庫)トカゲの王 (5) ―だれか正しいと言ってくれ― (電撃文庫)
(2013/07/10)
入間人間

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先に確認しておきますと、本作の世界観は現代日本風ですが、実は「アイで空が落ちてくる」世界が一度滅びてから2700年後の世界です。
それが最初に示唆されたのは、『電撃文庫MAGAZINE』Vol.24(2012年2月発売)掲載の短編「小さく選ばれたたたかい」でした。ここで「2700年前に洪水で世界が滅びた」ことが触れられています。この短編の主人公の小学生・辰野の母親が、現在『トカゲの王』本編で活躍しているマッドサイエンティスト・辰野浅香です。

それから、『電撃文庫MAGAZINE』Vol.27(2012年8月発売)が初出となる「ハイパーイルマ大戦 File.03」では、時系列を飛び越えて「アイで空が落ちてくる」の主人公・シロと『トカゲの王』のナメクジが共演していました。ここで二人の関係――おそらくは先祖と子孫の関係――が示唆されます。

その後、『トカゲの王』の4巻(2012年11月発売)では、新興宗教の教祖になった石竜子が教団の売りとして、「人類の始祖」――すなわち、大洪水を生き残って人類再興の礎を築いた人達――の家系を迎えようと画策していました。この「人類の始祖」の家の内、行方不明になっている米原家の娘というのが女殺し屋ナメクジこと米原麻衣で間違いないでしょう。
というか、この度5巻の口絵のキャラ紹介を見ると、さも当然のように「始祖の血統」と書いてあります。
そう言えば、この巻からキャラ紹介の文面はだいぶ変わりましたね。巣鴨のところに「トカゲ『の』王」と書いてあったり。そっちか。

ところで、常識的に考えれば全ての人類が「人類の始祖」の子孫のはずです。単に本家と分家といったことが問題なのかも知れませんが、この世界の人類再興にはまだ隠された事情があるのかも知れません、
ただ、それはおそらく本作の主題ではないでしょう。


さて、この5巻の冒頭にはまずWebで公開された『トカゲの王Ⅳのその後』という2本のエピソード(+書き下ろし1本)が収録されており、40ページを過ぎて「5巻の始まり」になるという構成になっています。
前巻のラストでは「インビジブル・ライト」――見えない右腕――という超能力を手に入れたナメクジですが、これも意外に使い勝手が悪いことが判明したり。
他方で、やはり前巻ラストで、ナメクジと行動を共にしていた猪狩友梨乃(元A女優、読心能力者)が石竜子に接触しており、彼女はナメクジの本名を知っていたので、石竜子がナメクジを教団に迎える道が開けたかと思いきや、微妙なところでそうはなりませんでした。今回も同じ事件現場に居合わせる二人の主人公ですが、道は肝心なところでなかなか交わらないのです。
石竜子は別の「始祖の血統」たる人物に接触しますが、どうも彼は詐欺のネタに使いやすい人物ではないようで……さてどうなることでしょう。

前巻で、猪狩友梨乃と別れて移動しているところをミミズに襲撃されたことから、ナメクジは友梨乃に裏切られた可能性を疑っていましたが、どうもそうではなかったようで、友梨乃はナメクジのことを「王子様」と呼んで捜しています。
他方でナメクジは、仇である巣鴨に会わせる対価として、友梨乃の殺害を要求されるのですが……


さて、今巻のサブタイトルですが、まさにそのままです。

「俺は悪者なんですかね」
 楽屋から出たところで、猪狩友梨乃に尋ねてみた。超えは、あまり張りのあるものではない。
 歩きながら、猪狩友梨乃がそれに答えた。考えるまでもないとばかりに。
「どんな理由があっても、人を騙すのは悪いことでしょう」
 (……)
「でも悪いことをするなとは言いません。わたしもよく嘘を吐きますから」
 笑顔でそんなことを言われても、こっちも変な笑いを浮かべるしかなかった。
 悪いことをするなと言いきる方がよほど嘘くさい。ので、ある意味でこの人は正直に俺と接して質問に答えてくれたのだ。こういう大人は俺の周りに少ないので新鮮な感覚である。
 だがそういう人にこそ、俺は嘘でもいいから肯定されたかった。
 家族、友人。そのどちらにも認められてこなかったから。
 いつものこととはいえ。
 望む答えがどこにもないというのは、心細いものだな。
 (入間人間『トカゲの王V だれか正しいと言ってくれ』、アスキー・メディアワークス、2013、pp.122-123)


自ら人を騙す悪の道を選んでおきながら、どうも悪人になりきれず、正しさを認めてほしいと思ってしまう、それが石竜子という少年です。彼は復讐の相手であるシラサギに対してすら、憎しみのような負の感情を強く持てません。
石竜子とナメクジのW主人公でやっている本作ですが、巻を追うごとに、とりわけ前巻辺りからは石竜子とシラサギの対比も強く出ています。シラサギも白い翼を出すというハッタリの超能力しか持たず、そんな相手に対し、石竜子は同じ新興宗教の教祖として挑もうとしています。

「しょっぱい超能力、新興宗教の教祖。そこまでは共通。けれど一つ違うのは私の性根が悪であり、そしてあのカス野郎は善であること。あくどさが足りないのよね、あいつ」
 黙って聞いていた白ヤギが、ほぅ、と密かに反応する。
 それなりの立場にあれば慧眼が身につくものなのだと感心していた。
 白ヤギが五十川石竜子という少年を評価している部分も正にそこだったからだ。
『普通』であるということだ。あの少年の育った環境に目をやれば、よほどのひねくれ者として人格が成されていても不思議ではない。しかし石竜子少年の価値観はあくまで善良に属して、一般的な判断を下せる。それこそ、白ヤギの評価する『強さ』だった。
 (同書、pp.94-95)


他方でシラサギは、人を騙して生きることを躊躇いません。
さらに、詐欺師は自分の嘘に飲まれがちなことをよく知っていて、自分の嘘に対し距離を保とうとしてすらいます。

一方、ナメクジは巣鴨への復讐を誓い、「巣鴨のようにならない」ために他人を利用しないで生きようとしています。
しかも今巻の彼女は、能力の反動か、それとも失った右腕を取り戻してしまったせいか、少し思考が欠落して、大雑把になっている反面、いわば「ぼうっとして」考えなくていい場面で考えているところが見られます。
そして彼女は、巣鴨への復讐のために、敵対していないどころか今まで協力してきた相手――猪狩友梨乃の殺害を依頼されています。しかしそれこそ、友梨乃の命を利用することではないのでしょうか。

石竜子は根が善にも関わらず主体的に悪を選択し、ナメクジは自分が正しいと思うことをしようと思いながら、自分の正しさを見失いそうになります。

そもそも入間氏の作品においては、たとえば『みーまー』等で繰り返されたフレーズ“誰かが幸福になることで、他の誰かを不幸にする”からして、そこにはまず、図らずも他人を踏みつけてしまった者の自覚がありました。
今作ではいささか方向性を変えて、積極的な悪への意志が問題になっていますけれど、いずれにせよ悪の自覚に関する問いはますます混迷し、簡単には片付きそうにありません。


それから、石竜子の同級生である少女・鹿川成実(実は猪狩友梨乃の妹)も前巻で超能力(姉と共通の読心能力)が覚醒した上、舌を切られるという酷い目に遭わされましたが、今回シラサギはこの成実を篭絡にかかります。
自分の本音を見透かす読心能力者など、使いやすい存在ではないのですが、全ては石竜子への効果のために。

人の恨みを買う立場になった石竜子が殺し屋(改造人間)に狙われて相変わらずボロボロになっている一方で、平和な病室であれこれ話して成実を篭絡していく様は実にえげつなく、しかし同時に見事な手管を感じさせました。
結果は……石竜子にとっては、友達との決裂。
シラサギが今まで一番悪役らしい、嫌なところを見せた展開でもありましたが、これは石竜子の憎しみを喚起する材料になるでしょうか。それとも――むしろ悩ませ、迷わせることになるのでしょうか。わざわざシラサギと敵対したがゆえにこうなったのだ、と思えば。

ちなみにこの結末も、何だかんだで友梨乃と元の鞘に納まったナメクジ(そもそも友梨乃との最初の出会いからして、誘拐者とそのターゲットという関係でした。今回も似たような状況になって、似た結果になった感じです)と対照的でした。


ところで、本作において一番強いのは、基本的には金持ちです。
「最強」の殺し屋と言えど仕事で契約している以上、クライアントの横暴にも耐えねばならないのに対し、金持ちは強い殺し屋を雇って好き勝手やることができます。
殺し屋は依頼を受けて人を殺しますが、殺しの依頼などをするのは金持ちです。
だからこそ、殺し屋でも超能力者でもない(しかし、一番人格が破綻している)お嬢様の巣鴨は一番の悪人で、一番恐ろしいのです。
そして、殺し屋は金で懐柔できることもありますが、金持ちは金で動きません。
シラサギもまた、教祖としては十分に成功しているからこそ、利益にならずとも石竜子を挑発することに結構な力を注いでいるのです。
石竜子も、シラサギへの復讐を果たせば、それ以上の金銭や名誉を求めてはいません。

生きるために必要でもなく、欲のためでもない、だからこそ、その上で悪をなす意志を持つというテーマが際立ってくるところでもあります。

そんな中新キャラとして、「金を貰わなくても仕事をする」という殺し屋(?)、「乙姫」が登場します。またも浴衣の少女です(『みーまー』の大江湯女、『電波女』のかぐや姫と、氏の作品では和服美女の登場率が高いのですが、本作では白ヤギに続いて二人目です)。
もちろん「無料で人殺しを請け負う輩などまともなはずがない」(同書、p.97)という評はまったくその通りでしょう。
今巻では通りすがって、石竜子にいくらか協力したりした程度ですが、そんなポジションの彼女が今後も意義を持ってくることがあるのでしょうか(そう言えば、前巻で登場した「1号」もそれきり、今回は少しそれらしき姿を見せた程度ですが…)。


順番が相前後しましたが、今巻も終盤のアクションシーンはグロく、主人公たちの傷付き方が読むだに痛いのですが、迫力があります。とりわけ、クライマックスでのナメクジと、敗者復活戦となるトンボが格好良いこと。
相変わらず楽しめる一冊でした。


電撃文庫 MAGAZINE (マガジン) 2012年 03月号 [雑誌]電撃文庫 MAGAZINE (マガジン) 2012年 03月号 [雑誌]
(2012/02/10)
不明

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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