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本当の政治的方針の分かれ目――『大日本サムライガール 6』

まずは前回の続きから。

日本が戦後70年近くに渡り戦争に巻き込まれずに来たのは、何と言ってもまずはアメリカの核の傘のお陰です。
その分日本は、「国防」に関する多くをアメリカに丸投げしてきました。
それゆえ、現行の平和主義を掲げた憲法を改定し、軍備を進めることは、「アメリカ頼みの国防からの脱却」「自立」の推進である……ようにも思われます。

しかし、「集団的自衛権の容認」は、まったく逆方向への道を示唆する――私が前回言わんとしたのは、まずはそういうことです。いずれが良いかは別にしても。
アメリカ以外の国と新たに軍事同盟を結ぶ、という可能性も考えられないではありませんが、アメリカに比べればいずれの国も小さい可能性に留まるでしょう。

 ~~~

そんな話を前置きにして、今回は『大日本サムライガール』の6巻を取り上げます。

大日本サムライガール 6 (星海社FICTIONS シ 2-6)大日本サムライガール 6 (星海社FICTIONS シ 2-6)
(2013/07/17)
至道 流星

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 (前巻の記事

前巻のラストがアメリカ大使館に招かれる、という引きになっていたので、今巻もその続きから始まります。政治の話とアイドル、あるいはビジネスの話という面で言うと、今巻は前半がずっと政治で、後半がふたたびひまりプロダクションのアイドル達を巡る話になります。

もちろん、まだ政治活動をしている訳でもない日毬をアメリカが本格的に「警戒する」必要はありません。ただ、これから影響力を持つ存在になる可能性のある日毬に対して協力を持ちかける、という感じです。同時に、CIAとホワイトハウスの微妙な関係といったアメリカ側の事情も関わっているようですが……

そして、アメリカの後は、前巻から接触してきていた日本の二大政党・自友党民政党のトップと日毬が会談することになります。

作中のアメリカが一番気にかけているのは、中国の人民解放軍の動向であり、それにより有事となった時に日本がどう動くかです。中国では軍が政府に対して独立した権力を持っており、それが危険要因になるという指摘も(これは『羽月莉音の帝国』中国編でもストーリーのキーになった点でした)。

そして国内でも、選挙戦で表に出るのとは違う、本当の立場の分かれ目は対米従属か独立かである、というのがこの巻最大のポイントでしょう。

「民政党の政権交代の意義や失敗、それから自友党の復権が、自分なりに整理できた気がするよ。そうした一連の流れを整理してゆくよ、日毬が世の中に登場してきた系譜が必然のものだったんだって思えてきたな」
 (……)
「神内三郎も強く主張していたように、民政党には『対米自立』を達成し、『日本の独自外交』を推し進めるという隠れた方針があったわけだろ? だからアメリカとの対等な立場を主張してたし、アジアへの接近を強く打ち出していた。基地問題をゴチャゴチャさせてアメリカとの関係を極度に悪化させたのも民政党の失政に思えたけど、あれも『対米自立』の一環だったと思えば、なるほど、スッと意味がわかった感じだよ。理想論は頷けるし、素直に産道したい気持ちもあるぞ。だけどさ……結局のところ実力が伴ってないんだから、いくら口先ばかり叫んでも仕方なかったんだ」
 (至道流星『大日本サムライガール 6』、星海社、2013、pp.129-130)


これが現実の民主党に関する解釈として妥当かどうかは、必ずしも明瞭なことではありません。かなり意図的に二大政党の方針を「対米従属」と「対米自立」という形に整理している感があります。
そもそも、かの「友愛外交」に至っては作中の民政当代表・神内三郎も「鳥山くんはな……ちょっと変わっていたから……」(同書、p.119. 「鳥山くん」のモデルは言うに及ばずでしょう)と言葉を濁し、失政は認めていますし、さらに神内三郎のモデルが小沢一郎なのかどうかはもっと微妙なところで、あまり似ていない感じです(さらに、現実の小沢はもう離党して新党を結成していますし)。

ただ、田中角栄が対米自立を進めたがゆえにロッキード事件で「消された」というのは『羽月莉音の帝国』でも述べられていた、至道氏の一貫した考えと思われる部分であり、そして本作の神内も田中角栄の流れを汲む人物として描かれています。
さらに、日毬も民政党政権のことを「売国政権」だと思っていましたが、実は対米自立という方針に関しては近しいことが明らかになる、という関係も注目すべきところです。何が味方なのか、一筋縄ではいきません。
そしてまた、実際に自立が可能になる軍事力を――核武装を含めて――手に入れるとなると、簡単に許されるとも思えず話は幻想的になってきます。加えて、防衛費と社会の末端(貧しい人々)にまでお金を行き渡らせることのどちらを優先すべきか、というのは日毬と栞の主要な対立点でもあります。


といった、一筋縄ではいかない日本の政治の核心に関わるテーマの話の後、本書の後半は片桐杏奈の始めた『アイドルたちの何気ある日常!』の話になります。
これはとりわけ、ひまりプロダクションのアイドルでは今ひとつ売りの弱い千歳を売り出すために杏奈が発案したのですが、思いがけず注目を浴びたのは――今巻の表紙を飾る由佳里です。
ミス早稲田にして蒼通に入社、颯斗のビジネスパートナーとしてずっとやってきた彼女のスペックを思えば妥当というべきでしょうか。

もうプロダクション経営の方はずっと好調で大きな困難に当たることはなく、後半は女性キャラ達の緩い会話がメインになりますが、そんな中でも編集部付きのライターが3日で原稿を仕上げるスピード出版の話などの面白い話もあります。流行りのトピックを取り上げた本がすぐに店頭に出回るのはどういう仕掛けか、ということです。


そんなわけで相変わらず楽しまさせていただいている作品ですが……巻末の告知を見ると、今年10月には至道氏の新シリーズ『東京より憎しみをこめて』を刊行予定で、『大日本サムラーガール』7巻は2014年初頭予定だとか。
作者としては毎年何か新シリーズを始めていくつもりのようですが、あまりのんびりしていると現実が追いつき追い越していきそうな気もするのが若干気がかりです。来年初頭には何が起こっていることでしょうか……?

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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