オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
家族と共同体とのズレ――『私と家族と家族ごっこ』
![]() | 池袋発、全セカイ行き! 4 (フラッパーコミックス) (2013/07/23) 守月 史貴 商品詳細を見る |
作者の守月史貴氏は『トカゲの王』のコミカライズを担当していた漫画家でもありますが、『トカゲの王』の方も最近(原作1巻分、ストーリー上はプロローグのみで)完結しています。
原作者も「まさかプロローグだけやって終わると思わなかった」と5巻あとがきで述べたりしていましたが、ほぼ同時期にオリジナル作品も終了とは。
とは言え、これといった事情を示唆するような記述はありませんでした。
内容的には、最終巻にして急に恋愛要素が強まり、こと主人公が「いつの間にヒロインに好意を持ったのか?」という点に関しては違和感もなくはありませんでした。
ただ、クリエイターを養成する学園にあって、生徒であると同時に理事長であるヒロインを設定した作品として、制作側とプロデュース側、それぞれの進路選択を描いたのは、ちゃんと筋の通った終わりだったかと思います。
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今回はもう一つ、メディアワークス文庫の小説も取り上げましょう。気が付けばもう発売から一月経ってしまっていますが……
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主人公の鷹場季貴(たかば ときたか)は新任の小学校教師ですが、教え子(当然、小学生です)の三好環姫(みよし たまき)に恋愛感情を抱き、駆け落ちするという暴挙をやらかしてしまいます。
世間的にはこれは誘拐です。
季貴は大学時代の恩師・聖橋(ひじりばし)教授を頼り、教授の住むボロアパート「八十陰荘(やそかげそう)」に身を寄せます。しかし、八十陰荘の住人たちが季貴と環姫のことを実の家族だと思い込むという怪現象(通称「家族ごっこ」)が発生し……というのが物語の軸です。
環姫の家庭は表向きは問題がないものの、母親は彼女に愛情を注いでおらず、そんな彼女の家族を求める想いが「家族ごっこ」の一因であるように描かれています。また、一癖も二癖もある八十陰荘の住人たちも(幸福か不幸かは別にして)家族に恵まれてこなかった者達として描かれています。
しかし他方で、「不自然なものはいずれ自然な状態に戻るか、そうでなければ破綻を免れない」(p.129)ということも強調され、実際に後半では、「家族」としての関係が築かれたがゆえに今まで上手く行っていた八十陰荘の住人たちの関係に軋みが生じる様が描かれ、そんな中で「家族ごっこ」を続けるかどうかの決断が問われます。
「八十陰荘の住人たちは、てんでバラバラな個人主義者に見えて、あれでなかなかどうして結束が堅い。信用しないというスタイルの信頼とでもいうんかな。とにかく摑みごころがない。いままで何度も揺さぶりをかけてんけど、どれもうまくいかへんかった」
(優木カズヒロ『私と彼女と家族ごっこ』、アスキー・メディアワークス、2013、pp.261-262)
家族以外にも良い共同体がある一方で、不自然に「家族」を持ち込むことは、かえって共同体を壊すこともある……
ただ気になるのは、「家族ごっこ」を終わらせることについては主人公の季貴が決断している一方で、彼の誘拐という犯罪行為に関しての始末はなし崩し的に片付けられた感があることですね(まあ、世間に発覚すれば言い訳のしようがありませんから、これより他になかったとも言えますが)。
問題は結局解決されたのか? と考えると、何とも言いがたい微妙な締め括りになっていることに気付きます。ハッピーエンドではありますが。
それと、八十陰荘を手に入れようと狙う雨生山(ういやま)に関してはストーリーとの関わり具合が甚だ微妙というか、いなくても良かったような。
ついでに余計なことを言っておくと、聖橋教授の研究は基本的にフィールドワーク中心で、季貴も学生時代にあちこちを連れ回されたという設定です。
しかし、あらゆる科目を教えなければならない小学校教員の免状取得というのはかなりハードであって、教員養成コース以外でも取れるところはありますが、専門研究でハードなフィールドワークをしながらというのは、かなり難しいような……。しかしこれは、「変人の大学教授」というキャラありきの設定と思えば仕方ないと考えるべきでしょうか。
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