オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
部活をする理由――『部活アンソロジー1 「青」』
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ライトノベルという分野は作家買いが強くないと言われますが、他方で複数作家によるアンソロジーはなおさら少数で、あまり流行りません。ただ、色々な作家に触れる入口としては結構役立つこともあります。
さて、そもそもライトノベルの大多数は主人公が中高生で、部活というモチーフも定番の一つです。
つまり、ホラーアンソロジーに比べると今回の「部活」はライトノベルの標準に沿ったものですが、それだけにオーソドックスな魅せ方が問われるところでもあるでしょう。
では、それぞれの作品について。
● 更伊俊介「B・E・T」
トランプの大貧民で全てを決する「大貧民部」が舞台。
主要キャラも男女二人だけと分かりやすい。
ローカルなルール差も色々ある大貧民のルール解説から始めて、二人きりでの大貧民勝負の流れを詳細に、緊迫感をもって描いています。
キャラよりも勝負に絞った1本。なかなかの出来です。
● 綾里けいし「宵下様探索部」
希望の部活に入れなかった者や部活を決められなかった者の集まる「読書部」に入れられることになった主人公。
しかし部の先輩の曰く、読書部という表向きの下、ここの実態は学校の怪談を記し記録する「宵下様探索部」であるという……
普段の作風に近いものとなったが「いつもよりは穏やかな話」だという作者の言の通り、これはホラーアンソロジーでも違和感のない怪談ですが、グロ描写が控え目な分大人しいですね。ラストも随分と救いのあるものになっています。
それに読書部というモチーフに相応しく、古典文学への言及や引用も多く、これも『B.A.D.』と共通するモチーフですね。
怪談と文学の力を絡めた良いストーリーではないでしょうか。
● 嬉野秋彦「理由なき反逆部の誰も知らない最初で最後かつ最大の戦いとその後日譚」
主人公は英語弁論部の夏休み合宿に参加するはずが、どういうわけか部の顧問である美人女性教師・愛宕淑子(おたぎ よしこ)先生に連れられて校舎の屋上に泊り込むことになり……
あくまで話を導いているのは先生です。先生の青春と生徒の青春が交錯する、という感じですね。
● 関根パン「たたくぶ」
高校では軽音楽部に入ってドラムをやりたいという倉石柚実(くらいし ゆずみ)、でも他にもドラムをやりたい人がいたら…? という出だしとタイトルで、だいたいその後の展開は予想が付きますね。
短い話の中でも部員たちはなかなか濃いキャラ揃いで、かなりの変人もいる中、主人公の柚実は台詞が平仮名ばかりでかなり幼い感じで、幼馴染の瞬とのやりとりは微笑ましい感じに仕上がっています。
擬音ばかりが数ページ続く演奏シーンは結構凝っていたりします。
● 櫂末高彰「バビ部!」
「ビビる」を強めた言い回し「バビる」に由来する「バビ部」は人を驚かせることを活動内容とする(非公認の)部活。
サプライズを仕込むために念入りな準備を行う様を丁寧に描き、その上で読者をも驚かせる、キャラもオーソドックスながら立っていて、良い出来です。
● 佐々原史緒「サルと踊れば」
「サル」はフットサルです。
あとがきで解説がありますが、作中世界は(現実にはまだ実現していない)男女MIXフットサルの学生公式戦が実現している世界です。
小学校まで少年サッカーチームで活躍していた主人公ですが、ある事情によりサッカーへの情熱を失って中学校に入ってきます。しかもこの中学校は、あと3年で自分たちの卒業とともに廃校になる運命。
そんな中、女子率の高いフットサル部に勧誘されますが……手段を選ばないフットサル部の先輩女子たちが怖いこと。
ただ、基本はオーソドックスな青春スポーツ物になっています。短いので盛り上げやその準備が足りない気はしますが。
さて、こうして見ると、「学校が部活参加を必須にしている」という設定が6本中2本。
主人公が部活動の内容そのものを強い目的として入部する(した)のは1本だけです。
「意に反して、やむを得ず入部させられた」というところからその部活動や仲間たちを大切に思うようになっていく展開の方がストーリーになりやすいためかも知れません。
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