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英雄に討たれる「悪」の矜持――『剣刻の銀乙女 4』

名古屋の実家は海抜20mくらいのところにあります。
このくらい高いと水害の心配はほとんどありません。8月の初頭(その時帰省していたはず)には名古屋でも大雨が降って、港区では地下鉄が浸水したりもしていたようですが、まったく気付きませんでした。

京都の家も山に近いので、海抜は高めのはずです。川からも近いのですが、川が氾濫して周囲が冠水したとかいう経験はまだありません。
先程も日暮れ頃、かなりの豪雨が降ったのですが、30分くらいで止んでしまいました。もちろん、その程度では大した問題は起こりません。

 ~~~

さて、本日取り上げるライトノベルはこちらです。

剣刻の銀乙女4 (一迅社文庫)剣刻の銀乙女4 (一迅社文庫)
(2013/08/20)
手島 史詞

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前巻の記事

作中世界の状況を一度まとめてみましょう。

・本来は英雄の力である「剣刻」を巡っての殺し合いで舞台となるエストレリャの国は内乱状態、王宮はまだ存続しているものの、王は引き籠って内政はほぼ崩壊している。
・しかし、学園は独自の自治機構を持っているらしく、学園内は比較的安全。主人公たちは学生であるが、騎士およびその護衛部隊として調査や戦線に派遣されることもある。
・12人の「円卓の騎士」に与えられた12の剣刻は多くが奪い合いで散逸、しかし3巻終了時点で6つまで主人公チーム5人が所有している。

こうなると王宮と学園の間の権力関係に緊張がないはずはない、と思えます。その予想が正しいことを見せてくれるのがこの4巻になります。
元々、宮廷に権力闘争は付き物です。しかも、今巻の表紙を飾る「騎士姫」ルチルはまだ学生身分でありながら国の守りの要なる「円卓の騎士」の一人であり、また王族でもあります。
今回、「剣刻」の受け渡しのためについに王城を訪れるルチル達ですが、かなり厳しい待遇を受けるのもむべなるかな、です。

ただこの巻は全体としては、――人間でないため恋愛感情に疎かったヒロインのエステルがその感情を自覚したこともあって――どちらかというとラブコメ要素が強めの巻です。
それに何より、現在の剣刻戦争を引き起こした黒幕であり純粋に外道な悪役であるクラウンが登場しません。
敵としてはエステルと縁のある皇禍――力で言えば作中屈指の強さ――も登場しますが、彼女との戦いは第3章で終わり、第4章ではエステルがまた味方であるルチルの目を盗んで騒ぎを起こす、という展開も象徴的です。こうやって騒ぎを起こすのが道化師のエステルをヒロインとしている本作の本領でもあるのですが。また、学園では生徒会長でもあるルチルの目を盗んで…というのは学園コメディらしくもありますが、そこに王宮が関わってくると話は穏やかではありません。

ただ、私的な面ではヒロイン同士の仲は非常に良いのです。恋愛面でも、特にエステルとルチルという2人のヒロインは主人公を取り合うというより、支え合う形での三角関係になっています(エステルが恋愛感情に疎かったことも関連して)。
他方で、2巻から登場のエリナが、ヒースが女性関係で極端に朴念仁である理由に思い当たったりも。……なかなか説得力がある理由が用意されたというべきでしょうか。


さて、エストレリャは騎士道物語の英雄を建国の祖と仰ぎ、「神」の名を掲げた「神話」ではなく英雄譚を礎にしている国です。
ただ、その英雄譚の背景に、「剣刻」の実態に関わる語られていないことがあるらしいということで、その解明が作中で進められているところですが…

それとは別に、英雄譚は過去のものだけとは限りません。いや読者にとっては、本作そのものが「新たな英雄の物語」であることはほとんど自明のことでしょう。
何より、崩壊した国を再建するためには新たな英雄が必要だと、そう考えている者達が作中にもいることが、今回明らかになります。

「ヒース・ベルグラーノ。お前は、英雄譚が好きだったな。お前は、英雄譚に必要なものはなんだと考える?」
「――英雄――困難――美しい姫――そして、討たれるべき悪――」
 (手島史詞『剣刻の銀乙女 4』、一迅社、2013、p.279)


とは言え、何がどれに対応するのかは、読者からしても必ずしも明瞭ではありません。
はっきりした悪役としてはクラウンがいますが、背景にはかつて剣刻に封じられたという「魔神」の存在があり、クラウンも魔神の復活のために動いている様子です。すると魔神こそがラスボスなのでしょうか。
いやしかし、作中世界では人間同士が殺し合っています。悪が人間に属するという面はないのでしょうか(この“敵は魔物か人間か”という問題を本作が示していることは、私も当初から指摘していた通りです)。
ここで、引き籠りっぱなしの無能な王が矜持を見せます。自分を「悪」とするという矜持を――


相変わらず、細部に気になるところはあります。
たとえば、1巻で登場した脇役が実は「剣刻」保持者として学園に匿われていたことが明らかになります。1巻を読み返してみると確かに彼が剣刻を得てしまったと思われる場面はありました(その後怪物化しますが、最後には助けられたはずですから)。
ただ、彼がその後学園に匿われていたはずにもかかわらず、前巻で剣刻の所在を確認する場面では触れられていなかったりとか。

とは言え、徐々に情報は整理されてきましたし、謎の解明にも近付きつつある雰囲気で、続きも楽しみですね。
あとがきによれば、次はエリナがメインで、双子の兄・エリオットの死体を乗っ取っているクラウンといよいよ決着をつけるようですが……

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