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美少女にモテても喜べない状況――『サイコメ』

新刊などもありますが、今回は先にこちらのライトノベルを紹介させていただきます。
まもなく次巻が発売されるというタイミングはいいのか悪いのか微妙ですが…

サイコメ 1 殺人鬼と死春期を (ファミ通文庫)サイコメ 1 殺人鬼と死春期を (ファミ通文庫)
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サイコメ 2 殺人姫と林監学校 (ファミ通文庫)サイコメ 2 殺人姫と林監学校 (ファミ通文庫)
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↓3巻が今月末発売です。

サイコメ 3 殺人希と期末死験 (ファミ通文庫)サイコメ 3 殺人希と期末死験 (ファミ通文庫)
(2013/08/30)
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本作は第14回えんため大賞の優秀賞受賞作で、作者のデビュー作となります。

主人公・神谷京輔(かみや きょうすけ)はある日、「12人殺し」の冤罪で逮捕され、未成年の殺人者だけを集めた矯正施設「プルガトリウム更正学院」に入れられてしまいます。
クラスメイトは全員殺人鬼――まずはこの設定です。

タイトルは「PSYCHO LOVE COMEDY」の略。「サイコ」はサイコパスとかサイコキラーとか(これらは正式な用語ではなく、色々と問題も多いのですが)を念頭に置いているのでしょう(あるいは映画の『サイコ』か)。
しかし、そう思って見ると聞き捨てならないものがあります。

(最悪だ……マジでやべぇよ、この学校。どいつもこいつも、イカれてやがるぜ)
 こんな狂人だらけの学び舎に、京輔みたいな一般人がいていいはずがない。
 (水城水城『サイコメ1 殺人鬼と死春期を』、エンターブレイン、2013、pp.31-32)


ですが、「結果的に殺人を犯した」ことと、「イカれて」いるとか「狂人」であることとはどこまで等置できるものでしょうか。

憎しみ等々で誰かを殺したいとか、殺せるんじゃないかと思うことは、多くの人間にある、珍しくもないことでしょう。それを実行に移すか否かに違いがないとは言わなくとも、どれだけの違いがあるかは慎重を要します。さらには、まかり間違って人を殺してしまうというのは、殺人事件の中でも多いケースです。
いや、たとえ平然と人を殺せるくらい倫理観が欠如しているとしても、それは「異常」なのでしょうか。人はそこまで倫理的であって当然なのでしょうか。

が、こうしたことを気にするのは、この作品に関してはいくつかの点で杞憂と思われます。

まず第一に、実際には殺人を犯していない人間としては、殺人者と自分とは別種の人間だと思う(思いたがる)ものです。
そうして京輔の心情表現としては、上記の文章はごくまともなものでしょう。

第二に、本作の主題は必ずしも狂気ではないからです。
そもそも、「オレはまともじゃないぜ」と吹聴している人間がたいてい自分を特別に見せたいだけの小心で平凡な人間であるように(※)、外見(そとみ)と内面の狂気とは別物なのであって、真剣に狂気を描くつもりなら一番不要なのは、「全員が殺人鬼」というハッタリの設定です。

※ このことは本作の2巻中でも語られます。とりわけ周囲が全員殺人鬼という状況下にあって、自分がいかに並外れた殺人鬼であるかを誇張したがる人間が多いという……

そして第三に、これは1巻の後半で明かされる真相に関わることですが、プルガトリウム更正学院はただの矯正施設ではないのです。
この真相を知れば、いかにも再犯可能性の高そうな、すなわち平たく言えば「ヤバそうな」連中ばかりが集まっているのも納得できます。
(この真相が明らかになると同時に、京輔が――無自覚ながら――やたらと強かったりするのも意味のある設定だったのだと分かります)

要するに、「平然と犯罪を犯せる」という程度の、精神病理学的にはライトな意味での、犯罪から離れた世界で生きている人間の感覚としての「サイコ」なのだと、そう考えていただきたい。


長々と話をしましたが、ではこの作品が何なのかと言えば、後半「ラブコメディ」の方です。
例によって、全員殺人鬼である生徒達の中には美少女もたくさんいて、京輔はモテます。

サイコメ1
 (カラー口絵より)

クラスメイトだけではありません。ガスマスクという強烈なインパクトのメインヒロイン・氷河煉子(ひかわ れんこ)は京輔の隣のクラスですし、2巻の表紙を飾る紗魔夜沙姫(しゃまや さき)は上級生です。2巻で結構出番のあった煉子のクラスメイト、ボブや千尋もいい味を出していました。

話の構造としては、京輔の12人殺しというのはプロフィール上、同級生の中でも抜きん出ているので注目され、それで(良きにつけ悪しきにつけ)京輔に接近してくる生徒もいます。しかし京輔自身は冤罪で人など殺していないので、周りが殺人鬼ばかりの中で内心脅えつつ虚勢を張って過ごさねばならないわけです。
そして殺人鬼であるはずの美少女たちは、ガスマスクという不気味な外見の煉子はノリのいい子ですし、不良風の紅羽鋭利(あかばね えいり)は女の子らしい可愛さを見せたりします(まあ逆に、「図らずも人を殺してしまった」だけの一見大人しい子が「ドジで人を殺す」という娑婆に出してはいけない恐ろしい才能の持ち主だったりもしますが)。
殺人鬼という設定とのギャップゆえになおさら可愛い、というわけです。

この辺、『僕は友達が少ない』の小鷹が外見で不良と思われて恐れられ避けられる一方で、それをカッコいいと思い接近してくる奴もいるという事態や、「残念な美少女たち」という設定と構造を同じくしていることが分かります。
設定はぶっ飛んでいるようでいて、ラブコメの基本はきちんと押さえているのです。

と同時に、本作は「モテても嬉しくない」設定でもあります。何しろ殺されては元も子もありません。
とりわけ、1巻の終盤で煉子との間に成立する「京輔の方から彼女を愛したら、その時こそ殺される」という設定は見事で、これでは喜べません。
他方で、美少女たちの中に実は殺人を犯していない子がいるのは不公平な気もしますが……(彼女相手ならリスクがないですし)


さて、このように「ハーレムを素直に喜べない、あるいは主人公にとってそれほど重要でないものにする」というのは、近年のハーレムラブコメにおいて少なからぬ作品に見られる問題意識ではないでしょうか。
もちろん、主人公としてもモテたい、実際にモテた、めでたしためでたし――だけでは話にならないわけです。
そこで男女のすれ違いを描く、というのは古典的な恋愛ストーリーの形でしょう。
しかし、ハーレムラブコメにおいては「ヒロイン達の好意が主人公の方を向いている」という構造自体は早期に確立されるわけです(無論、まず「ハーレムラブコメ」の定義の問題はありますが)。
では主人公自身はどこを向くのか、と言うと――ヒロイン達とは別の方向、という形になるのは自然な成り行きだったのかも知れません。


ちなみに、京輔が家に残してきた妹・綾花(あやか)の不穏な動きは1巻から描かれていましたが、本格的に動いたのは2巻の最後、そして今度の3巻でようやく綾花の出番になりそうです。

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Author:T.Y.
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