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その手に摑み取れるものは何――『僕は友達が少ない 9』

今回取り上げるライトノベルは『僕は友達が少ない』の新刊です。
巻数表示は9巻ですが、8巻と9巻の間に出た『CONNECT』も順番通りに読まれるべきものなので、シリーズ10冊目になります。

僕は友達が少ない9 (MF文庫J)僕は友達が少ない9 (MF文庫J)
(2013/08/27)
平坂 読

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 (前巻――ナンバリング外――の記事

8巻から数えて1年と2ヶ月、『CONNECT』からも8ヶ月ぶりの新刊で、この間に――どうやらイラストレーターのブリキ氏の病気で――発売延期もありました。
ちなみにカバー折り返しにあるブリキ氏のコメントは1巻が「家から100メートル程の駄菓子屋に行くだけで息が切れます……歳ですね」、2巻では「家から80メートル程の自販機に行くだけで息が切れます……歳ですね」と次第に悪化していき、7巻では「朝起きるだけでも息が切れます」、8巻では「夢の中でも息が切れます」となり、『CONNECT』では「ZZZ……(ひどくうなされているようだ)」の一文だけになっていました。
さて9巻ではというと、「危うくここに書いてある通りになりそうでしたが、ぎりぎりセーフだったので良かったです」と。
原作者の病気もありましたし、何かと受難のシリーズです。


さて、ストーリーそのものは(『CONNECT』は短編集なので)8巻の続きです。
8巻は星奈がうっかり小鷹に告白してしまい、小鷹は一度は思わず逃げ出すものの、理科とぶつかり合いの末に友達になって、星奈の告白に向き合う決意をする――というところまででした。

これは、グループ内の誰かと誰かが恋人として付き合い始めることは人間関係に決定的な影響を与えずにはおかない――サークル内恋愛は火種である――という問題であると同時に、ハーレムラブコメの終盤に付き物の「誰かを選ぶ」という問題でもあります。

これが恋愛シミュレーションゲームであれば、「攻略対象」の女の子達が何人も並んでいて、途中過程では何人もに「(恋愛)フラグが立つ」こともあるが、最終的に誰かのルートを選び、それ以外の相手に立ったフラグは「折って」回ることになります。
しかし、機械的にフラグを折って回ることができるのはそれがゲームのシステムだからです。
現実には…という以前に、フィクションであっても、恋愛物の締めでそうした「機械的な操作」を感じさせるのは、かなり不自然なことになりかねません。

もちろん、誰かと付き合えば他の誰かと付き合う可能性を失うのは当然です(二股以上をかけたり、一度付き合った相手と別れて別の相手と付き合うといった可能性もありますが、そこはひとまず措いておきましょう)。
しかし問題は、そこでどこまで「主体的な選択」というものが可能か、ということではないでしょうか。
恋愛シミュレーションゲームにおける盲点――男友達の存在――を衝いた時から私は着目してきましたが(「隠蔽されるホモソーシャル」参照)、『僕は友達が少ない』はこうした恋愛シミュレーションゲーム的構造――おそらくそれを踏襲していることは「ハーレムラブコメ」の特徴でしょう――に対するメタ的問題意識を先鋭に見せてきました。とすれば、この問題と向き合わないわけにはいきますまい。


たとえば、『電波女と青春男』(入間人間)では、最終巻の一つ前に分岐エンディング(全て妄想ですが)をやるという、かなり実験的な内容になっていました。
どのルートもそれぞれの相手といちゃいちゃしていて幸せなのですが(バッドエンドもありますがそれは別で)、ただ誰かと付き合えば、他の女の子達とは疎遠になっていくという一抹の寂しさをも感じさせるものでした。
その上で、現実の最終巻で真は、もうしばらく今の皆との関係を維持することを選びます。最後まで恋愛は主題でなかった感もあり(最近Webで公開された後日譚では、案の定エリオと結ばれていましたが)。

ここでは他の相手との関係は「自ずからフェードアウトした」ことを思わせる記述になっています。単独の締めとしては弱いかも知れませんが、まあ自然と言えば自然です。
そもそも――繰り返しになりますが――十分に幸福だけれど当初の意からするといささか不本意な状況に放り込まれてしまった悲喜劇こそが『電波女』の主題でした。未来が多様な可能性に開かれているとしても、それを意のままに摑み取れるとは限らない、というのは相応しかったのではないでしょうか。


閑話休題。
『僕は友達が少ない』ではどうでしょうか。
小鷹は逃げるのをやめて、確かに自分の意を伝えます。ただ、結論は現状維持でもあります。
これはある意味では先延ばしの感もありますが(いずれにせよ現状はいつまでもは続かないのですから)、きわめて積極的で主体的な「繰り延べ」という選択でもあります。ことは両義的です。
そもそも後で、他の回答をしたら断られていた可能性も示唆されています。
「相手から告白してきたのだから、それを受けるのも断るのもこちらの自由でできる」――と、形式論理的にはそう考えたくなりますが、おそらくそういうものではありません。

「はい。……星奈先輩も単純なようで意外と複雑でめんどくさいようです」
「……そんなの誰だってそうだろ。人間なんだから」
 (平坂読『僕は友達が少ない 9』、メディアファクトリー、2013、p.104)


実のところどれだけ選択肢があったのかは、つねに微妙な問題なのです。

そして小鷹の選択は、三方一両損の様相を呈します。

『誰かを傷つける覚悟』なんて、本当に最後の最後までしたくない。
 自分が我慢して、他人にも我慢を強いるというこの道が、全員を最高に幸せにできる方法じゃないのはわかってる。
 しかし、俺も星奈も理科も幸村も小鳩もマリアも夜空も、全員が三つ星の満足を得られる方法なんて、今の俺には残念ながら思いつかない。
 誰かが最高に幸せになることで他の誰かが不幸になるくらいなら、俺は、みんなが星二つ半くらいの幸せになるちょっと残念な道を選びたい。
 隣人武が誰も我慢せずありのまま居られる場所だというのは、俺の幻想に過ぎなかった。
 理科とのケンカで、その幻想は打ち砕かれた。

 ――我慢せずありのままで居られる場所を壊したくない!? はいはいそりゃ立派なお考えですね! でもそれは間違ってます!
 ――だってあなたが我慢してるじゃないですか!

 理科の叫びが頭に蘇る。
 たしかに俺は、本当は我慢していた。
 俺にとって隣人部は、我慢せずありのままで居られる場所なんかじゃなかった。

 俺にとって隣人部は、本当は――我慢してでも居たい場所だったのだ。
 (同書、pp.43-44)


もちろん誰しも、「皆が幸せになる、正しい解決」を求めたくなります。
しかしそうそう上手く行くことは少ないものです。そんな時、「誰にとっても程々に正しくない解決」こそ、共同体を成り立たしめる鍵であったりするのです。


そして、色々あり少なからぬ変化を経験しつつ、ふたたび隣人部のメンバーが揃って遊ぶ場面も訪れます。
今回は2巻で登場したバーチャルリアリティゲーム「ロマンシング佐賀」がふたたび。

本作の技法の一つに「反復」があります。1巻でギャルゲー、5巻で乙女ゲーをやったりと、似たような話を繰り返して、そこにある変化を印象付けるのです。
日常生活は同じようなことの繰り返し、しかしまったく同じ経験は二度とない――そんな事態を見事な手腕で描いています。
もちろん、そういう場面でのギャグの冴えも相変わらず。


それから、色々あって隣人部と生徒会で合同の温泉旅行となります。
つまり外部の共同体との接触ですが、ただこの接触そのものが大きな変化をもたらすというよりも、隣人部の中での絡みや生徒会との絡みを通して全体として人間関係の細部を印象付けているという感が強いですね。
色々と新しい組み合わせの人間関係も見られて楽しめました。

まあ作者もあとがきで言っている通り、全体としては仲の良いグループの中でも仲の良い組み合わせとそうでない組み合わせがあったりするわけです。
そもそも「友達の友達は友達ではない」ことは、友達というのが固有な他者との固有な関係であることの必然的な帰結です。
ただしだからこそ、必ずしも仲の良くない組み合わせも含めて皆で上手くやっていける共同体こそ「良い共同体」であるとも言えるのでしょうが。

そしてストーリーに戻ると、そんな中でようやく、今まで不明だった夜空の過去も明かされます。
「旅に出た」結末も情けないもので、自ら「堕ちるところまで堕ちた」(同書、p.160)とまで宣言した夜空ですが、何もかも失ったことを受け入れ、小鷹ともうかつてのような関係でないことを受け入れる彼女の姿は、何とも言えぬ余韻とある種の成長の兆しを感じるものでもありました。

ところで、今巻の表紙向かって左は完全に新キャラ、生徒会の神宮司火輪(じんぐうじ かりん)です。ストーリーへの関わり具合は今のところ微妙な彼女ですが、何だかんだで夜空が愛されている(もっぱら同性に、ですが)ことを印象付けるのに一躍買ったキャラではありました。さてどうなることでしょう。
ちなみに夜空と小鳩の関係など、たとえば5巻で夜空と理科が適当なことを言ってマリアを脅しているところに小鳩まで乗ってきたりする辺り(5巻、pp.37-38)で息の合いそうな気配はあり、8巻で目立った動きを見せて、そして今回と、時間をかけた密かな動きが見事に蓄積した成果となりました。

今巻の最後で小鷹は「俺に、夜空を助けさせてください」(上掲9巻、p.261)と申し出ます。
しかしここで、星奈の父・天馬氏のこんな述懐が思い起こされます。

「私はあれを、守ってやりたいとか救ってやりたいとか、幸せにしてやりたいとか考えいたのだが……おこがましかったのかもしれんな……。……『彼女』もあれも、守るまでもなく一人で強くなり、俺の知らないところで俺ではない男に救われ、俺の手を離れたところで幸せになってしまった――」
 (同書、p.210)


もちろん、両者は全くの別件なのですが、共鳴を見て取らずにはいられません。

「可哀相な女の子を救う」というストーリーはどこまで意味を持つのか。実力の有る無し以前に、人は何をなし得るのか――まだまだ、楽しみは尽きません。



ここで締めていいのですが、以下はより重要なネタバレに関わる内容を少しだけ。



夜空の過去――それは両親の離婚でした。
そして、夜空が「リア王」として忌み嫌う生徒会長・日高日向は夜空の実の姉で、夜空は母に、日向は父に引き取られたのでした。離婚の背景には、父の浮気があります。

ここで、夜空が女性性を感じさせる格好を嫌っていた理由も明らかになります。

「小鷹。私は女が嫌いだ」

 不意にぽつりと、吐き捨てるように夜空は言った。
「明るくて優しい誰からも好かれるようないい人が、友達から夫と娘を奪った――私から父親と姉を奪った。普段は綺麗で物静かな母親が、父親やあの人を悪魔のような形相で罵倒する。友達の素晴らしさを私に教えてくれたその口で、かつての友達を口汚く罵倒するんだ。私は自分が女であることが嫌になった。だから私は……ソラになった。男に変身すれば、テレビのヒーローみたいに真っ直ぐに生きられるんじゃないかと思ったんだ。それなのに……」
 (同書、pp.258-259)


小鷹の幼馴染「ソラ」は、多勢に無勢でもいじめられている者を助けに入るような正義感あふれる子供でした。
それがどうして今の夜空のような駄目人間になってしまったのか――とは、誰でも抱く疑問でしょう。
その理由は家庭の事情から来るトラウマである――と言うなら話は分かりやすいのですが、しかし上の引用文から分かるのは、ソラとして小鷹に出会った時の彼女はすでに、父親の浮気相手や母親に由来する女への憎しみという闇を抱いていたということです。

そして、「百人分大切にできるような本当の友達を作りなさい」と夜空に言った母親と、夜空にトラウマを植え付けた母親は同一人物です。

ここには、「何か劇的なトラウマがあって、その前後で人は変わる」というモデルに対する異議があるように思われます。
「あの件以降の彼女は別人だ」等と単純なことが、どうして言えるでしょうか。

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テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

No title

著作権もあるのに余りに引用しすぎなのでは

Re: No title

きちんと「地の文」が存在する中で、出典箇所を明示して引用するならば、そして元々のテクストの量に対してこのくらいの引用量に留まっているならば、基本的には合法です。

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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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