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小さな実践の意義――『里山資本主義』

読んだ本の話でもしようかと思いましたが、あまり詳細に書いている余裕もありませんので軽く。

里山資本主義  日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21)里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21)
(2013/07/10)
藻谷 浩介、NHK広島取材班 他

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「里山資本主義」とは何か。
本書中の実例を見ると、たとえば木材の製材所で出た木屑を燃やして発電に使用すると、今までお金をかけて処分していた木屑を自分のところで利用した上、電気代も払わなくて済むばかりか、余った電気を売ることまでできるようになるのです。
もちろん、そのためには専用の発電施設を工場内に建てねばなりません。おまけに施設は作った後もメンテナンスが必要ですから、それで採算が取れるかどうかはつねに保証の限りではありません。
ただ、本書中では成功している事例が取り上げられています。最近は自然エネルギーの活用が推進されるようになって、電気の買い取り価格が上がったのも大きいとか。

これは単にマネーの動きという観点から考えると、今までお金を払って買っていたものを自給するようになったのですから、大きな取引が消滅してしまうことになります。GDPもその分減ります。しかし、その会社は豊かになっているのです。
これを小さな地域内でやれば、その地域が豊かになった分、新たに雇用を生み出すこともあります。市場を通さない取引はGDPには数えられず、マクロでの経済規模は縮小していますが、しかし地域の経済はむしろ活発化しているのです。
著者たちが「マネー資本主義」に対して「里山資本主義」を唱えるのは、そういうわけです。

もちろん、「マネー資本主義」を全面否定する、どちらに与するか、といった話ではありません。
できる範囲でそういった実践を取り入れていく、という話です。

とは言え、木屑のようなバイオマスエネルギーを活用していっても、全面的に石油や原子力を代替できるかといえば、そうは行きません。
本書では、林業国オーストリアで木屑から作る「ペレット」の利用が国レベルで推進されているのを「里山資本主義」の成功例として挙げていますが、現在のオーストリアの繁栄がどこまでそれに負っているのかも慎重に考えるべき問題でしょう。

しかし、それでも本書の提供する考え方で重要なのは、マクロなレベルでより多くのお金を回せば皆が豊かになる、という考え方に対するアンチテーゼとして“小さな実践”を立てることの意義です。
数字の上で日本全体が好景気だというのがどこまで生活実感に結び付いていたのか、という指摘も大きいですね。

最後に現状批判の引用を。

 確かに、際限なくお札を刷ればいつかは必ずインフレになる。実際問題、過去十数年間続いた金融緩和によって既に世の中に出回った貨幣供給量を考えれば、とっくにインフレになっていてもおかしくないというのが、多くの金融機関の実感だろう。「回るはずのツマミが回らないので、ついにはヤットコを持ち出してえいとばかりにひねっていたら、土台ごとバキッとねじ切れてしまった……」というような感じで、さらなる金融緩和の末に突然に極端なインフレが起きるという可能性もある。
 そうなれば円安となって輸入品の価格が高騰し、輸入原材料・燃料を使う多くの商品の価格が上がってめでたく「デフレ脱却」だが、その場合お金は消費ではなく外貨投資に流れ(ギリシャが正にそうなった)、日本経済は今度こそ本当に衰退してしまう。
 インフレがそのように急激にではなく、緩やかに始まるという根拠はあるのかといわれれば、「リフレ論」にはそれを保証するほどの理論的成熟も実証データの蓄積もない。間違ってインフレが加熱したときにそれを制御できる方策があるのかと問うと、「現に日銀がこれだけ長期のデフレをもたらしているのだから、今度は日銀が金融引き締めをすれば簡単にインフレは収まる」という答えが返ってくるのだが、そもそも「今のデフレは日銀のせいである」という説が正しくない限りは、彼らの言う対策も効きそうにもない。これは結局、信じる人は信じるという話で、賛否の議論が「神学論争」と呼ばれるゆえんである。
 ただリフレ論の信者に、ある共通の属性があることは間違いない。「市場経済は政府当局が自在にコントロールできる」という一種の確信を持っていることであり、これを筆者は「近代経済学のマルクス経済学化」と呼んでいる。昔ならマルクス経済学に流れたような思考回路の人間(少数の変数で複雑な現実を説明できる、コントロールできると信じる世間知らずのタイプ)が、旧ソ連の凋落以後、近代経済学に流れているということかもしれない。
 (藻谷浩介、NHK広島取材班他『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』、角川書店、2013、pp.268-269)


この箇所の著者は『デフレの正体』藻谷浩介氏。
氏の分析には異論も多いのですが、少なくとも「政府による経済統制」の考えの奇妙な形の回帰という点に関しては、私もある程度まで意見を同じくします(たとえば農業の件など…)。

そして私は単純ながら、経済規模が大きくなればなるほどコントロールなどできなくなるという方に、説得力を感じますので……

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
(2010/06/10)
藻谷 浩介

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コメント

No title

ケインズはマルクスを口を極めて罵ってますけど、マルキストのもっとも忠実な弟子はケインジアンなのかもしれない、と思いました……。

そしてわたしが惹かれるわけも。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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