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シュールで切なく、そして暖かい――『マカロン大好きな女の子がどうにかこうにか千年生き続けるお話。』

先月半ばにフランスに注文した本がようやく届きました。
確かに今回は8冊と多めで、箱もこの通りの大きさでしたが、それにしても発送が遅めでした。

フランスより8冊1

フランスより8冊2

もしやAMAZONフランスも夏休みだったとでも言うのでしょうか。

 ~~~

そんなこととは特に関係なく、今回も取り上げるのは日本のライトノベル、この作品です。

マカロン大好きな女の子がどうにかこうにか千年生き続けるお話。 (MF文庫J)マカロン大好きな女の子がどうにかこうにか千年生き続けるお話。 (MF文庫J)
(2013/08/22)
からて

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最近のライトノベルにおいて、WEb小説出身作品は珍しくなくなりましたが、本作は小説投稿サイトではなく「某巨大掲示板」に掲載したものを作者のブログにまとめていたものが編集者から声をかけられて出版という、珍しい出自の作品です。
デビュー作が短編集というのも珍しく、4本の短編を収録しています。
一応、第1話と第3話の内容は繋がっており、また最後の第4話には全ての話が作中人物の書いた作中作であることを匂わせる記述もありますが、あまり本質的ではなく、おおむね独立して読める内容です。

第1話にして表題作の「マカロン大好きな女の子がどうにかこうにか千年生き続けるお話。」では、主人公の女の子(通称「マカロンちゃん」)が事故で1000年後にタイムスリップしてしまった友達「みーこ」に会うべく、不老不死になる実験に志願し、本当に不老不死になって1000年を生きることになります。
ちなみに、「みーこ」は「研究所」で「一番頭の良かった」とありますが、難しいことは分からないタイプの主人公どう見ても研究員として研究所に所属している人間ではなく、二人の関係は「友達」という以上のことは不明です。
むしろ、この作品はそうした「細かいこと」を問う余地を与えません。

1000年の間に奇病やら温暖化やらエイリアンの襲来やらで人類は何度も滅亡の危機を迎えますが、主人公は――不老不死なので平気なこともありますが――その一切に興味を持たず、ただマカロンを食べてバカンスをする生活を送るのみです。
主人公は不老不死の体質や思いがけない発見によって、何度も危機に救済をもたらすのですが、本人はそのことに気付いていませんし、また人々も救済がいかにしてもたらされたのかを知りません。
平和を達成し、全てを知り尽くし、宇宙の外にまで行ってしまう壮大な人類史が描かれますが、主人公は無頓着です。

まず、不老不死の実験は最初こそ「IPS細胞だとかES細胞を使い、テロメアを強引にどーのこーのして遺伝子をぐっちゃぐっちゃにしてしまう」(p.18)とか少しはSFらしいことを言っていましたが、不老不死になった主人公は何百年も経つと、太平洋をバラフライで横断したり深海で生活したりできるようになるのですから、理屈を問う方が虚しいというものです。

しかし、では何も考えずに読めばいいかと言うと、本作にはそれだけで済ませないブラックさがあります。
たとえば以下のような描写。

 組織の実験場で彼女には友達がたくさんできた。

 のんびりしているまーちゃん。
 好きな男の人を援助するために夜のお仕事をしていたんだけど、効率が悪いからこの実験をやりに来たのだとか。その男の人の話をする時、まーちゃんはいつも幸せそうな顔をしていた。それでも時々まーちゃんは寂しそうに実験場から見える夜空を眺めていたんだ。

 いつも怒っているけーくん。
 馬を見るのが大好きで、毎日馬が走っているのを見ていたら何故かお金がなくなってしまいここに来たのだとか。この実験が終わっていっぱいお金をもったら、また馬を見たいなぁって言っていたんだ。

 いつもあわあわしているゆーちゃん。
 吸うとハッピーになる草を育てていたら偉い人に怒られちゃったらしい。でもその後も懲りずに国の人達がみんなハッピーになりますようにと、その草の種を国中の河川敷にばらまいていたら、いつもなにかここに連れて来られたんだとか。お金をもらってここから出たら、世界中の人がハッピーになれるよういろんな国へ種をばらまく度に出るんだって。
 (からて『マカロン大好きな女の子がどうにかこうにか千年生き続けるお話。』、メディアファクトリー、2013、pp.21-22)


困窮者や犯罪者を集めて穏やかならぬ実験を行っている施設、それがその実態を知らない視点から無邪気な文体で描かれているのが、いっそう不安を募らせます。
このブラックさは、少なくとも第1話の全体を密かに貫いているものです。

そもそもこの実験施設、国に摘発されるような実験をやっておきながら、その成功例である主人公をあっさりと逃がしてしまいます。
宇宙の果てまで知り尽くすに至った人類は、一人の少女が自分たちを何度も救ってきたことを知りません。いやそもそも、身近にいる不老不死の少女の存在そのものを知りません。
何とも皮肉めいた話です。

『涼宮ハルヒ』や『ケロロ軍曹』のような物語においては、日常の中で人知れず世界の命運を賭けた戦いが繰り広げられています。
本作の場合、世界を救う中心にいる本人が誰よりもそのことを知らないという点で、それらの作品とは逆を行きますが、日常と世界の命運の奇妙で直接的な接触というモチーフには確かに通ずるものでがあります。
世界の命運は誰も知らないところで、冗談のような形で決まっている。

4つの物語に共通して言えることですが、どんでん返しのような強烈なオチはありません。
第1話の場合、主人公は最後にみーこと会えます。気ままに生き続け、長い旅の果てに友達と会えた、少し切ない物語、言うなればそれだけです。
しかしそれが人類史を奇妙に交錯することで、語の本来の意味でシュールな話(※)を作り上げています。

※ 「シュール」の語源たる「シュルレアリスム(surrealisme)」〔=超現実主義〕の接頭辞 sur は「上に」「越えて」を意味しますが、この場合の「超現実」とは単なる現実の否定ではなく、むしろ「現実」を強める意味があります(巖谷國士による)。強い現実、それこそ常識からすれば奇異なものです。


第3話「ぱらぽろぷるんぺろぽろぱらぽん」は、第1話で人類を脅かしたエイリアン「ぱらぽろぷるん」が主役のラブコメです。
ヒロインはツンデレで、お姫様で許婚がいるという身分違いの恋、さらに主人公の幼馴染は主人公のことが好きだけれど憎まれ口を叩きながら主人公の恋を応援していて、主人公は幼馴染に対しては鈍感……実に定番のラブコメです。
主人公が76個の瞳と3504個の心臓、3億の吸盤のある3000の触手を持ったエイリアンで、ヒロインも35の顔と70の消化器官、3000の腕を持つ(途中でもっと増える)ということを除けば……
確かに話は普通のラブコメ、けれどそこに嵌め込むモチーフにより醸し出される違和感。

そんなわけで地球人を滅ぼそうとしたエイリアンにも悲しい過去があった……ということなら考えさせる話になるかも知れませんが、悲しい、とも言い切れない内容なのがまた絶妙なバランスです。
地球人は地球人なりに、エイリアンはエイリアンなりに当たり前に生きた、これはおそらく、ただそれだけの話です。


第2話「彼女はコンクリートとお話ができる」は、不治の病に犯された主人公が一人の女の子と仲良くなる物語。
ちなみにタイトルの「コンクリートとお話ができる」能力は作中ではまったく発揮されません。
地の文に書いてあるのだから本当なのだろう、という推測は成り立ちますが、「そういう能力があると自称する変な女の子に出会った」話だと見なしてもまったく問題ない辺りが、推測の予知を残す妙手でしょう。

第4話「嘘つきセミと青空」は、仮面浪人をしている主人公のもとに「恩返しに来たセミ」を名乗る少女が現れる物語。

第2話と第4話はともに「ひと夏の恋」というモチーフも共通していますし、比較的普通の暖かくも悲しいラブストーリーですね。


さて、4つの物語はいずれも、最後に主人公かヒロインのいずれか、あるいは両方が死にます(第1話は男女のカップルではないので少し語弊がありますが、構造は同様ですね)。
「死に別れ」は「泣かせ」の定番ですが、死ぬのが主人公の方だったりヒロインの方だったり両方だったりと、バリエーションは付けています。

しかも基本的に、いずれにおいても「寿命」が関わっています(第2話の「不治の病」は少し違いますが、やはり構造は同一です)。
添い遂げて寿命で死別するのならこれ以上ないハッピーエンド、それ以上何を望むというのでしょうか。
いや、連れ合いを亡くした高齢者が急に弱る例もありますし、寿命と言えど別れは辛いものかも知れませんが、しかしそれ以上を望み難いのも事実です。

もっとも、二人の余命にあまりにも大きな差があると、残された者の喪失の大きさが際立ちます。
そうした人生の長さの違い、生きる時間の違いが本作の4短編を貫くテーマです。
けれども、命のある限り添い遂げたのだから――という点が、悲劇ばかりを強調せず、切なくも幸せな印象を作り上げているところでしょう。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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