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ただ一緒にいる、ということ――『安達としまむら 2』

今回取り上げるライトノベルは本日発売、『安達としまむら』の2巻です。

安達としまむら (2) (電撃文庫)安達としまむら (2) (電撃文庫)
(2013/09/10)
入間人間

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 (前巻の記事

今月の電撃文庫の新刊をゲーマーズで購入するとブロマイドが付きますが、まあ絵柄は表紙と同じなので、特典としては控え目です。

安達としまむら2巻ブロマイド

今回も1巻と同じく、『電撃文庫MAGAZINE』連載時のイラストはそのまま口絵に収録(今回、雑誌掲載されたのは2回だけですが)。
中身は全8話構成。しまむら視点と安達視点が交互です。内容的には、これといった事件も起こらないゆるゆるとした雰囲気は1巻から変わりません。季節は秋から冬になり、クリスマスを巡るエピソードが中心です。

前巻は全5話の内3話がしまむら視点で、特に冒頭2話が続けてしまむら視点だった後に安達視点で、しまむらのことを好きで悶々とするその内面を描くことで一気に百合作品としての本領を発揮する構造になっていました。
今回、両者の視点は均等に近いですね。基本的には時系列順になっている中で、二人がそれぞれお互いのためにクリスマスプレゼントを選ぶ二つエピソードは作中の時間としては同時進行で、大きな温度差や距離感の違いがありながら同時に同様の行動を取っている様が、見事に両者の対比を描いています。
しまむらが安達の母親と出会う冒頭のエピソード「しまむら ジムに行く」も、深刻とまでは行かないながらに浅からぬ溝を刻んだ親子関係を巧みに描いています。普段、自分からはあまり他者に近付かず、対人関係にそこまで労力を割かないしまむらが、安達のためにその母親と――控え目ながら――対決するのも印象的です。

さらに、ラスト2話を除く各エピソードの末尾には、しまむらの友人である日野と永藤の日常を描いたエピソードと、しまむらの妹が知我麻社(ヤシロ)と友達になるエピソードも3話ずつ挿入されています。
それぞれ、やはり百合小説としての期待に答える要素もきっちり押さえています。

日野は1巻でも安達の気持ちを察した上でアシストしている様子を見せていましたが、そんな彼女のいい子なのは相変わらず。1巻で判明していた趣味が釣りというのに加え、お茶の専門店でお茶を買い込んでいるなど渋いところも見せます。結構育ちがいいらしい節もあり。
永藤は物忘れが激しいとは描写されていましたが、今巻では発言のとぼけ加減がいっそう暴走しています。

 永藤が日野の言葉を無視して隣に座ってから、頭に手をやる。
 日野の柔らかそうな髪をぽんぽんと叩く。「んだごらぁ」と日野がだれかを真似るようにすごむ。
「さっきより小さくなっていない」
「あん?」
「いや日野がいつもよりい小さくなったから見失ったのかと思って」
 本当に迷子になっていたのか。呆れると同時に日野が永藤の頭を叩き返す。
 (入間人間『安達としまむら 2』、アスキー・メディアワークス、2013、pp.134-135)


保育園時代からの腐れ縁であるそんな二人の関係は熟年夫婦のような安定ぶりで、日野の安達に対する察しもそのお陰もあるのでしょうか。

ヤシロは……言っていることが本当だとしたら、この自称宇宙人の実態について追加情報が出てきたような、ますます訳が分からなくなったような。
布団に包まっている場面などはやはりリトルスマキンとの関係を思わせるものですが……


安達のしまむらのことを好きでたまらない感じは前巻よりもますます加速していて、でも同性でクリスマスを過ごすのは変じゃないかと葛藤し、不自然にならない範囲でどうしたら良いのかと悩みます。他方でしまむらは、そんな安達の内面はつゆ知らず。いや勘付きかけても、困るので気付かない風を装い、穏当なところで納得しつつ、付き合いは良いところを見せます。
以下は安達がクリスマスを一緒に過ごそうと誘うシーン(しまむら視点)ですが――

 なんで、と聞いてしまうとわたしたちの関係の脊髄がぐにゃりと曲がってしまいそうな気がした。それは治すのに多大な努力と手間暇が必要で、わたしはそこまでするのか? と考えると寒々しい答えがすぐに見えてしまう。だからその質問はできない。とはいえ、ねぇ。
 (同書、p.108)


「あ、別に大した理由はなくて、その、クリスマスっていうか、賑やかな日にだれかと、遊んでみたいのかな、かなじゃなくてそういうの、やってみたかったから」
「……ふぅん」
 そういう方向か。だれかと一緒にいたくて、かぁ。それだとわたしの考えた理由も案外、的外れではないのかな。まぁ安達の意見が嘘じゃないなら、ということが前提だけど。
 友達を疑うのはよくないな、うん。都合のいいときは、妙に信じてしまう。
 本来は家族に頼むべきなんだろうけど、この歳になってそんなことを素直に言えないし、安達の家庭事情を考えるとなおさらってところだと思う。
 だからわたしにおはちが回ってくる。他に友達がいないから。
 なんだ、消去法じゃないあ。
 ホッとするような感じだ。
 (同書、p.111)


この辺、しまむらは鈍感主人公を地で行っています(入間氏の作品の場合、男主人公の女の子の好意に多少は勘付きつつ、好かれる覚えもなく「まさかね」と打ち消すパターンが目立ち、しまむらもそれに近い線ですが)。
妹がいることもあって無頓着で、近付いてくる相手を受け入れる包容力はあるけれど、ガードが硬く対人関係に力を割きたがらない辺りなど、実は『僕は友達が少ない』の小鷹と共通しているところも多いです(ヤシロにしろ安達にしろしまむらにとっては妹のようものというところはあります。そして小鷹も妹のようなものが何人もできる男でした)。
「妹」は主人公のキャラを物語る要素にもなるのですね――というのさておいて。
まあ、同性だからこそこれで納得もしやすいし、納得したくなるのはよく分かります。加えて、短い尺の中で二人の視点を使い分けることでそうした人物造形を描きこんでいるのが見事なところでしょう。

ただ、そうして考えてみると、ヤシロや永藤のような変人としまむらの取り合わせはいかにも定番の「エキセントリックなヒロインとツッコミ主人公」風になるのです。
日野に言わせれば、しまむらはあまりノリはよくないのですが、その辺も含めて良い漫才になっています。

 ぽんぽんと、永藤が自分の大きな胸を叩く。自慢か、嫌味か。
「安心して。私、子供の心が分かるタイプだから」
「……子供はあんたの心が分からないと思うけどね」
「カレーは必ず甘口を食べるし」
「しか食べられないの間違いじゃないの」
 (同書、p.168)


しかし安達はボケ要員ではありません。むしろ外見は無愛想なタイプです。
このこともまた二人のズレを象徴しているようでもあり、他方で一緒に過ごす時間が「だらだらと適当に過ごす」ものにしかならないことが、そんな時間が特別なものになり得ることを物語っているようでもあり――

これは今回のプレゼントに関してもそうで、プレゼントの内容はかなり思いがけない方向に行ってしまったりもしましたが、大切な人が自分のために選んでくれたというのが意味を持つのです。

【追記】
本作が視点の変更を活用して描き出しているポイントの一つは、内と外の差異でしょう。
表明すれば受け入れられない可能性も高い想いも、内に抱いているのはどうしようもありませんし、責められることでもありません。もっとも、その想いを抱えてどう行動するかは大問題なのですが……
また複数の人間同士の関係も、当事者にとっては、すなわち内輪では当然のことが、傍から見れば理解しがたいこともあります。
日野は付き合いが長すぎて、永藤が変だと気付くのに結構年月がかかったようですし、そんな日野と永藤の付き合いはしまむらには付いていけないものです。

「内」には閉じた世界があります。
そうした内のことと外から見える像は決して一致しませんし、一致させようとすべきでもないのです。

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