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部活は誰のため――『部活アンソロジー2 「春」 』

発売日からすると少し遅くなってしまいましたが、今回取り上げるライトノベルはファミ通文庫『部活アンソロジー』の2冊目です。

部活アンソロジー2 「春」 (ファミ通文庫)部活アンソロジー2 「春」 (ファミ通文庫)
(2013/08/30)
野村美月、ほか 他

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収録作品を順次見て行きましょう。

まず野村美月「鑑賞部の不埒な倫理」は、表向き美術部に所属しつつ、美術室から向かいの教室のある女子を「鑑賞」している男子高校生が主人公。しかしやがて、美術部内に目的を同じくする人物がもう一人いることを知り……
それぞれ別の相手に片想いしている男女が出会って、お互いの恋を応援したりし、やがて当初の本命ではなくよりも互いに惹かれるようになる……というのはある種の定番で、名作『とらドラ!』のような先例もありますが、ただこれは短編なので、本命との告白イベントといったところまで一気にやります。
しかしその結末はいささか捻れたもので……あとがきで実話に基づいている旨を読むと割と納得するものがありました。
以前にも少し触れましたけれど(「その手に摑み取れるものは何――『僕は友達が少ない 9』」にて)、特に自分からはアプローチすることなく異性に好かれている人がいたとしたら、それは「アプローチをしていないこと」込みで好かれているのですから、アプローチをかけたらフラれる可能性もあります(言うまでもなく、あくまで「可能性」でって、そうでない可能性も十分にありますが)。(※)
その辺の機微を描いたと思えばなるほど、と思える内容でした。


日日日「根暗男子のバスケットボール」は、中学のバスケ部が舞台。運動系の部活を主題にしているのはこれ1本ですね(そう言えば『部活アンソロジー「青」』の方も運動部を描いたものは「サルと踊れば」1本でした。あちらも舞台は中学)。
実力に関係なく気に入りの生徒を贔屓する暴君の顧問が君臨するバスケ部で、主人公はほとんど諦めて腐っていましたが、真っ直ぐな後輩の姿に動かされます。
別に公式戦で活躍するとかではない、練習試合で何とか出させてもらってレギュラーを尻目に活躍することで不当な扱いをしてきた顧問を見返してやるという、範囲としては小さい話ですが、それが「嫌な奴をやりこめる」青春小説のカタルシスとして見事に嵌まっています。
日日日氏にしては人間の黒い部分やえげつなさは控え目(顧問はろくでなしですが)、真っ当な青春小説です。あとがきによれば私小説だとか。


田尾典丈「インセンシティ部」は、恋愛相談に答え、くっ付きそうでくっ付かないカップルをきちんとくっ付けて「ラブコメを終わらせる」部活の話です。
要するに、恋愛相談の内容がもっぱらラブコメの鈍感主人公のような男に関するものなのです。
作中で展開される鈍感主人公の心理分析は妥当で、十分に説得力があります。
そもそも、漫画やライトノベルでは記号表現が定着しているがゆえに「この女の子はこの男に好意を抱いている」ことが疑いの余地なく分かり、それに気付かない鈍感は時に不自然にもなるのですが、現実には(※)「この子は自分のことを好きなんじゃないか」と思ったのが勘違いや自意識過剰であった例は枚挙に暇がありません。
そして、そういう事例を知っていればなおのこと「まさか」と否定したくもなります。
そうした心理の話は面白いのですが……まあ、オチは非常に読みやすい作品でしたね。

※ この「現実には」という言い回しを使ってしまうと、「現実はそうでも、フィクションは違っていていいじゃないか」という反論も出てきます。
しかし、そのような「フィクション」と「現実」を対置する言い方自体が「現実を参照軸としてフィクションを読む」という(実は当たり前でない)姿勢を前提としており、かなり問題の多いものです。
その意味で「現実には」は言わない方がいいのかも知れませんが、まあこの件についてはまたの機会に。


田口仙年堂「輝け、モ部!」は、

「あっ、ほら……」
 彼女の周囲にいた女生徒たちも足を止める。
「見て、三年の東野原先輩よ。あの世界的企業トーグーグループの系列会社の社長令嬢なんですって」
「テニス部のエースなんでしょ? 去年のインターハイで準優勝ですって」
「やっぱりステキだわ~」
 (田口仙年堂「輝け、モ部!」『部活アンソロジー「春」』、エンターブレイン、2013、p.210)


といったモブキャラとしての活動をする部活を描いた作品です。
これは言うまでもなく漫画的演出であって(読者に対してでなければ、一体誰に向けて解説をしているのやら)、基本設定からして非常にメタ的な話ですね。
上記のようなさり気ない場面でも、的確な解説をするため裏でモブキャラは苦労していることを偲ばせます。
解説される「主人公」たちも、伝説のヤンキーがいたり、野球の必殺技でバットが燃えたり、「退魔格闘術」なるものをやっていたりとカオスです。この世界観はどうなっているのか、いや世界観を異にする色々な主人公がいるのか…?

まあ、こちらもオチは分かりやすいものでした。


岡本タクヤ「僕たちの部活動はまだ始まったばかりだ!」は、単行本化されている『僕の学園生活はまだ始まったばかりだ!』のプロトタイプとのこと。『僕の学園生活はまだ始まったばかりだ!』のスピンアウト短編「俺の部活動はもう始まらない」も同時収録です。
天才の主人公が、部活の取り潰しを狙う生徒会に頼まれて闇の部活と戦う話。そうして部活動に対して冷め切っていた主人公が部活の意義に気付く……と言えば青春らしいのですが、基本はバカバカしいことを押し通すギャグ作品ですね。
何しろ相手の部活が、たとえばこんな感じですから――

 ――地下三階、探偵部――
 地下三階を支配するという探偵部の恐るべき面々については、以下の通りである。
 神域に達した洞察力と推理力で、対面した女性の出身地や特技、食べ物や異性の好みはおろか、スリーサイズから下着の色までをも瞬時に看破することができる、探偵部部長の宮沢先輩。
 昼休みからの登校や午前中の早退を頻繁に繰り返しているのに、なぜか出席簿では皆勤賞になっている「アリバイトリックの魔術師」大塚君。
 密室トリックの魔力に取り付かれ、ついに自分の部屋を究極の密室と化して家から出てこなくなった「密室紳士」篠原君。
「篠原君はただの引き籠もりじゃないのか? ていうかそもそも探偵部って何? ミステリー小説研究会とは違うのか?」
 (岡本タクヤ「僕たちの部活動はまだ始まったばかりだ!」、同書、pp.267-268)


僕の学園生活はまだ始まったばかりだ! (ファミ通文庫)僕の学園生活はまだ始まったばかりだ! (ファミ通文庫)
(2013/06/29)
岡本タクヤ

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最後は石川博品「地下迷宮の帰宅部」。元々MMOに嵌まって、その中でも「PK野郎の集まるクズギルドの長」をやっていたタカヒロは、異世界に召喚されて魔王軍の将軍に任じられ、地下迷宮を仕切っているのですが、モンスター同士の仲が悪く、揉めてばかりいるのに悩んでいます。
そこでタカヒロの考えた解決策が「モンスターに部活をやらせる」こと。
そうして、元の世界で自分が生徒だった時には気付かなかった、部活を通して結束を育むことの意義に気付くのです。

……と、ここまでは(異世界ファンタジーになることこそ意外ながら)「部活アンソロジー」らしい王道ですが、しかしこの短編の最後は重いものです。
確かにモンスター達のあり方を変えて、結束を固めさせることには成功しました。そこに間違いはありません。
けれどもその後、自分はその結束の中におらず、変わってもいないことを思い知らされるのです。

 これまでの学校生活をふりかえると、俺は一度も部活をやったことがなかった。中学に入ると、部活に入るのが義務だといわれてみんな何かしらの部に参加した。俺は何もやりたくなかったのでどこにも所属しなかった。当然、教師に呼び出しを食らって死ぬほど説教された。「ワガママ野郎」とか「おまえみたいなのは社会でやっていけない」とか中一のガキにそれはまあひどいことをいってくれたわけだが、俺は意に介さなかった。
 中三になったとき、部活は義務でなくなった。人事異動で部の顧問をできる教師がいなくなったからだ。いくつもの部が消滅した。俺はそのとき悟った――部活動は俺たちのためでなく、教師のためにあるのだ、と。しょせんあいつらの都合でやめてしまえる程度のものなのだ。俺は部活動の教育的効果など信じない。
 (石川博品「地下迷宮の帰宅部」、同書、p.326)


けれどもタカヒロは異世界で、「自分のため」に部活をやらせる教師の立場になっています。
しかしそれはいかなる意味で「自分のため」にになっているのか、そこで教師の立場にいることは自分にとっていかなるプラスになるのか、そもそも部活は誰のためのものか……

成長物語と思われたところからもう一転してそんな問いを投げかけて、このアンソロジーの締めとなります。


『青』と比べ、割とファンタジー寄りの設定がある作品やメタが目立ちました(特に後半)が、なかなか良い作品揃いのアンソロジーだったかと思います。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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