オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
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極端な設定が導いたもの――『魔法先生ネギま!』
『僕は友達が少ない』に関して、ハーレムラブコメの主人公の男友達というある種の盲点(言い換えると、普通は主題にしようと思わないような当たり前すぎて「レベルの低い」悩み)を扱ったことに着目してきましたが、そもそも私がその問題を考えたきっかけが何であったか、最近改めて思い出しました。
赤松健氏の漫画『魔法先生ネギま!』(全38巻)です。
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そもそも、恋愛シミュレーションゲームではどのヒロインを選択するかプレイヤーが選ぶことができますが、ゲーム以外の媒体(漫画、小説、アニメ等)では選択はできません。
けれども、主人公が特定の相手と結ばれた後でも他のヒロインに当て馬を用意せず、皆を主人公に惚れさせたままにすることで、可能性が開かれているように見せる、それがゲーム的想像力を取り入れたラブコメのスタイルだ――と、この一つ前の作品『ラブひな』の頃に語っていたのは赤松氏自身であったのではないかと認識しています(当時の記録を調べてはいないので、間違いがあったら申し訳はりませんが。さらに、これはまさしく「セールストーク」であるがゆえに話半分という可能性も十分あるのですが)。
では『魔法先生ネギま!』はどんな作品であったかというと、主人公が女子校の先生に赴任する話で、ヒロインは前作より一桁増量、クラスの女生徒31人全員との触れ込みでした。
全員の顔と名前と若干の設定は第1話で見せてあります。

(赤松健『魔法先生ネギま! 1』、講談社、2003、pp.30-31、クリックで画像拡大されます)
主人公のネギ・スプリングフィールドはイギリス(ウェールズ)出身の魔法使いで、わずか10歳の少年。
荒唐無稽さもあることながら、この年齢の低さはラブコメとしても少々異色。ただ、可愛いので当初から女生徒たちに可愛がられてはいました。
第1話冒頭が魔法学校の制服からして『ハリー・ポッター』風で笑ったのをよく覚えていますが、冒頭のイメージだけだったような気もします。

(同書、p.3)
それはさておき、この作品、場合によっては1~2ページに1回くらいの比率で女の子のパンツとか裸とかが出てくる作品ではあり、そのことは最後まで変わりませんでした。
ただ内容は、バトル漫画へとシフトして行きます。
上の名簿からして、よく見ると武闘派キャラの比率が高かったりと、最初から予定は組んでいたようですが。
また、ネギには上から与えられた魔法使いとしての修行とは別に、10年前に行方不明になった英雄である父親を探すという少年冒険ものの王道らしい目的があり、その方向で壮大な物語が展開されるようになっていきます。
そうしたバトル・ストーリー漫画としての方向性を全面的に見せたという点では3巻が一つの転機でしたが、

(『魔法先生ネギま! 3』、2003、p.184)
この辺は当初の予定通りという感もあります。
私としては、5巻辺りにかなり重要な転機があった気がしています。
3巻は「クラスの生徒に敵がいた」という展開で、一応の勝利を収め、教師ものらしく問題児を大人しくさせると同時に恋愛上もフラグを立てたネギ先生、続く4巻からは修学旅行でいよいよ学外の敵と戦う展開になりました。
そして、5巻でようやく男の敵が登場します。それも、見るからにネギと対をなしそうな少年が二人。
喧嘩好きな獣人の少年・犬上小太郎(いぬがみ こたろう)と、

(『魔法先生ネギま! 5』、2004、p.110)
少し綾波レイ似の無表情な少年、フェイト・アーウェルンクスです。

(『魔法先生ネギま! 6』、2004、p.24)
この辺から戦闘シーンも肉弾戦が増え、また流血したりするハードな描写も増えて、バトル漫画らしい熱さを見せるようになってきます。
その後、小太郎は学園にやってきてネギの友達になり、フェイトは終盤まで宿敵として君臨することになります。
ここらでようやく冒頭の話に戻ってきます。
何しろ、ネギは異国から単身赴任です。一応、赴任先の学園にも高畑先生(大人の男性)というネギと旧知の仲の相手はいますが、ほとんど昔からの友達などはいませんし、新たに知り合う相手は年上(担任するクラスは中学2年生、3巻で3年生に進級)の女の子ばかりです。
よくできた天才少年とはいえ10歳、いや年齢に関わらず、果たしてこの状況は喜べたものか、と思わずにはいられませんでした。
ハーレム主人公の男友達なんて、いてもほぼ「見えない」存在であったり、せいぜいチョイ役であったりする、それは構いません。しかし「いるはずがない」設定だと、その欠如の大きさが目立たないわけにはいかないのです。
その意味で、小太郎の存在は大きいものでした。彼と組む経験は、ネギの戦闘スタイルにも少なからず影響を与えます。
しかし、彼が学園にやってきてレギュラー入りすると、クラスの生徒31人の中にも小太郎の方と恋愛フラグを立てる女の子が出てきます。
「ヒロイン31人」と触れ込まれた「ヒロイン」は、別に全員主人公のハーレム要員である必要はない、それで何も問題はない――このことが小太郎のレギュラー入りした8巻辺りで決定付けられた印象です。
つまり、図らずも「ハーレム構造の維持よりも重要なこと」を明るみに出したのではないでしょうか。
並外れたヒロインの数とそれを可能にするための設定、一見するとハーレムの極地のような設定が、かえってそこから外れるものを要請した感もあります。
続く転機として、9巻末から単行本8冊分以上に渡って学園祭編が展開されます。
ここではトーナメントもあって、バトル漫画として円熟の内容を見せます。またこの時期に外見年齢を変えられる薬(『ふしぎなメルモ』の飴玉風)が登場、ネギがよく青年になって見せるようになります。

(『魔法先生ネギま! 14』、2006、p.60)
少年のネギは「可愛い」扱いでしたが、こうなるともう「カッコいい」青年です。しかもこのことは、ネギがバトル漫画の主人公として「頼れる、カッコいい」主人公になってきたことともある程度呼応しています。
かくして、女の子がネギに対して一方的にドキドキしているような描写が目立つようになります(クラスの生徒の一人、和泉亜子が象徴的でしたが)。
他方で、繰り返しますがネギは天才少年といっても10歳、14歳の女心が分かるかというと…。しかも父親の後を追うという壮大な目標に向けて走っている中、つまるところ彼に恋愛は重要な関心事ではありません。そのことを分かっている周囲も、恋愛のことを考えろとは言いにくいものがあります。
そんなわけでネギは、10巻台からすっかり天然ジゴロ系として定着しました。
ラブコメ要素は決してなくなったわけではないものの、ギャルゲー的想像力を踏まえたハーレムラブコメなるものから随分遠いところにきたのを感じます。
ちなみに、単行本20巻辺りから始まる「魔法世界編」では男同士の戦いが長々と続くことも珍しくなくなります。
ネギがやはり青年の姿になって闘技場で戦ったりもしましたが、この時の相棒はずっと小太郎でした。
ネギの相棒ということでは彼が一番しっくり来るくらいに。
この作品には魔法使いと従者で契約を結ぶシステムがありました。この設定が出てきた当時は、明らかに従者と魔法使いが前衛後衛でコンビを組んで戦うスタイルが念頭に置かれており、しかも男女のパートナーがいいとかで、キスをすることで仮契約できるという設定です。
この仮契約で与えられるアイテムは何かと便利で、後半にはネギと仮契約したヒロインは相当数に及びましたが、しかし彼女たちの多くは頼れる仲間にはなっても、「組んで戦うパートナー」とは少し違う扱いでした。
いくら「男の戦い」のウェイトが大きいバトル・ストーリー漫画になったといっても、ラブコメもありましたし、戦う美少女の活躍もありました。
しかし、それらの融合の結果は(おそらく当初の予定に反して)必ずしも「カップルで組んで戦うバトル」ではなかった、ということです。
ちなみに、赤松健氏は最近、新作の連載を始めました(『魔法先生ネギま!』終了から約1年半ぶり)。『ネギま!』ともかなり繋がりのある作品のようで、それなりに楽しみにしています。
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