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そうして動いて、一体何を選んだのか――『葵くんとシュレーディンガーの彼女たち』

今回取り上げるライトノベルはこちら。
『天体少年』でデビューした渡来ななみ氏の新作です。

葵くんとシュレーディンガーの彼女たち (電撃文庫)葵くんとシュレーディンガーの彼女たち (電撃文庫)
(2013/09/10)
渡来ななみ

商品詳細を見る

 (前作『天体少年』の記事

内容もジュブナイルSFという点は『天体少年』と同じ。
なぜ前作がメディアワークス文庫で今回が電撃文庫なのか、本当によく分かりません。あえて言うならば今作の主人公は男子高校生である点がライトノベルらしいということでしょうか。

それはさておき、主人公の葵は幼い頃から、しばしば寝ている間に並行世界を転移するという生活を送ってきました。
というわけで、言うまでもなくタイトルは「シュレーディンガーの猫」より。

世界によって学校のクラスも別、隣家の住人も別、さらには離婚した両親のいずれと暮らしているかの違いによって葵自身の姓まで違います。
当然、自分が世界Aにいる時には世界Bには別の葵がいるわけで、いわば「並行世界の自分」と入れ替わっているわけですが、なにぶん別の自分が経験したことの記憶を共有することはできません。
それゆえの不都合――たとえば、誰かと約束しても約束の日にその世界にいるとは限らない――があって、できる限り人との交友関係を持たずに生活してきた葵ですが、ただ現在主に行き来している二つの世界には、それぞれ別の幼馴染の少女が隣に住んでいます。
一人はアクティブな演劇部部長・篠崎真宝(しのざき まほう)、もう一人はおっとりした演劇部副部長・遠藤微笑(えんどう ほえむ)
いずれの世界でも存在している人間はほぼ共通していて、演劇部の部長と副部長であるところまで同じですが、ただ一方と幼馴染である世界では他方と幼馴染ではありません。

しかし、真宝と幼馴染の世界(通称「マホ界」)で学園祭の演劇に関わったことがきっかけで、「二つの世界が重なっていく」という異変が発生します。
とは言え、重なるといっても、巨視的なレベルで隣家に住んでいるのが「真宝であり、かつ微笑である」ということはないのであって、「どちらの幼馴染を選ぶか」という選択が突きつけられることになります。
ただ、そのままクライマックスがどちらかを選ぶという形になっているかというと、その限りでもありません。そもそも、このままでは二つの宇宙が消滅するのではないかという大きな話までもが出てきて、それを防ぐために奔走する、という事態になっていきますから、実のところ何のために動いていたというべきなのか……

ただ、これは(最近何度か論じてきた)選択という問題系の中で考えてみると、注目すべき話でもあります。
「複数の美少女を売りにする」作品の構造を追求し、「どの美少女でも、読者が好きな子に想い入れできるように」設定するほど、主人公はカメラの位置に後退し、その主人公が後になって「誰かを選ぶ」などという事態には説得力がなくなる、ということになりがちです。「彼は一体いつの間に誰それを好きになったのか?」という疑問はどうしても生じます。
本作の葵も、二人の幼馴染との関係には明らかな質の違いがありますが、さてどちらかを選ぶ決定的要因があったかというと微妙なものがあります。

一方の幼馴染にもう会えないかも知れない、と思えばまた会いたくなりますし、また泣いている女の子を前にすれば、別の相手と会えなくなるという代償を払っても助けたい、と思うかも知れません。
しかし、それは「一方を選んで、他方を捨てる」という選択とは、必ずしも一致しないかも知れないのです。

さらに「シュレーディンガーの猫」の思考実験を考えると、そもそも「観測する」とはいつ成立する事態なのか、というのが問題になることは、このブログでも過去に触れてきました。
猫は観測者たり得るのか。カメラで撮影したらどうなのか。仮に意識のみが複数の可能性から一つを選び取る「観測者」となるのだとして、なぜ宇宙の中で意識だけがそのような特殊な存在となるのか。
本作においては少しだけその点にも触れていて、「感情」を持つ存在が「能動的に関わる」ことによって複数の世界の可能性からの選択が成り立つ、という話になっています(感情のない機械のようなものがどう動こうと「能動的」とは言えないと考えるならば、この二つの条件はほとんど一体のものでしょう)。

ここで重要になるのが3人目のヒロイン・鏡舞花(かがみ まいか)の存在です。
彼女は複数の並行世界に存在する自分同士で記憶を共有している、つまりこの世界にいながら他の世界のことをも知ることができる「多世界観測者」です。
葵に現状を教えるアドバイザーとして重要な働きをする彼女ですが、しかし彼女自身は多世界観測者という特殊な立場ゆえに極力余計な情報を得ないよう引き籠って暮らしており、感情もなく無表情です。
そんな少女に外の世界の楽しさを教えてあげたい……というのも王道の一つであり、葵の場合も例に漏れず。後半は宇宙の消滅を避けるためであると同時に幼馴染のためでもある行動に、さらに「舞花のため」が深く食い込んできているという、中々に複雑な動機になっています。
それは、今までなるべく他人に関わらず受身に生きてきた葵自身が初めて積極的にコミットする過程でもあり、そうしてコミットすることこそ選ぶことなのでしょう。

けれども、それはやはり「誰かを選ぶ」こととイコールではありません(もちろん、そのつもりがあろうがなかろうが、動く以上はつねに他の可能性を切り捨てている面があるのでしょうが…)。

葵は確かに、寝ることが最大の幸せという、どうにも人格的な印象の弱い人物ですが、上のように考えてみるとそんな彼の人物設定も意味を持ってくるように思われます。

ただ……たとえば入間人間氏のような作家ならば、そのような無趣味で無気力な人物のウダウダした青春模様を読ませる形で描くのではないか……と考えると、やはり文章の引き込む力が弱い感はあります。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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