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神話的危機と国の運命――『銀閃の戦乙女と封門の姫 4』

京都も地域によっては水害がひどいようですが、我が家のある辺りは山に近いせいか、特に生活に問題が出るようなことはありません。
ただ、雨が上がった後数日経っても水路の水量が多く、水が濁ったままというのが少し普段と違うのを感じさせます。

 ~~~

さて、今回取り上げるライトノベルはこちらです。

銀閃の戦乙女と封門の姫4 (一迅社文庫)銀閃の戦乙女と封門の姫4 (一迅社文庫)
(2013/09/20)
瀬尾 つかさ

商品詳細を見る

 (前巻の記事

そもそもライトノベルでは、10代の少年少女が主役になることが多いものです。
いくつかのシリーズを読んでいると分かってきましたが、作者の瀬尾つかさ氏はそうした「少年少女が戦う」ことの必然性を世界観に組み込み、そこから社会の歪みといった題材を描くのを実に得意としています。
本作『銀閃~』は過去に一迅社文庫で描いてきたいくつかのシリーズと世界観が繋がっていますが、その基本設定として「地球人と異世界人の混血は、純血の異世界人よりも優れた魔法の才能を持つ」という事態があります。しかし地球と複数の異世界が繋がったのはほんの20年余り前(『銀閃』の現在から25年前)なので、混血世代の多くはまだ10代なのです。

とりわけ、『銀閃』の舞台となるクァント=タンはモンスターと戦い民を守るための力がモノを言う世界なので、「第二世代」の王子王女が国の主力となる一方、王が自分の立場を脅かされることを恐れて自分の子供たちを呪うといった事態も生じていました。
しかし、その王も2巻で退場。今は第二世代の間で王位継承争いに入っており、世代間対立を過ぎて社会がすでに新しい段階に進んだ感があります(その良し悪しは別にして)。

と同時に、モンスターが発生し続けること自体は変わらないものの、「土地のマナが戦いの記憶を蓄積し、より強力なモンスターを生み出していく」という危機に関しては、1~2巻でひとまずの解決策が出ていました。
そして第二世代の台頭と「呪式装具(ジャケット)」の登場で人間側は強くなり、モンスターの脅威に脅かされる時代は過ぎようとしている――そう思われました。しかしだからこそ、「今度は人間同士が争う時代が来る」という危惧も示唆されていました。

本作においては、主人公とヒロインの関係も、当人の感情としては完全に両想いで決着しています。一夫多妻もありの世界観なので、ヒロインが複数いることも特に問題ではありません。問題は第一に、ヒロインの一人ソーニャが王女であることによる政争の事柄だったのですが、3巻では主人公のカイトも彼女たちを受け入れて、行動を始めていました。
元々、妻を娶り家を持つというのは並大抵でない覚悟の必要なことです(四十にして惑わずといいますが、別に年齢を重ねれば解決する問題でもありません)。それが国の将来にまで直結してくるとなれば、なおさらです。しかし、カイトは歴史の浅い国の常識と伝統を超えて、新たな選択肢を切り開こうとしていました。もちろん、たんに私利私欲のためではなく、自分たちの幸せと国の将来を両立させるために……

が……同時に3巻では、梨花が予知能力で見た将来の危機――恐るべき敵の襲来――という、新たな要素が登場していました。
まず直面せねばならない問題は人間同士の争いなのか、それとも人間同士争っている余裕もなくなるような外的の襲来なのか……確かにここには物語のターニングポイントが感じられました。


そうして始まったこの4巻は、クァント=タンの王都が舞台です(今まで、作中ではまだ王都には来ていませんでした)。
そして王都の守りについている第一王子タウロスと、その部下の第一騎士団副団長ダゼルが登場。
しかもタウロスがカイトの義妹・梨花にまさかの一目惚れ。
もちろん、政略的にも梨花の気持ちからいってもそんな話が成立するはずはありませんが、カイトへの気持ちを「家族として」の感情だと思いたがっている梨花にとっては、一つの転機になり得る事柄なのは間違いありません。
そして、王都で発生した戦いでも、カイトは第一騎士団と深く関わらざるを得なくなります。これが今後にどう関係してくるのか、まだ分かりませんが……

その一方で、梨花が予知で見た敵種族――ゼノを巡る上層部の政治的な動きも同時に描かれます。
そして物語の後半は、ふたたび(1巻以来)登場したキング種モンスターとの戦いです。
その中で示唆されるモンスターとゼノとの何らかの関わり。

物語は全体としてはゼノとの決戦に向けて動いていますが、単に敵を退けて終わりとなるのかどうかという疑問も含めて、先の見えないところの多い話です。


そろそろ触れておきますと、このゼノという敵種族は、瀬尾氏の過去作品『放課後ランダムダンジョン』に登場していました。
しかも今回、『銀閃』4巻には『ランダムダンジョン』のヒロイン、あかり・クラインも登場。
『ランダムダンジョン』ではゼノとの戦争に直接関わっていた人物だけに、経験者として物語に関わってくるかと思いきや、今回は顔見せ的に登場しただけでしたが、今後本格的な戦いになれば関わってくるのでしょうか。
さらに『魔導書が暴れて困ってます』の舞台であった六道島の名前まで登場。本格的な「スーパー瀬尾つかさ大戦」(この用語は一迅社文庫編集部の公式ブログで使われていたので、もう採用して構わないでしょう)となってきました。

『銀閃』の現在から25年前に地球と異世界の交流が始まり、7年前に「ゲートブレイク現象」があって交流が途絶えた、その辺りの事情は過去作品でかなり語られていましたが、あちこちの話が合流してくると同時に、今作では60万年前に遡る異世界成立の事情まで世界観の説明が進みます。そしてゼノの由来も――
そして問題は、そんな神話的背景それを知る者達の陰謀が、つい23年前に作られた世界であるクァント=タン成立にも関わっていたということです。

モンスターの存在やねじれたマナという祖国の抱える歪みが、それ以上の途方もない危機に備えるための「必要な犠牲」として強いられたものであったとしたら――それでも、「この祖国」で将来を摑み取るべく動けるでしょうか。動くとして、どうすべきでしょうか。
いや、そこでさらに考えるなら、そもそも人間を「戦いの道具」としてより強い子孫を生み出すべく「かけあわせる」クァント=タンの社会に反感を抱いていたカイトが、「上層部の陰謀がどうあろうと、自分は今ここに生きる者として、自分たちの幸せを摑み取る」と言えるに至るのか……見所はその辺なのかも知れません。


恋愛上はメインヒロインであるフレイの出番が少ないのは、1巻で問題を解決してしまったというのが大きいのでしょう。3巻から今後の布石を打ち始めたことと言い、続きがあるかどうか分からないライトノベルにありがちな問題を体現している感もありますが……
それでも戦闘では安定して活躍してきたフレイですが、今回の強敵を前にしてはあまり活躍できず。
最強の王族であるソーニャは前巻も今巻もラストでいいところを持っていったのに対し、自分には何ができるのかという悩みを見せます。
カイトと結ばれることについては何も問題なさそうですが……さて今後の戦いではどうなるのでしょうか。


最後になりましたが、相変わらず世界観は独特で面白いものです。
現代の地球と交流を持ちながら、地球の文明をあまり持ち込めない世界、しかし王都だけは電力供給も成立しているという設定から、王都の街も基本的には「ファンタジー風の家々」(p.12)が建ち並ぶ中で、王城だけはコンクリートの高層ビルだったりします。
そして大学(魔法や錬金術の研究をしている)も舞台になりますが、この大学の教授たちはロクでもない研究をしている変人揃いで、ギャグ担当のアルルメルルの珍発言に加えて他の研究者まで研究を暴走させて騒ぎを起こす展開は序盤から飛ばしています(今回、アルルメルルはカラー口絵でも一番目立っていました)。
とある実験について、

「……それって、違法っぽくないか?」
「われらは、ほうりつ、などという、せまいわくには、しばられない!」
「法は集団生活に必要な枠組みだ!」
「マッド・アルケミストは、ほうりつ、いはんを、おそれない!」
「暴走を自認するんじゃねえ!」
 (瀬尾つかさ『銀閃の戦乙女と封門の姫 4』、一迅社、2013、p.46)


大学はほとんど研究所のような扱いで、「まだ学生とぼしき若い男」(同書、p.48)の存在は記述にあるものの、それも大学院生くらいのイメージであり、教育機関としての大学はほとんど描かれません。
ただそれも、世界観を考えれば納得できます。
そもそも、戦う力が第一のこの世界にあって、エリートコースと言えば軍学校に行って衛士・機士になることのはずです。高等教育の進学率が高いとも思えず、大学は特殊な人々だけが集まるところというのは、ある意味では非常に納得できることなのです。


放課後ランダムダンジョン (一迅社文庫 せ 1-5)放課後ランダムダンジョン (一迅社文庫 せ 1-5)
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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
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