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普通に生きることに向かって――『密葬 -わたしを離さないで-』

フランスから注文した本にこんなものが挟まっていました。

フランスの万引き防止タグ1

よく見ると、どうも万引き防止タグのようです。

フランスの万引き防止タグ2

取り除き忘れだと思いますが……まさかこんなものがフランスからの本にくっ付いて来ようとは。

 ~~~

さて、発売から少し遅れてしまいましたが、今回取り上げるライトノベルはこちら。江波光則氏の『鳥葬』の続編です。
『鳥葬』は単独でそれなりに完結していたので、まさか続編が出るとは思いませんでしたが。

密葬 -わたしを離さないで- (ガガガ文庫)密葬 -わたしを離さないで- (ガガガ文庫)
(2013/09/18)
江波 光則

商品詳細を見る

 (前巻の記事

今回は、陵司が同級生にモップで殴りかかって、1ヶ月の停学処分を下されたところから始まります。
しかし、美術教師の間宮は陵司に一つの取引を持ちかけます。原稿用紙300枚分の論文を――いや内容は小説でも何でもいい、とにかく書けば停学処分を取り消す(記録に残らないようにする)上、それを出版してやると。
奇妙な話です。そもそも、処分を決める教師に停学を取り消すよう働きかける力や、無理矢理にでも出版するコネを持っていることからして、只者ではない悪党です。陵司に興味を持ち、人との関わりを避けている陵司を「嫌がらせ」として無理矢理表舞台に引きずり出してやるのだ、と言っていますが、それだけではない陰謀があることは、後々分かってきます。

陵司が殴りかかった相手――真琴も、父親譲りの当たり屋で、人を挑発して手を出させ、法律を味方に付けて賠償金をふんだくる、そんなあくどい手口を得意としている人物です。陵司もその手に嵌められたのでした。
こういうえげつない悪役は、前巻には登場しなかった要素です。
しかも、陵司の幼馴染である桜香の絡んだ事情が存在していて、陵司が真琴に目を付けられたのもそれゆえでした。

桜香が陵司のことを好きで、だから気を引きたくて冷たい態度を取ったりしているのは、前巻で桜香自身が自分の気持ちを明言しているからこそ明らかですが、記号的な分かりやすい描写はありません。それゆえに生々しく、面倒さが際立つところでもあります。
そして陵司が、好きだと言われてもなお距離を詰めようとしないのも、幼い頃に人を殺してしまったという事情があります。それは罪悪感でもあるでしょうし、自分は一度動けばやり過ぎる人間であると分かっているから動くのが怖いというのもあるのでしょう。
そんな陵司を間宮は動かそうとします。

「それを気にして落ち込んで陰気になってりゃ善人ヅラできると思って、子供も自分も握り潰して、何かやった気になってるんならデッケエ間違いだ。あたしゃそういうのは本当に気に入らない。だから表に出られるチケットを用意してやった。いらねえんなら洟かんで捨てろ。……伝えたかったことはそれだけですよ。長々とお邪魔して、煙草まで吸わせて貰ってそうもすみませんでしたね」
 (江波光則『密葬 -わたしを離さないで-』、小学館、2013、p.87)


それでも躊躇う陵司を最終的に動かしたのは、真琴への敵意でした。
そもそも陵司が何もしなくても、まさに彼を巡る事情が原因で、前巻では八尋が死に、今回は桜香が傷付いていました。
陵司は真琴に一矢報いるために、「論文300枚」を書く決意をします。色々な事情が絡んで、それが報いることになるのです。結果は文学少年としての対決です(人と付き合わないために読書をして過ごしてきたというのはともかく、陵司の読書家としての「高校生らしくない」ところは、異様に感じずにはいられませんが)。
かくして、カラー口絵にも使われる対決の台詞が「本の話をしよう」になります。

(……)真琴を意識して書いた、というのは嘘じゃない。あいつがいなかったら書けなかった小説だった。誰かの為が、それがたとえ悪意や敵意であったとしても存在しなければ、あんな作業には俺は耐えられない。(……)
 (同書、p.281)


メッセージにはつねに宛先があります。そして人と関わるということは、何らかの形で「メッセージ」を送ることです。
陵司は真琴にモップで殴りかかった時点で、もう人に関わってしまっていました。

それに、真琴はつねに法律を味方に付けて、法律上は「悪事を働かず」上手く立ち回っていますが、人の恨みも買っています(そのことは、終盤で真琴を追い詰める策が実ってきたところではっきり見えてきます)。何しろやっていることは強請りたかりなのですから。そんな彼の生き方が、人を死なせていながら普通に生きることより褒められたものである、とも言えますまい。

そんなわけで、――まったく意外にも――今巻では「普通に人と関わって生きる」ことに向かって陵司の成長が描かれます。
人と関わる、すなわちメッセージを送ることになる糸口は敵意でした。しかし、人は他者を他者と認めるからこそ憎むもの、その意味でこれは「成長」の道筋として、おそらくそう奇異なものではないのです。

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