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罪は抗い難いものなのか――『ロストウィッチ・ブライドマジカル』

今月の新刊が出た後になって先月発売のものを取り上げる形になってしまいましたが、今回はこちらのライトノベルを紹介させていただきます。

ロストウィッチ・ブライドマジカル (電撃文庫)ロストウィッチ・ブライドマジカル (電撃文庫)
(2013/09/10)
藤原祐

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実は、単行本発売の前月の『電撃文庫MAGAZINE』Vol.33と今月の同誌Vol.34に本編の前日譚に当たる短編が掲載されており、つまり短編の方を先行発表という形になっていたようですが…

本作のモチーフは、「魔法少女のバトルロワイヤル」です。

魔法の国の女王が死去してその「器」が人間の世界に散らばり、その「器の欠片」を宿した少女達は魔法の国の住人と契約することで「魔女(ウィッチ)となります。
そして、魔法の国の住人たちの目的は「器」をふたたび統合して新たな女王を生み出すこと。そのために、魔女たちは最後の一人になるまで殺し合うことを求められているのです。

タイトルとこれだけの設定から、すでにいくつか言えることがあります。
まず、独特のファンシーな衣装に身を包んだ姿に変身する少女たちは、誰しも「魔法少女」と呼ぶことに異議を差し挟まないようなものですが、作中の用語はあくまで「魔女(ウィッチ)です。
そもそも「魔法少女」という言葉は、作中専門用語である以前にむしろ、作品の消費者にとってのカテゴリーでした。つまり、あえて作中でこの言葉を使うことはメタ言及的な性格を帯びる――全てとは言わないものの、少なくともその可能性があるのです。本作はそれをしません。

それから、魔女と契約する魔法の国の住人を指す名称が「体現者」と書いて「マスコット」と読むなどの――今や海外でも「ライトノベルの特徴」として認知されている――ルビの使い方も目立ち、全ての魔女の魔法にもそれぞれ、日本語にカタカナでルビを降った固有名があります。
もちろん、こうしたルビの使い方をする作品の中で、本作がとりわけ際立っているというほどではありませんが、これをするかどうかは大きな分かれ目です。

そもそも、現実に超能力や魔法を得たり、それを持った人が発見されたら、それを何と呼ぶでしょうか。凝った名称を名乗っても、それが流行るとは限りません。かつて一世を風靡した「スプーン曲げ」だって、名称は工夫のないものです(それがインチキであるかどうかは、今回の問題ではありません)。
魔法の国の住人が魔法には名前があるのだと言ってきたり、名前を言わないと発動できないシステムになっているならば仕方ありません(本作『ロストウィッチ・ブライドマジカル』もそういう設定です)。ただその場合、たとえ主人公たちは元は魔法の存在しない「この世界」に生きていたとしても、言葉のレベルでまさに「この世界」ではなく「向こうの世界」に生きるようにさせられている、という印象を強めることでしょう。

前島賢氏が「セカイ系」の自己言及的な性格を論ずる中で書いていたことを引いておきましょうか。

 あるいは『雫』。狂気をテーマとした本作の中で、主人公やヒロインたちが使う超能力は、「毒電波」「電波」と総称される。しかし、本来、「電波さん」、「デムパ」とは、主に、妄想に捕らわれて奇矯な振る舞いをする人物に対して使われる蔑称であった。にもかかわらず物語のなかで、狂気に捕らわれてしまったヒロインは、みずからの力を「電波」と呼ぶ。「原作」と言える大槻ケンヂの『新興宗教オモイデ教』が超能力に「メグマ波」という固有名詞を与えていたのとは対照的である。同じような固有名詞の欠如は、『最終兵器彼女』という、まったく身も蓋もないタイトルにも言える。
 (前島賢『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』、ソフトバンククリエイティブ、2010、pp.162-163)


そして前島氏の議論を換言して言わせていただけば、「固有名詞の不在」は現実を思わせ、「この非日常の物語は、現実のこの世界と地続きのところで展開されている」と感じさせるのです。

『ロストウィッチ・ブライドマジカル』は「魔法少女」という言葉を使わず、固有名詞を多用する――すなわち、現実の「魔法少女もの」作品へのメタ言及的な性格を持ちません。

魔女の使う魔法の設定も、このことを裏付けます。
魔法は、契約した体現者(マスコット)の持つ固有の「罪科」に依存するのです。

 個人が生まれながらに持つ固有の原罪。人が容姿や声で個体を定義し識別するように、魔法の国の住人は、持って生まれた罪で個体を定義し識別する。彼ら彼女らは例外なく、生まれつきの罪人であるのかもしれない。
 それはつまり、魔女(ウィッチ)使う魔法もまた、罪そのものであるということ。
 (藤原祐『ロストウィッチ・ブライドマジカル』、アスキー・メディアワークス、2013、p.155)


そもそも、魔法の国の住人が「器の欠片」を宿した少女たちと契約して魔女にするのは、彼女たちを殺し合わせて、その「器」を統合するためです。魔女はもはや、本来善でも平和的でもありません。殺し合いは魔女の存在理由です。
同じく魔法少女のバトルロワイヤルを扱っていた『魔法少女育成計画』「本来戦うものではなかった魔法少女がなぜ戦うのか」という、現実の「魔法少女もの」の歴史に関わるメタ的問いを正面から扱っていたのとは対照的に、本作はそうしたメタから切れています。
そのことと対応して、魔法はやはり一人に一つですが、基本的には全て戦闘向きです。

その意味で、容赦なく首が飛んだりとグロテスクでハードではあってもストレートなエンターテインメント作品と言えるでしょう。

また、魔法を使って行われることは魔力を持たない人間には認識できず、目の前で犯罪を行われても自分が殺されても何が気付かない、という設定も独自のものでしょう。
これは、魔女たちの戦いを魔法関係者以外の関与を許さないものにする設定でもありますが、同時に、魔法が犯罪にうってつけの力であり、その力に呑まれるものがいる、という事態を生み出してもいます。この巻の中で実際に一人の魔女が力の呑まれて暴走する様を描いてもいます。
いきなり魔女にさせられても、殺し合いをしたい少女などほとんどいないでしょうが、こうした設定により道を踏み外すものがいる以上、戦いを望まない者も備えざるを得ないわけで、この設定は戦いを促進する要素にもなっています。

そんな中でもう一つ注目しておくべきは、本作において魔法の国の女王が死去し、魔法の国の住人たちがこのセカイにやってきてから、もう15年が経っている、ということです。
魔女がいるのは一つの街に限定されているようですが、その数は少なくとも70~90人はいるとのこと。
本作においてバトルロワイヤル状況はすでに所与の前提であり、そして――これこそ1巻の終盤で明かされる主人公とその相棒の秘密に関わることですが――主人公は殺し合いの運命に逆らう可能性を持っています。
そのことを知って、志を同じくしている仲間たちもすでにいるわけで、どちらかというとバトルロワイヤルそのものというよりは、それに対する主人公たちの戦いが物語の主軸となっているように思われました。

ですが――魔法が罪であるということは、罪は人に属するものではない、とも言えます。個人が何をするか以前に確定しているのが「原罪」だからです。
けれども、やはり強力な魔法を持っていても主人公とその仲間たちは力に呑まれずにいることも確かですし、同じ目に遭ってもその受け取り方は個人によって異なることもまた、強調されていました。罪によって存在を規定され、暴力的な世界に生きているという魔法の国の住人も、一枚岩ではありません。
とすれば、魔法の力を善くするか悪くするかはそれぞれの手に委ねられている、という面もあるのではないでしょうか。

この両義性こそがこれからの魅せ所となってくる可能性は十分にあるでしょう。
何しろ、主人公の魔法(=罪)は運命に対抗し、殺さずにこの戦いを終結させる可能性を持っていますが、事態は「そう簡単ではない」と言っている敵もいるのですから。
人には抗いようもない罪に対し、罪を持って対抗できるのかどうか――今後を楽しみにしておきましょう。

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罪と最善――『ロストウィッチ・ブライドマジカル 2』

どうも机に向かい続ける気力と体力が湧きません。勉強したいことはたくさんあるのですけどね。 …原因は往々にして、単に首周辺の身体的な疲れと凝りだったりするのですが。 そんな状態が記事の文面にも若干影響してくるかも知れませんが、今回取り上げるライトノベルはこちらです。 ロストウィッチ・ブライドマジカル 2 (電撃文庫)(2014/01/10)藤原祐商品詳細を見る  (前巻の記事)...
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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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