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宇宙を駆ける出会い――『約束の方舟』

そう言えば、今週末には学術研究のシンポジウムがあって、聴講に行くつもりだったなあ……等と今更思い出していたりします。
いや忘れていたわけではないのですが、さて週末の丸二日を費やすとなると、結構予定に影響するな…と。時間もしっかり朝から夕方までかけますし。

 ~~~

今回取り上げる小説はこちら。ライトノベル作家・瀬尾つかさ氏のハヤカワ文庫進出作品です。

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ライトノベルではファンタジー作品の目立つ作者ですが、本作は本格的な宇宙SFです。
舞台は太陽系外の星「タカマガハラII」に植民するため、100年の旅を続けている巨大宇宙船です。
植民して新天地で反映する予定なのですから、この宇宙船には元は1万人以上の人が住み、一つの世界を形成していました。
けれども15年前、隕石に付着してきた(?)ゼリー状生命体「ベガー」と人類は遭遇、戦争で人口が激減するに至っています。
今では人類とベガーは講和した上、人間がベガーを身に纏う(このことは「シンクする」と呼ばれます)ことによって宇宙服代わりとし、真空中で活動することもできるようになっています。船の多くの部分が戦争で放棄され、空気も抜かれた状態になっている現状、これは貴重なことです。

けれども、戦争の後に生まれた子供たちは自然とベガーに馴染んでいる一方で、大人たちの中には今なおベガーをよく思っていない者達もいます。
また、戦争において使用され、ベガーを標的としているAI搭載の兵器「ハンター」が今でも船内を徘徊していて、これがベガーとシンクして活動する子供達の脅威となっています。

例によって、子供達が物語の中心になる世界観と、それに関わる世代間の対立を描くのが実に巧みな作者です。

主人公のシンゴ達は物語の開始時点で12歳。
幼馴染で、誰よりも見事にシンクする少女・テルの奔放さに振り回されていますが、お互いを好意を抱いている……そんな微笑ましい状況に悲劇が訪れます。

親ベガーと反ベガーの間で繰り返される闘争、出会いと別れ、そして解明されるベガーの正体――

作中で描かれるのは、彼らが18歳になって船がタカマガハラIIに到着するまでであり、これはまさに社会が劇的に変化して、世代交代が起こる瞬間でもあります。
100年の船内生活で技術の失伝があった上、船内固有の事情により社会システムも特異なものになっています。たとえば、戦争後は人口回復が急務であるため、結婚年齢も引き下げられています。しかし、タカマガハラIIに到着して植民活動を始めれば社会も環境もまた大きく変わります。平時から非常時へと変われば、社会のあり方も指導者も変わらねばなりません。(この作品が大震災からわずか4ヶ月後に発表されているのは象徴的なことです)
文字通り「100年に一度」の大転換を作中時間6年をかけて描く、スケールの大きな物語です。

ただ、確かにシンゴはやけに老成していながら熱くもあり、次代のリーダーを期待されるのも分かる人物ですが、物語の駆動力となっているのは、実はふとっちょで運動神経は鈍いけれども頭脳派の少年・ケンです。
ケンがいかに陰に日向に動き、悪役となってでも事態を動かしてきたかは、終盤まで読んで分かります。
が、ケンの人物や心理描写にページは割かれません。その点で、この物語は複雑な人間ドラマを多方面から描く方向には向かいません。

むしろ終わってみれば、やはり人類とベガーの出会いというテーマが全体を貫いていました。
これはネタバレに関わることですが、人類とベガーの出会いは実は、15年前よりももっと前に遡ります。それが人類を大きく変え、タカマガハラIIへの星間植民船というまったく新しい社会までも作らせました。
植民船がいつ目的地に着くかは予定の上であり、到着すれば状況が変わるのも予想できたことですが、そもそも植民船の出発という事情に遡って考えた時、やはり大転換は不意打ちで、思いがけないところから訪れるのです。
そして、それを受け入れるかどうかを巡っての混乱や闘争も生じます。


私としては、この翌年に発表され『年刊日本SF傑作選 極光星群』に収録された同作者の短編「ウェイプスウィード」を先に読んでいただけに、作者の目が人間ドラマよりもそうした「大きなもの」に向いていることをいっそう強く印象付けられました。
この短編も宇宙SFで、木星圏のコロニー出身の主人公が、環境の激変している地球に調査に訪れる物語ですが、結局、物語の軸でありオチをも担うのは、菌類と藻類の共生体で、数百mから数十kmにもなる巨大な構造物「ウェイプスウィード」が「何を考えているか」です。
コミュニケーションを取るどころか、知性があるかどうかもそれほど定かではないが、しかしそうも思える存在――そんな相手と出会い、戸惑いながらも接触し、その意を知ろうとすること、それこそが主題になるのです。


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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