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敵の見えない戦いだけれど――『東京より憎しみをこめて』

橋下大阪市長が就任当初、刺青の市職員を洗い出す、ということをやっていました。
それに対する意見は色々ありましたが、賛成側の意見で「刺青をしたければ、していて良い職場――暴力団に行けばいい」というのを見て、これは存外核心を衝いているのかも知れない、と思いました。
つまるところ、暴力団をやっていてもらわねば困るのだ、と(当然ですけれど、刺青を剥がすのもただではないのです)。

もちろん、このような「サポーター」の意見が実行者の意見と一致している保証はありませんが。

一頃映画館に行けば「暴力を利用しない」「暴力団を恐れない」「暴力団に金を出さない」という「3ない運動」が連呼されていましたが、「暴力団への就職を勧めない」はありませんでしたし……

 ~~~

そんな前置きをしておいて、今回取り上げる小説はこちら、『大日本サムライガール』を刊行中の至道流星氏の新作です。

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(2013/10/16)
至道 流星、あき 他

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とは言え、実はあらすじが大半を物語っているのですが……

政界・官界・財界を巻き込んだ一大スキャンダルの贈収賄事件の容疑者として検察に逮捕され、瞬く間に“日本国民の敵”へと仕立て上げられた経済産業省の役人・月成拓馬。
有力任侠団体、海音寺一家の総長である父親の有罪判決を引き金に、警察とマスコミに自らの夢を奪われた海音寺詩乃。
キャリア官僚と極道の娘――。絶望の淵に突き落とされた二人が出会い、裏社会から表社会への壮大な“復讐劇”が開始される……。


実際、この1巻は拓馬の逮捕と詩乃の父親の判決に始まる二人の転落劇であり、二人が出会ってこれからの道を踏み出そうとするところで終わっています。

ただ、その過程――東京地検特捜部の強引かつ杜撰な捜査や、警察の手段を選ばぬ暴力団潰しは全ての最近のニュースで見覚えのあるもので、迫真性十分です。
見込みのシナリオに基づいた特捜部の捜査、それに検察や警察のあの手この手に精神的に責め苦を与えて自白を引き出そうとするやり方は、冤罪事件の報道である程度まで知られるようになりました。
身分詐称(=暴力団員であることを書かない)でクレジットカードを作った件で暴力団員が逮捕という事件も実際にありました。しかし、口座は自分の正当なものなのですから、これが詐称に当たるとしても、銀行の「被害」は製造コスト数百円のカードだけのはずなのですが…。(小説中における詩乃の父親の罪は殺人に関わるもので、この文書偽造云々は残る組員を潰すための措置として出てくるものですが)

とは言え、二人の転落を招いた最大の敵はマスコミです。
拓馬は日本国民の敵として顔も住居も日本中に報道され、無罪になってもその扱いは小さいもので、ほとんどの人はそのことを知らず、ただ汚名だけがどこに行っても知られている状況です。
詩乃にしても、女はヤクザ社会に入れない等ということを一般人は知らず、「ヤクザが夢を与える仕事をしているのはおかしい」という扱いです。

もちろん、本作中では、ヤクザというのがロクでもない連中であることもはっきり描かれています(金でしか物事を計れなくなりますし、いわゆる任侠精神などというものはもうありません)。
二人によくしてくれる人間とて、いないわけではありません。
しかし、無責任かつ興味本位に騒ぎ立てるマスコミの性質の悪さは、それとは異質で、影響力が大きいだけにいっそう厄介なものです。


本作は同作者の『神と世界と絶望人間』が『雷撃☆SSガール』(ともに後に『世界征服』シリーズとして改題)を対をなしていたように、光に対する闇として『大日本サムライガール』と対をなす作品ではないか、と思われます。
『サムライガール』の主人公は大手広告代理店の出身で、その仕事ノウハウとコネを使ってメディアを制することで着実な成功を収めていきますが、これに対して本作『東京より~』はメディアに潰される人間を描いていますから、その点でも好対照です。

ただし、『神と世界と絶望人間』(『世界征服2』)がただ一つの大財閥が世界を操っているという陰謀史観を採用し、意図的に著しく世界観を単純化していたのに対し、本作と『サムライガール』の舞台はもっぱら日本であり、その分現実的ですが、それだけにはっきりした敵が見えなくもあります。
検察も警察も――それで世の中が良くなるかどうか、それどころかそれが法に則した操作かもさておいて――それなりの正義感に基づいてやっているのであり、メディアは飯の種に騒いでいるだけであって、いずれにせよその背後に誰かの統一された意志があるわけではない、というのが実情でしょう。
そのような中で世の中を転覆させるべく戦うというのは、先の見えないことです。おまけに復讐という後ろ向きな目標がいかなるビジョンを持ちうるのかという――『神と世界と絶望人間』から変わらない――問題もあります。

けれども、だからこそ、そんな彼らがこんな世の中をどう揺るがしてくれるのか、楽しみでもあります。


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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