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なぜワンマンなトップが好まれるのか――『安倍政権で教育はどう変わるか』

久々に岩波ブックレットを読みました。
薄いけれど、優れたものが多いシリーズです。

安倍政権で教育はどう変わるか (岩波ブックレット)安倍政権で教育はどう変わるか (岩波ブックレット)
(2013/06/05)
佐藤 学、勝野 正章 他

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著者の一人である佐藤学氏の著作は過去にも多少読んだことがありますが、それと比べても本書は「虚妄と妄想による教育改革」等、苛烈な舌鋒が目立ちます。それだけこの「危機」は猶予なし、ということでしょうか。
論点は明快であって、

・安倍政権の唱える「学校における悪平等・画一主義の蔓延による子どもの個性・伸びる力の抑圧」「いじめ、不登校、学級崩壊、青少年犯罪の続発」ect...の「危機」はまったく実態に即しておらず、「作られた危機」である。
・他方で現政権は、子どもの貧困による教育格差という、今の日本で最も深刻な危機は完全に素通りしている。
・教科書制度の改定や教育委員会制度の廃止などは、教育の政治統制を強めてイデオロギー教育を行おうとする傾向が顕著である。

といったものです。

そもそも、「悪平等」とは何でしょうか。この言葉、外国語に翻訳できるのでしょうか。
(西尾維新氏原作の漫画『めだかボックス』では「悪平等」と書いて「ノットイコール」とルビを振っていましたが、これが日本語と横文字の必ずしも対応しない当て読みであることは言うまでもありません)
とにかく、日本の教育が「悪平等」であるという指摘はどこの国の研究にもないし、習熟度別指導による「エリート教育」が成功しないことは、佐藤氏の過去の著作に詳しいものです。
教育格差の問題に関しては、苅谷剛彦氏の研究の方が詳しいでしょう。
薄いブックレットですので、議論の裏づけとなるそうしたデータと研究については他の著作を当たる必要があります。

教科書問題というのも、いつまで繰り返しているのでしょうか。
大学では、先生が教科書を批判することなど当たり前です。
語学のように教える事項がかなり決まっているはずの分野ですら、「この教科書の文法説明は間違っています」と言う先生を見てきましたし、わざわざ自分と立場の違う教科書を選んで、それに対する批判を毎回している先生もいました。

つまり、もし仮に「日教組系の左翼教師」なるものが本当に影響力を持って偏向教育を行っているとしたら、教科書に何を書こうが無駄なはずです。
それなのに、教科書には何が書かれるべきかといった論議を、いつまで繰り返すのでしょうか。
まあ、教育行政に関わる人間は大学の授業などまともに受けたことがないから、そんなことにも気付かないのかも知れませんが。

これは教員教育の話にも関わります。
佐藤学氏の曰く、1949年に「教職員免許法」が施行された当時、大学で教員養成を行っている国はまだ稀で、「日本の教師の教育水準は世界一」(p.31)でした。しかしそれから半世紀余りを経て、今では教員に修士課程修了までを要求するのが世界的に見て一般的になりつつあるのに、日本はすっかり遅れを取ってしまっている、と言います。
しかし、「大学で修士まで出ても良い教師になるわけではない」、もっと言えば「大学で学ぶことなど役に立たない」という現政権の意見は、結構多くの人の共有するところではないでしょうか。

これに目くじらを立てていても仕方ないのであって、こと政治に関するならば、これこそ田中角栄のように中卒でも首相になれる国、すなわち政治に学校教育を必要としない国の伝統だ、と考えることもできるでしょう。
ならば、中学、高校までの学校教育が「ありがたみ」を持っていると考えるのもおかしなことではないでしょうか。
学校にあれこれと手入れをすることで事態が良くなると、なぜ思えるのでしょうか。


そして教育委員会制度改革。

(……)安倍首相の教育委員会制度改革は、詰まるところ主張が直接任命も罷免もできる教育長を、教育委員会の代わりに地方教育行政の責任者としようというものである。その結果、主張の意向が教育行政に格段に強く反映されることになるのは確実である。
 (佐藤 学、勝野 正章『安倍政権で教育はどう変わるか』、2013、p.35)


要するに、改革を阻む組織があるから、首長がワンマンな影響力を行使できるようにしよう、と。
最近はこういうのが好まれているようです。

勝野氏はこれに対し、(1) 教育委員会が「聖域」となって改革を阻んでいるというのは、確かな分析に基づいたものとは言えない、(2) 首長の影響力を強めても、首長が交代するたびに「前の改革に対する改革」が繰り返される可能性もあり、改革が進むとは限らない、(3) このような制度改革は、学びの質を何ら保証しない――といった批判を述べていますが、ここにこれ以上の説明が必要でしょうか。

これを読んでいて、大阪市の公募校長が立て続けに不祥事を起した理由も理解できる気がしました。

 大阪市の公募校長 新たに3人不祥事 パワハラ、セクハラ、「中抜け」疑い

手続き等は放っておいて自分が必要と見なした仕事をする、逆らうものは高圧的に押さえつける――このようなワンマンな人が学校現場に君臨することこそが必要だと見なされていたのであり、その意味で確かな信念に基づいた公募校長の選定だったのでしょう。
(安倍政権の教育改革案と大阪の教育条例との類似点も、このブックレット中で指摘されていることです)


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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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