オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
時間の敵はどこから生まれる――『お散歩宮・お昼寝宮』
知ったきっかけは、アルバムで「小説のイメージソング」として説明されていたものがあったからですが……
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「です」「ます」調の文体は児童文学風ですが、振り仮名があまりない辺りがその限りでもない印象を与えます。
主人公は女の子ですが詳しい年齢は不明。小学生でも良さそうですが、「小学生くらいの女の子」を前にして「子ども相手におとなげない」(サンリオ版、p.105)と思う場面があるので、中学生くらいかも知れません。
とにかく、主人公のネムコは憧れの男の子・サカモトくんから借りた本を読もうとしているのですが、つまらなくてどうしても読むことができません。
そんな真夜中、全身緑と白の不思議な子どもが訪れ、その子に誘われて「時間盆地」という異世界に辿り着きます。
いかにも『不思議の国のアリス』的な導入で、時間盆地への道は穴を下りていくというのもウサギの穴に飛び込むのと共通しています。
しかし、時間盆地では「お散歩宮」が怪人トトポに盗まれ、それを取り返すためにネムコは、時間盆地の住人ソブやパジャマの絵柄の猫と猿と一緒に、「お昼寝宮」から夢の世界へと旅立ちます。
と、『アリス』に比べれば敵を追いかけ、主人公が成長するという正統派ファンタジー小説らしい面もある作品ですが、作中で展開される夢のイメージは、谷山氏の歌詞に見られる通りのめくるめくようなものです。しかも、夢の中でまた夢、そのまた夢……と続きます。
作中で歌が歌われる箇所が3箇所あるのですが、これらの歌にその他イメージソングを合わせた同名のアルバムも出ています。
もっともあとがきによると、
それから、この本に出てくる三つの歌のうち、二つ(お散歩宮・お昼寝宮の歌と、そっくり人形展覧会の歌)は、実際にメロディーがついているので、いつか何かの機会に発表できたらいいな、と思っています。(……)
(谷山浩子『お散歩宮・お昼寝宮』、サンリオ、1988、p.222)
とあるので、この小説が書かれた段階では曲がなかったものもあるようなのですが……
その小説時点では曲のなかった歌(アルバムでは曲を付けて収録)がこちら「第2の夢・骨の駅」なのですが……一曲だけ圧倒的なおどろおどろしさです。
もっとも、これを聴くと山奥の侘しい駅のイメージですが、小説中でのネムコは豪華な車両に乗って、多くの人々と共にこの駅に辿り着きます。しかしそこに待ち受けていたのは……
決して痛みを感じさせず、快楽の中で人間を滅ぼす罠……曲の食らいイメージに対して、豪華で快楽に満たされているがゆえに恐ろしい罠でした。
この小説のオチとかネタバレと言うことにどれほど意味があるのか分かりませんが、ネムコが(※)つまらない本を時間の無駄だと思いながら読んでいたがゆえに、物語の主人公が時間の敵になってしまった、という真相は、まったく素晴らしいセンスをしています。
※ ネムコが、とは作中の誰も明言しないのですが、彼女のことなのは明らかです。
つまらなかった、時間の無駄だったと言いつつ、それに時間を費やしているのは自分の意志です。第一、時間を無駄にしたと言い立てる人ほど、時間を有効に使っているのかどうか……
と、教訓的なことをあまり読み取りすぎるのもこの作品の幻惑的なイメージに対して妥当などうか疑問はありますが、主人公の成長という点でも明晰で、暖かい物語です。
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