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相手と自分、鏡映しの変化――『引きこもりたちに俺の青春が翻弄されている』

本日取り上げるライトノベルはこちらです。

引きこもりたちに俺の青春が翻弄されている (一迅社文庫)引きこもりたちに俺の青春が翻弄されている (一迅社文庫)
(2013/11/20)
棺 悠介

商品詳細を見る

一迅社文庫初の新人賞で大賞受賞作品――ですがそもそも、今まで一迅社文庫には自前の新人賞出身作家がほとんどいませんでした。
初の大賞ということでか、電子書籍版も同時発売されるなど出版社側も熱心です。

ゲーマーズ購入特典はキャラクターデザイン原画の4ページ小冊子。

引きこもり 特典冊子

主人公・蒼衣春哉(あおい はるや)は小学生時代にいじめを受けていましたが、「凶鳥」と恐れられる美少女・瑞鳥紫羽(みずどり しはね)に助けられた……という過去の話から始まります。
それから6年後の現在、高校2年生になった春哉は転校した先で紫羽と再会するのですが、暴力的な暴君ながらカッコ良かった過去の姿はどこへやら、紫羽は重度の引きこもりと成り果てていました。
というわけで本作は基本的には、そんな紫羽を助けようと春哉が奮闘する話です。

幼馴染というのは人気のカテゴリーです。
一説には、家族以上の――「前世」にも通じる――強い結び付きを感じられるから、だとか。

しかし、歳月は人を変えます。
そこでオタク文化消費において、変わらないものとしての「キャラ」を愛好する姿勢が――それが全てとは言わないものの――あるとしたら、どうでしょうか。
幼い頃と今とで幼馴染が大きく変わっていた場合、人はかつてと今、どちらの相手に愛着を抱くのでしょうか。
あるいは変わってしまっていても、「幼馴染」という事実による絆が感じられれば、読者としてはそれで良いのでしょうか。

これらの問いは一概に、容易に答えの出せるようなものではありませんが、本作の主題は確かにその点に関わっています。
春哉は紫羽に救われ、紫羽に憧れて追いつこうと努力してきた少年ですから、どうしてこんなに変わってしまったのかと戸惑います。冒頭が過去話から始まっているので、読者も自然とそれに同調できます。
けれども、人は然るべくしてそのようになっているのであり、そしておそらくは本人も苦しんでいるのです。まずは現状を受け入れることが必要でしょう。
そんなわけで、春哉が戸惑いながら、やがて今の紫羽を受け入れようとする展開が読者をちゃんと引き込むものになっています。登場人物が感情を吐き出すカタルシスもよく描かれているのではないでしょうか。

ただ、さらに考えると、人はなぜ変化するのか、という問いが出てきます。
本作の終盤は、紫羽がなぜ引きこもりになったかという過去を巡るエピソードで、なかなかに重い因縁話も描かれます。
しかし、紫羽に関してはともかく、彼女と深い因縁のあるもう一人のキャラについては、かなり深刻に壊れていたのが救われるのがあっさりしすぎている感もありました。
結局ここには、何か劇的な異変があって外傷を受けることで人は変わり、また劇的な「治療」によって立ち直る、というモデルが見えるのですが、私が再三言ってきたように、単純に過ぎる感は否めません。

とは言え、紫羽も元々強いばかりだったわけではなく、弱さもあったのだということも作中で強調されていることです。
人は変わると言っても、誰でも何にでもなれるわけではありません。
どのように変わるにせよ、一方では元々本人の底にあった素地というものも、あるのではないでしょうか。
ただし、それがどのようなもので、ある人が何になることができ、何になれないかは、事前には分からないのですが……

この「変わる」ということを巡るもう一つの見所は、春哉も小学生時代から大きく、それも紫羽とは対照的にいい方向に変わっていることです。
紫羽に追いつこうと力を付け、肥満児だったのも痩せて、今ではイケメンともてはやされる程になっています。
中盤で中二病の(おそらく)二番手ヒロイン・田中和美(たなか かずみ)に対して、相手の創作した世界に合わせてキャラ作りをする辺り、広い方面にハイスペックさを見せます。

さらに、紫羽の引きこもり化に因縁のあるキャラクターは、春哉と同じように紫羽によっていじめから救われながら、その後は大きく異なった道を歩んでいたことが判明します。
カッコいい方から駄目な方へとその逆方向へそれぞれ変わった春哉と紫羽が好対照であれば、同じ出発点から逆方向に進んだ春哉とその相手も鏡映しのようです。

「自分もそうなる可能性があった」のかどうか、実のところは分かりません。
「そうなる」資質は元々なかったのかも知れません。
けれども分からない以上、それを単に他人事として見ることももはやできません。
相手の変わり果てた姿に自分の影を見てそれを受け入れる――そんな文字通りのカタルシス(浄化)が心地良い作品です。


エロゲーオタクだとか「中二病」だとか、カッコ良かった幼馴染が今ではすっかり駄目にあっているとか、果ては手淫だとかいう下ネタに至るまで、いわゆる「残念系」美少女と言われるものの要素はほとんどライトノベルとして既視感のあるものですが、だからといってトータルとしてのキャラ立ちは悪くありません。キャラクターというのはそうした要素のたんなる寄せ集めではないからです。
「女の子が性的に直接的でえげつない発言をする」過激な下ネタは目立ちます。これは好みの問題ですね。
しかしそれ以上に気になるのは、メタネタの使い方です。

「いやあ、残念だったな。いきなり転校生として現れて、変わった姿を見せて驚かせてやろうとしてたのに、彼女がよもや引きこもってたなんてな。せっかく過去編までやって、隠しておきたい過去まで晒したのに、酷い仕打ちだな」
「うわああああ!」
 教師のメタ発言が俺を追い詰める。一瞬でも感心したことを激しく後悔した。
 (棺悠介『引きこもりたちに俺の青春が翻弄されている』、一迅社、2013、p.38)


この手のメタ発言を交えるのも悪いわけではないのですが、その後に加えて語り手がそれを「メタ発言」だと認めることで、これがメタであることが強調されすぎているきらいはあります(本作の場合、こうした「説明過剰」はパロディネタにも当てはまります)。

しかも、この後そのままこの女教師・犬養遠乃(いぬかい とおの)が春哉たちの過去を知った上で色々話して依頼してくるので、本当にこの先生が「メタキャラであるがゆえに」事情を知って事態を動かしているような印象を与えてます。
「調べさせてもらった」と言っているので、そういうわけではないはずなのですが…

これは犬養先生の使い方そのものに関わります。
本作の場合、春哉が紫羽を助けるのもまず犬養先生に依頼されてのことですし、その後「引きこもり対策部」も先生の画策によって成立します。
独自の部活が主人公達の居場所になるライトノベルは数知れませんが、その部活の結成と活動が教師の主導によるのは管見に入る限り『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』の奉仕部くらいしか記憶にありません。
うるさい大人のいない居場所が求められている、というのもあるかも知れませんが、あまり先生の主導によって部活動が行われているようだと、主人公の主人公としての能動性が薄れてしまう、という理由もあるのではないでしょうか。

実際、本作の犬養先生は「教師の自分にできることは限られているが、幼馴染の“春哉なら”」と考えて紫羽を救うよう頼んだり、部活でも自ら考案した活動を行うなど、依頼を取り次いで持ち込む立場というよりももっと積極的に事態を主導します。
もちろん、彼女も決して未来を予見しているわけではなく、確実に上手く行くという確証があるわけでもなくて、「やってみろ」というくらいの提案だったのでしょうし、特に終盤の事件は彼女の手を離れています。
それでもどこか、「何でもお見通しの教師の掌の上」という印象は拭えない感がありました。

後は構成ですが、紫羽を救う話は第一章で一段落ついて、第二章で中二病ヒロイン・田中和美の話、その後で紫羽の話が戻ってくる形になっており、和美は必ずしも必要ではないものが挿入された印象もあり。


――と、色々疑問も呈しましたが、盛り上がりは十分で楽しめる話だったかと思います。

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