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政治の欲望と戦う職業倫理――『MONSTER DAYS』

今回紹介するライトノベルはこちら。前回に引き続きMF文庫Jの新人賞作品(今回は最優秀賞受賞作品)です。
今まで当ブログでこのレーベルの作品を取り上げる率は低めで、新人作品もあまりチェックしていなかった気がしますが…

MONSTER DAYS (MF文庫J)MONSTER DAYS (MF文庫J)
(2013/11/22)
扇友太

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舞台は1200年前に魔物が出現し、それ以来人間と魔物が共存している世界です。
光輪暦2133年とのことですが、魔法技術が存在するものの、銃器や乗り物等の技術は現代的なものです。つまり、この暦は現実の西暦に近いもので、中世から魔物と共存してきた現代、と考えて良いでしょう。
その結果として実現されているのは、摩天楼の建ち並ぶ都市を人間とともに魔物たちが闊歩する社会です。

魔物との関係や魔法という技術がありながら、それ以外の技術は現実と同じように発達してきたというのも、考えてみれば疑問の余地はありますが、まあ不可能と見なす理由もありません。むしろ本作においては、人間と魔物との共存および軋轢がそれだけの長い歴史を持っているという設定が重要なのです。

主人公のライル・アングレー人魔調停局の職員、それも人間と魔物の間に不和を引き起こすような重大犯罪――たとえば魔物を排斥する組織の活動など――を取り締まる現場要員です。
設定およびストーリーとしては、警察機構を主役にしたアクション系ハリウッド映画に近い感覚ですね。
イラストもそんな内容によく合っています。

MONSTER DAYS characters
 (扇友太『MONSTER DAYS』、メディアファクトリー、2013、カラー口絵)

ただし、アクションは銃器に魔法を加えたものですが。しかも主人公の同僚にも魔物がたくさんいて、人間であるライルは肉体的には魔物より遙かに弱いのですが、魔法技術を駆使して戦います。
また、人間社会で暮らす魔物たちは普段「人化術」で人間の姿になっているのですが、ライルの相棒のアルミスは一角獣で、一角獣形態と人間形態の変身を駆使して戦うのもなかなか魅せます。

さて、この世界にも人間国家に組み込まれていない「外部魔物」の集落があり、人を襲って食う習慣が残っているところあったりで、軋轢も存在します。
しかしこの度、そんな外部魔物の集落の一つ「竜羽の里」がクリアト連邦共和国に加入するということで、使者としてその里からドラゴンの姫君・クーベルネがやって来ることになり、ライルはその護衛の任を受けます。しかし当然と言うべきか、人間至上主義者の団体など彼女を付け狙う敵が現れて、戦うことになるわけです。
が、色々と複雑な政治的事情が絡んでいるため、圧力がかかって捜査が止められ、そんな中で公式の命令に背いてでもクーベルネを助けるため戦う、という定番の展開もあります。この辺も警察アクション物らしいですね。

と同時に、「竜羽の里」内部にも加入をよく思わない動きもあり、クーベルネは孤独に生きてきて、この度は13歳にして母の眠る故郷をも離れねばならない、という事情があります。
魔物と人間が「普通に手を取り合って」共存できる社会という理想をどこまでも追い求めるライルが、そんな彼女を「普通の女の子として」受け入れて孤独を癒すのも、ストーリーの見所の一つです。

熱血主人公は珍しくありませんが、ライトノベルは他のジャンル以上に学生主人公が多いだけに、こういう職業倫理に基づいた熱血主人公はどちらかというと珍しく感じられます。

主要な女性キャラクターとしてはこのクーベルネと、ライルの相棒アルミスがいます(サブキャラクターでは他にもいます)が、クーベルネはまだ13歳で、ライルにはあくまで懐いているという感じですし、アルミスは――“一角獣は乙女を好む”という伝統的設定に従い――乙女に目の無い変態なので、恋愛要素はほぼありません。
この辺もMF文庫Jの作品としては異質ですね。
ですからラブコメ的なヒロインは期待すべくもないのですが、しかし上記のような政治的情勢の中で孤独な生き方を強いられた姫、というクーベルネの設定という点から見れば、彼女のキャラ造形にも十分及第点が付けられるかと思います。


ところで――

「俺達のボスは、ここクリアト連邦共和国の大統領。そして人魔合わせて二億五千万の善良なる国民だ」
 (同書、p.24)


この台詞を見た瞬間、アメリカを連想しました。
「二億五千万」という人口を特定する意味が、他にどこにあるでしょうか。
内容がアメリカ映画的であることが、なおさらそのイメージを補強します。
「共和国」であるのは、敵対国のヘクトが「帝国」と言われているので、「共和国vs帝国」という伝統あるアシモフ的構図に従ったのかも知れませんが。

ただ、歴史や地政学的事情は大きく異なります。
クリアトは「新大陸」ではなく、900年以上昔からこの大陸に存在しており、現在はヘクトと大陸を二分する二大大国です。
クリアトとヘクトが「冷戦」下にあるという設定は東西冷戦を連想することもできるかも知れませんが、当然のことながら、アメリカとソ連は同じ大陸には存在していませんでした。
ただ本作においては、クリアトとヘクトが地続きであって、その間に「緩衝地帯」が存在するという設定が重要な意味を持ってきます。

さらに、人魔調停局は「中世に人間と魔物の共存に尽力した聖女」聖フランチェスカが結成した「調停騎士団」の後身たる組織で、現在でも聖フランチェスカの肖像を掲げています。
この世界の政教分離がどうなっているのかは、若干気になるところです。
アメリカでは政治が神の名を掲げることはよくありますが、特定の聖人の名を出せば特定宗派に肩入れすることになるので、問題はあるでしょう。ヨーロッパでは神の名を出すことも不可です。

本作の政治的問題に宗教がさして問題になっていないのは確かですが、しかしこの設定には意味があると思われます。
主人公は「聖フランチェスカ以来の調停局の理想」を誇っています。つまり、「立派な伝統」に基づいていること、どんなに困難であろうと道はすでに先人によって切り開かれていると信じることが、主人公に力を与えているのです。
そもそもクリアトが中世以来の歴史ある国家であるという設定も、このためかも知れません。

このように現実と異なる特異な設定に意味があるのを見るにつけ、現実を連想させる部分にもやはり意図的なものを感じます。
誰でもアメリカの一員となれば「アメリカン・ドリーム」の可能性があるとか、ニューヨークは「人種の坩堝」だとか言いますが、独自の人種差別の歴史を持ち、また戦争好きで多くの被害を齎しているのもアメリカです。

本作のクリアト連邦共和国も、人魔の共存を謳う裏で戦争を行って回り、不和を煽って利益を貪ってきた歴史がありました。そうした政治の闇こそがストーリーの核心にもなっています。
政治とはそういうものかも知れません。
しかし、それに対して伝統や理念という「それだけでは食っていけないもの」を掲げて戦うからカッコいいのです。
と同時に、政治の暗部の方を担当していると思われた情報総局のロイヤーが最後になかなか美味しいところを持って行ったりと、現場の熱さだけで終わらないところがまた、よく出来ていました。

デビュー作としては十分すぎる出来であったと評価して良い作品だったかと思います。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
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