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人間の弱さと強さに接する怪物――『アリストクライシII Dear Queen』

今回取り上げるライトノベルはこちらです。

アリストクライシII Dear Queen (ファミ通文庫)アリストクライシII Dear Queen (ファミ通文庫)
(2013/11/30)
綾里けいし

商品詳細を見る

 (前巻の記事

本作は『FBonline』での連載を単行本化したもの(加筆訂正あり)で、作者は単行本書き下ろしで刊行中の『B.A.D.』とこのシリーズを同時進行しています(『B.A.D.』12巻も今月末発売)。そのため8ヶ月ぶりと少々間の空いての新巻ですが、380ページとボリュームもかなりあります。

ヒロインのエリーゼ・ベロー「穴蔵の悪魔(アリストクライシ)という魔物と人間の間に生まれた少女で、家族を殺された復讐として全ての「穴蔵の悪魔」を殺すべく旅を続けています。

「穴蔵の悪魔」は全て、「領地」と呼ばれる異空間を作り出すことができ、大抵は自らの「領地」に潜んで暮らしています。さらにそれとは別に「賜り物」と呼ばれる異能を持っており、それを使っての戦うバトル物でもあります。
ですがまず、敵の「領地」がいかなる悪趣味な空間になっているか、というのが本作のホラーとしての魅せ所です。
前巻のなかなか衝撃的な展開を見せてくれました。

今回の敵の領地は100年前に魔女狩りで消えたとされる村
この村は、実は「穴蔵の悪魔」の領地として存在し続けており、そして村人たちの子孫はずっと東西に分かれて戦争を続けることを強要されていたのでした。
手足を失うような怪我をしても治療されてしまい、戦い続けることを強要されているとは、まるで悪趣味なヴァルハラとでも言うべきでしょうか。
ただヴァルハラと違い、死んだ者までは蘇りませんが……

戦って獲得するものもなく、相手の損害もすぐに元通りでは勝敗もなく、実のところ戦っているとさえ言えません。何と虚しいことでしょうか。

しかもこの領地の「支配者」たる穴蔵の悪魔たちは領地の中でもさらに城に籠もっていて、普通には会えないとのこと。
が、村の青年ノエルは、この村の現状を動かし、支配者が降臨せざるを得なくする作戦を提唱します。

しかしさらに、この村がこうなった原因には、一人の人間の怨念があったことが終盤で明らかになります。
同じような境遇にあっても、ある者は身命を賭して人を憎み、ある者は幸福になる権利を信じ続けました。
強さと弱さが交錯し、人間の憎しみが生み出したものに人間の幸福への意志が挑む様は見事です。
幸福を願う者たちの抵抗が成功したかと思ったところでまた突き落とす残酷な展開もお手の物ですが。

それでもエリーゼは、人間の強さを評価し、守ります。
基本的に陰惨な事態の根本に怪物的な異能の存在を置く著者の作品だけに、今回はなおさら「普通の人間」の弱さ・醜さと強さ・気高さの交錯が光った感がありました。

エリーゼは基本的にグラン以外の相手のことを「人間」と呼びます。相手を種族名で呼ぶというのは相手の尊厳を否定するような冷淡さを感じさせますし、実際巻き込まれた人間の後のことは放っておいて立ち去るくらいには冷淡ですが、しかし彼女は自らの憎む同胞たちと同じ化け物にならないよう、人道を考えて行動しているのも事実です。
そして儚い人間の強さを大切にし、その尊厳を傷付けることは許しません。
作中でも、復讐には優しすぎるのではないかと危惧されるくらいに、弱い者に感情移入するところがあるのです。

これに対して、エリーゼの相方のグランは自称によれば「名前のない化け物(グラウエン)で、こちらはフランケンシュタインの怪物風の全身に縫い目のある青年です。感情がないと称する彼でしたが、もちろんそんなことはなく、過去の辛い経験に対する憎しみや苦しみ、そしてエリーゼを大切に想う気持ちを秘めていることが明らかになるのが、1巻のストーリーの軸の一つでした。
しかしやはり、彼が感情に乏しいことは事実で、エリーゼ以外の他者に対する感情移入はほとんど見せません。
そのため、本作の文体は三人称ですが、特にこの2巻では困難な場面での葛藤など、かなりエリーゼ視点寄りの部分が目立ったように思われます。そもそもグランの方には描写するほどの心情がありませんし……
これはつまり、乏しい感情が表に出てくるほど、グランがドラマに食い込んでこなかったということでもあります。ノエルがグランに似て感情の欠けた青年として描かれながら、両者が積極的に関わるでもありませんでしたし。
グランは言い伝えにある「名前のない化け物」そのものではなく、では何なのかといった疑問も呈せられてはいるのですが、その辺に日が当たるのはまだ先のようです。

ちなみに今巻の表紙は新キャラのアリシア・ランドール
巻き込まれてエリーゼ達と同行してしまった彼女ですが……まあやはりと言うべきか、その結末は一筋縄では行きません。


さて、同作者の『B.A.D.』の場合、主人公の小田桐は他人の感情や記憶を知る能力を持っており、彼の一人称視点を通して他の登場人物の深い内面が描かれますし、また小田桐自身、我が身を尽くして他人を助けようとします(結局人の気持ちを分かっていないことを思い知らされたり、裏目に出て人を傷付けていたりすることが多いのですが…)。
他方でヒロインの繭墨あざかは、自分から積極的に人を苦しめるために動きこそしませんが、他人の苦しみも死も嘲笑います。
けれども小田桐は、そんなあざかに孕んだ鬼を封じて貰わねば生きられず、彼女と一緒に生きることを宿命付けられています。

『アリストクライシ』の場合、エリーゼの方が――冷淡なところはあっても――人並みに他人に感情移入し、肩入れもします。対してグランは、悪意もないものの、著しく感情移入に欠けています。ただ、エリーゼのことは大切に想い、付き従っています。
そしてそんな二人は、同胞なき怪物同士として、世界にただ二人だけの仲間です。

両作品の主人公とヒロインの関係は、単純に逆ではないがゆえに、いっそう好対照をなしています。

そして『アリストクライシ』の場合、いずれの面でも『B.A.D.』ほどに過剰ではなく、人並みに他人に思い入れ、その尊厳を讃えるからこそ、残酷で救いのない展開の中でも、時にか弱い人間の生き方が美しく光るのです。
今巻のラストも、救いがあるかどうかは疑問ですが、哀しくも美しい余韻を残すものでした。

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Author:T.Y.
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