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水を巡る戦い――『鮎原夜波はよく濡れる』

論文では、ここはもっと説明が必要だし書いておきたいと思いつつ、総字数の制限も考えねばならないわけで……
内容をどこまで論じるか、「この件については今回深入りできない」で済ませるか、という選択も問われますね。

 ~~~

今回取り上げるライトノベルはこちら。気が付けば発売から3ヶ月近く経ってしまい、今月には2巻が出るという、またも微妙なタイミングになってしまいましたが……。

鮎原夜波はよく濡れる (電撃文庫)鮎原夜波はよく濡れる (電撃文庫)
(2013/09/10)
水瀬葉月

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タイトルの「濡れる」ですが、文字通りに水を被って濡れます。

まずストーリーを説明しましょう。
主人公の渚野陽平(なぎさの ようへい)は子供時代に溺れて死にかけて以来水が苦手で泳げませんが、高校生活を間近にした春休み、プールで溺れているように見える少女を見つけて、とっさに助けようと飛び込んでしまいます。
しかし、その結果として彼がその少女・鮎原夜波(あゆはら よなみ)と共に辿り着いたのは、辺り一面が海に沈んだ並行世界。夜波は水のゲートを通して並行世界に移動するところだったとのこと。

夜波たちは、並行世界に住むウンディーネ(水霊)の力を借りて、水の怪物ヴォジャノーイと戦う戦士でした。
ですが、元の世界に帰るに当たって戦いに同行することになった陽平は敵に致命傷を負わされ、夜波に助けられることになります。
そして、この時の助け方に関わる事情から、陽平はその後も夜波たちの戦いに関わり続けないと命が維持できない状況になってしまいます。
ある意味では、命を救われる代わりに戦うことになる、ウルトラマン型ヒーロー物の展開です。
ただし陽平はヒーローにはなれず、今のところサポート要員止まりですが……もっとも彼にはまだ秘められた能力がありそうなので、今後は彼の役割も変化していきそうです。

それから、戦いの要素がまたユニークです。
ウンディーネは「世界変数のパラメータ」を管理する存在です。

「イメージだけわかってくれたらいいんだけど……水ってさ、H2Oで、透明で、沸点は100℃で、融点は0℃とかって性質が決まってるだろ? そういった性質は《そういうもの》として世界に規定されているからなのだ。ぶっちゃけた話、今お前が知ってる水は、たまたまそう規定されていて、たまたまそれがずっと維持されているだけにすぎない。この世界の水も、偶然お前達の世界の水と性質が同じなだけ。別の世界では水というものはH2Oじゃないかもしれないし、透明じゃないかもしれないし、沸点や融点が違うかもしれない。触れたら溶けたり燃えたりするのかもしれない」
 (水瀬葉月『鮎原夜波はよく濡れる』、アスキー・メディアワークス、2013、p.55)


そして、敵のヴォジャノーイに汚染された水は、物理化学的性質は変わりませんが、「災害係数」が増加するのです。
その結果、その一帯では水難事故が起こりやすくなります。
件の並行世界も、ヴォジャノーイに汚染され尽くした結果、全てが水没するほどの大災害に見舞われてしまった世界です。

陽平が子供の頃に溺れたのもおそらくそのせいで、妹の月子はその際に行方不明、その時助けてくれた人がどうやら夜波の母親らしい、と因縁のお膳立ても十分です。
そして、やはりウンディーネの戦士であった夜波の母親も、現在は行方不明。夜波は母を追い続けています。

エロティックなタイトルからの期待に違わず、サービスシーンも豊富。
水の力で戦うため濡れるほど強くなるという設定で、戦闘時の夜波はつねに濡れた衣服が身体に貼りつき、透けています。この濡れ透けが最大のエロスですが、その他にもあります。
また、必死で母を追ってきたためにそれ以外の情緒が不足しており、おまけに普段周囲が女性ばかり(ウンディーネの戦士になれるのは女だけ)なこともあって無頓着で無表情な夜波が、陽平に対して羞恥の感情を自覚していく様もなかなか魅せます。

ただ若干気になるのは、展開のペースです。
350ページに達するこの1冊の中で、最初に敵が出現して戦いになるのは全体の1/3を経過した辺り、陽平が今後も戦いに関わらねばならないことが明言されるのは2/3辺り。味方キャラの一人である檻崎塔子(おりさき とうこ)に至ってはこの巻ではほとんど顔見せだけと、かなりのスローペースです。
序盤部は戦いもなくのんびりした状況で、世界設定が語られます。
まあ、一面水没した中に学校の校舎だけが突き出ている世界という舞台設定に作者も愛着があって、丁寧に描こうとしているのはあとがきからも分かりますが…。

と、退屈しないか少々不安も感じましたが、敵の正体と行方不明の陽平の妹に関わる最後の引きは見事。
やはり次も読みたくなります。

鮎原夜波はよく濡れる (2) (電撃文庫)鮎原夜波はよく濡れる (2) (電撃文庫)
(2013/12/10)
水瀬葉月

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追記はその肝心なところのネタバレ+私の適当な見通しです。





この巻のラストで陽平は、妹の月子がノートに書いていた架空の動物が、つい先日見たヴォジャノーに酷似していることに気付きます。
ウンディーネたちにとってヴォジャノーイの出現理由はいまだ謎らしいので、これがその謎の解明に関わる布石なのは間違いありません。

と言いますか……
ヴォジャノーイの正体は水死した人間で、仲間を増やすために水の災害係数を上げており、いずれ夜波の母親が敵となって登場する――というハードな展開を想像したのは私だけではないはずです。

予想通りでも十分魅せてくれそうな展開ですし、予想外ならそれはそれで意外性を楽しめるかも知れないので、別にこれは悪いことではないのですが。

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