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智と技術の明暗――『魔女は月出づるところに眠る 上巻 ―ローブを纏って生まれた少女―』

本来の学事暦では来週辺りまで授業があるのですが、今週辺りでそろそろ「今年最期の授業」とする先生が増えてきますね。
修士論文の提出は年明けなので、執筆も追い込みの時期ですが(中には「構想はほぼできました。これから書きます」という人もいますが…)、いったん書いた文章を見直して推敲し、場合によっては内容も加筆修正するというのは力が入りにくいものがあります。PC画面を見ると目が疲れるせいもあるのですが…(一気に書いている時にはまだ気力が続くのですが)。そこで印刷して赤を入れることにしてみたり。
やはり、PC全盛によって紙とインクの消費は増えている気がします。

 ~~~

さて、今回取り上げるライトノベルはこちらです。
今月発売の新作ですが、「上巻」と銘打っていて、来月は中巻が発売予定なので、全3巻構成ということでしょう。

魔女は月出づるところに眠る 上巻 ―ローブを纏って生まれた少女― (電撃文庫)魔女は月出づるところに眠る 上巻 ―ローブを纏って生まれた少女― (電撃文庫)
(2013/12/10)
佐藤ケイ

商品詳細を見る

本作の主人公・東島恵奈(ひがしま えな)は小学6年生の女の子。彼女の通う学校には敬老の日に地域のお年寄りの手伝いに行く、という行事があるのですが、その時に彼女の訪ねた老婆・アボンドは本物の魔女でした。そして恵奈はアボンドに弟子入りすることになります。
しかし、魔法が使えるのも良いことばかりではありません。本作の設定では、魔女は「悪魔と契約」せねばならず、悪魔に「贄を捧げる」という代償を求められるからです。
さらに、魔女たちの間には「オリエンテ婦人の復活」という信仰があり、それを巡って敵対勢力間の争いも繰り広げられています。恵奈の友達である春辺里弥(はるべ りや)間垣(まがき)さくらも期せずして魔女や悪魔の関わる事態に巻き込まれ、事態は陰惨な方向に動いていきます。この1巻でもクライマックスではすでに悲劇が……
恵奈は魔法のことを知る以前から「あちら側(ウルテル)の世界に行く能力を持っているなど、類稀な魔女の才能の持ち主であり、復活する「オリエンテ婦人」の候補として魔女たちに注目されているのですが、さてどうなるのでしょうか――というところまでがこの上巻です。

つまりダークな魔法少女物と――と言いたくなりますが、このカテゴリーそのものがすでにかなり広くなっています。まずは本作が「魔法少女」物であるのかどうかを確認しておきましょう。
『ロストウィッチ・ブライドマジカル』の時に指摘しましたが、タイトルや作中で「魔法少女」の語を用いているかどうかは、決して形式的な事柄ではなく、その作品が「魔法少女」という主題に対するメタ的な問題意識を持って書かれているかどうかを示す重要なポイントです。

その点に関して言うと、本作が扱っているのはあくまで「魔女」です。
これは『ロストウィッチ・ブライドマジカル』ともいささか事情が異なります。『ロストウィッチ~』の場合、「魔女」の語には「ウィッチ」のルビが振られていました。このようなカタカナ語のルビは各キャラの能力名等にも一貫していて、これが作中固有の用語であることを強く主張します。
対して、本作『魔女は月出づるところに眠る』では、そのような仕様は控えめです(「あちら側」と書いて「ウルテル」と読む例はありますが、これもラテン語に由来する辺りが西洋の魔女の伝統的な言葉遣いを感じさせます。ちなみに表紙の欧文タイトルも Maga in terra lunae orientis dormiat とラテン語です)。
そもそもアボンドは「黒い服のおばあさん」という実に古典的なイメージの魔女ですし↓、さらに「魔女」たちはファンシーな衣装に変身するわけでもなく、幽体離脱のような状態で「あちら側」の世界に行くことで魔法を行使します。これまたトランス状態で超常の力を駆使するという伝統的イメージに即したものでしょう。

アボンド
 (カラー口絵より)

主人公が女子小学生というのもライトノベルとしては(年齢と性別という二重の観点で)珍しく、それがこんな「魔女のおばあさん」と出会うというのは、どちらかというと児童文学的モチーフですね。ただしそれが「本当は怖い童話」系に急転するわけですが。

にもかかわらず、本作には『魔法少女まどか☆マギカ』との無視できない類似があります。
たとえば、本作における「悪魔との契約」は、悪魔を封印した宝石を心臓に埋め込むことです。ストーリー上は必ずしも、このモチーフが「宝石」である必要はないように思われるだけに、かえって影響を感じさせます。
もっとストーリーに関わる類似点もあります。悪魔と「契約」した魔女は、自らが悪魔に食われないために悪魔に「贄を捧げ」なければなりません。そのために一番良いのは、他の悪魔を狩って贄とすることです。
つまり、魔女は人を襲う悪魔を倒すヒーローですが、同時に悪魔と戦い続けねばならない宿命を背負っているのです。
その力の根源に負の面を抱えたヒーローというモチーフは数あれど、「敵と戦い続けねば自分が生きられない」というのは決してありふれてはいない重要な点です。この場合、「敵がいなくなった平和な世界」は、ヒーローにとっても滅びを意味するからです。
この設定が『仮面ライダー龍騎』から『まどか☆マギカ』の系譜上にあることについては、今更多くを論じる必要はないでしょう。

さらに、抜きん出た才能を持っていて周囲から注目されながらなかなか契約しない主人公、先に契約してしまう友達という構図も、いかにも『まどか☆マギカ』を思わせます。
恵奈が本当に「オリエンテ婦人」たり得るのか、そもそもどんな選択をすることになるのか分かりませんが、彼女が契約して本格的に魔女のなる時の決断が物語を決定的に動かすだろうと予想させるには十分です。


その上で、おそらく本作の核心に関わると思われる差異として、本作にはキュウべえのごとき誘惑者はいません。
本作における「悪魔」とは狡知を尽くして人間を誘惑するメフィストフェレスではなく、ただ盲目的な渇きを癒そうとして人間を襲うものです。
そして「悪魔との契約」とは実のところ、魔女が一方的に悪魔を捕まえて封印し、その力を利用することです。

すなわち、魔女とは人間にとって脅威となるような力を使役することのできる智者、技術者です。
これはおそらく「秘せられた智を駆使する女性」という、魔女の本来の意味に忠実なのでしょう。
もちろん、この技術は完全に馴致されたものではなく、上述のような代償を伴うのですが、これは技術のリスクそのものでしょう。

まあ、何も知らない一般人を魔女の世界に巻き込み、危険な目に遭わせている連中は存在するのですが、それはやはり魔女であり、しかもただ種をばら撒くだけで、あまり丁寧に人を誘惑しているわけではないようです。
誘惑はつねに人間の側から、それも究極的には自らの内からやって来ます。

さて、作中には魔女の勢力間で闘争が存在する他に、魔女そのものを悪と見なし、魔女とは別の力を使って魔女を狩る勢力も存在します。彼らはやはり伝統に則って、キリスト教教会の関係者です。
果たして魔女は悪なのか――これはそのまま、技術の光と闇を巡る戦いが予想されます。

この上巻では最後で各勢力の内実と対立構図が説明されるところまででしたが、今後が楽しみですね。

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