オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
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無茶苦茶な宇宙――『ウは宇宙ヤバイのウ! ~セカイが滅ぶ5秒前~』
![]() | ウは宇宙ヤバイのウ! ~セカイが滅ぶ5秒前~ (一迅社文庫) (2013/12/20) 宮澤 伊織 商品詳細を見る |
作者は角川スニーカー文庫で『僕の魔剣が、うるさい件について』でデビュー、シリーズ化して4巻まで出していた人ですが、一迅社文庫からは初の刊行となります。
タイトルの元ネタはブラッドベリ『ウは宇宙船のウ』と2ちゃんねる等で有名なコピペネタ「宇宙ヤバイ」です。
元ネタのブラッドベリの小説の方も、R is for Rocket を頭文字まで日本語に訳した訳者のセンスには何とも言えないものを感じますが、そこに2ちゃんねるネタを取り込むとバカバカしさが際立って、気にならずにはいられません。
(ついでながら、発売予定が発表された当初は「セカイが滅ぶ5秒前」の方がメインタイトルになっていたのが、(仮)が取れると共にメインタイトルとサブタイトルが入れ替わっていました)
もっとも、長いタイトル・アホなタイトルのライトノベル、本文のみならずタイトルにもネットスラングを取り込んだライトノベルは多々ありますが、本当にそういうアホなタイトルの作品の方が成功しているのかどうか、エビデンスに基づいているのどうかは甚だ疑わしいことです。実際、適当に決めたものがいつの間にか採用されていた、等という逸話もあるものです。
しかし本作の場合、あとがきでタイトルの元ネタを説明した上、謝辞を捧げる相手に「「宇宙ヤバイ」コピペを作った名無しさん」まで含めています。ある種のこだわりが感じられます。ちなみに、本文中にもSFネタは大量に見られます。
タイトルの話はこれくらいにして内容に入ると――要約は困難です。
とりあえず、冒頭でいきなり巨大隕石が衝突して地球が滅び、そして2日前に戻ります。
そこで解説される設定――普通の高校生のはずだった久遠空也(くどう くうや)は本来、星間諜報組織〈偵察局〉のエージェント、クー・クブリスであり、従姉妹の非数値无香(ひすうち ぬるか、通称ヌル香)は彼の相棒たる宇宙船「ヌルポイント」でした。
空也が記憶を失い、ヌル香も人間になっているのは、並行宇宙を混ぜ合わせてエネルギーを取り出す代わりに宇宙のあり方を改変してしまう「世界線混淆機」を作動させたためで、彼らが普通の高校生として生活しているこの宇宙は、本当は世界線の混淆により5分前にできたとのこと。
世界創造5分前説と言えばバートランド・ラッセルですが……しかしこの場合、空也がこの宇宙で15年間生きてきた記憶も偽物ではなく、宇宙は過去に遡って創造されたのです。実際、5分前というのは冒頭の隕石衝突時点でのことだったのですが、そこから2日前にタイムスリップしても宇宙はちゃんと存在しています。
この場合、「宇宙が5分前に創造された」というのは何を意味するのか、それは果たして宇宙の中での「5分前」と同義なのか……といった疑問が生じてきますが、しかし本作はそんなことを気にするのも無意味に思えてくるやりたい放題のコメディです。
何しろ、この出だしならば2日後の隕石衝突を防ぐべく奔走する物語が期待されますが、そうはなりません。
空也の記憶もヌル香の宇宙船としての力も失われていて、できることはあまりない…というのもありますが、彼らは相変わらず学校に行っていますし、そもそもバカバカしい設定の宇宙人やら組織やらが次々と襲撃してきてそれに振り回されてばかりで、そのあまりにカオスな世界観に何が目的だったのか忘れそうになります。
大食いヒロインの体内にブラックホールがあったとか、宇宙の時間がサーバで管理されているとか――
くだらないことを真面目ぶって語る設定解説が随所に挿入されるのも特徴で、たとえばこんな感じです。
宇宙にはいくつかの力がある。
重力。
電磁気力。
強い力。
弱い力。
すべての物理法則は、この四つの力によって起こる。
この他に、まだ知られていない第五の力があるのではないかという説もあり、愛の力と暴力がもっとも有力な候補とされている。
愛の力学派と暴力学派はあまり仲がよくない。この二つの派閥に属する物理学者が出遭うとだいたい殴りあいになるので、その事実をもって、この宇宙では暴力の方が支配的だと主張する者もいる。その一方で、愛は暴力であり、暴力もまた愛の一つの形だとして、愛と暴力の統一理論を唱える学者もいる。
妹型生物の放った怪光線は、これらのどれとも違う、マイナーな力によるものだった。
それは「妹(いも)の力」と呼ばれ、女性の霊的なパワーを司っている。
この力を研究した柳田國男は、銀河系で物理学者として名を知られている数少ない地球人だ。
(……)
(宮澤伊織『ウは宇宙ヤバイのウ! ~セカイが滅ぶ5秒前~』、一迅社、2013、p.95)
しかも、これだけの紙面を割いて解説しておいて「妹の力」なるものがいかなる効果を発揮する力なのかはよく分かりませんし、これ以降活躍することすらありません。この無駄具合がアホらしさをよく表現しています。
世界線混淆機で宇宙を改変するたび、――何とか元の世界に近い形になるよう調整しているものの――学校の時間割が少しずつ変質していく辺りなど実にカオスです(しかし数学だけは断固として二次関数のまま変わらない)。
この世界の改変されっぷりとその結果のバカバカしさはほとんど『はれときどきぶた』に通じるものがあります。実際『ぼくときどきぶた』で何もかもがぶたになったのにも似た怪事も発生しますし。
それでもこのどこに向かっているのか分からなかった話のいくつかの要素がそれなりに繋がってラストに向かうのですから驚きます。
ただ少し気になるのは、設定解説の扱いです。
解説が挿入される箇所は、行頭を2文字下げることで明示しています。

それはいいのですが、第一章でヌル香が語る胡散臭い逸話――爆発した爆弾にも家族があって、もっと生きたかったとか――も同じ形で挿入されるのです。
しかし、途中からはヌル香もよく知らないらしきことも挿入されていますし、基本的に超越的な視点からの設定解説です。
「作中人物が語る、出まかせの可能性もある話」と「無茶苦茶だが作中では事実であること」との差異は――いかに出鱈目なことがありの作品であろうと――それなりに重要なことなので、こうした記述の落ち着かなさは少し気になるわけです。
ただ、基本的にはとても楽しめた作品です。
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