オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
ヒーロー誕生への道半ば、か――『鮎原夜波はよく濡れる 2』

両親の戴き物で、だいぶ前から実家にあったのですが、開封する機会がなく、私が貰ってきたもののやはりしばらく開封せずに放置していて、最近ようやく食べました。
まあ普通の煮物です。心臓となると魚肉という感じはしません。
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さて、発売日から言うと少し遅れて、その後に発売された作品の方を先にしてしまいましたが、今回取り上げるライトノベルはこちらです。
![]() | 鮎原夜波はよく濡れる (2) (電撃文庫) (2013/12/10) 水瀬葉月 商品詳細を見る |
(前巻の記事)
1巻の時から繰り返しますが、本作はヒーロー物的です。
主人公の渚野陽平は、1巻で水の怪物ヴォジャノーイに襲われて致命傷を負いますが、夜波たちによって救われます。
しかし、この時に行ったのは「怪我という出来事を水に封じる」という操作なので、怪我を封じた水に何かあれば怪我を復活して死ぬ定めとなりました。
さらに、この時にヴォジャノーイの身体を構成する水を使用しているので、定期的に戦いに同行してヴォジャノーイの水を補給せねばならない、という宿命も付け加わります。
命を救われてヒーローの世界に、というのはウルトラマン的ですが、同時に敵と戦って倒し続けねばならない宿命というのは――ちょうど同じく今月発売の『魔女は月出づるところに眠る』の時にも触れましたが――『仮面ライダー龍騎』『魔法少女まどか☆マギカ』のラインでもあります。
ただ、本作中においてこれらの設定はヒーロー全般の宿命ではなく、主人公のみが背負った特殊な事情であり、しかも主人公はここまでのところ、まだヒーローにはなれていません。
「ウンディーネの戦士」たる少女たちの戦闘服「クローク」と比べれば露骨に見劣りのする申し訳程度の衣装を身に纏ってタンクとペットボトルで水を補給する係ですから。
今巻では新たにヴォジャノーイ捕獲作戦が始動し、陽平は捕獲担当になりますが、これも戦闘力は皆無で、味方が敵を完全に押さえてから捕獲に行く役です。
しかし、陽平にはヒーローになれる見込みがないのかと言うと、そうとも言えません。
1巻で陽平は、本来クロークを纏ったウンディーネの戦士にしか使えないはずの武器を作動させており、これがなぜ可能だったのかは不明のままでした。
ただ、この謎については今回2巻では特に触れられることもなく据え置きになっています。
もしやこの物語はまだ、陽平がヒーローとなるまでの長い道のりの途中なのか、という気がしてきます。もっとも、『まどか☆マギカ』のように主人公が力を得たところでクライマックスという可能性もありますが。
1冊の単行本内で見ても展開は非常にゆったりしています。
今回は、1巻では顔見せだけだった味方キャラ、地霊(ノーム)の檻崎塔子(おりさき とうこ)がこちらの世界にやって来て、戦いにも参加するのですが、初陣では全く力を発揮できず、活躍は終盤になってようやく訪れます。
一度は敗れて後半戦で挽回、というのも定番の展開ですが(本作の場合、敵を倒しはしても汚染を止めるとか捕獲するとかいったミッションは失敗、という形になります)、一人のキャラがその力を見せるまでに300ページを超える単行本一冊、となると、やはりスローペースな部類でしょう。
他方で今巻での新しい展開はというと、まず陽平と夜波の高校生活がスタート。こうした普通の生活経験に乏しく、学校生活になかなか馴染めない夜波の姿やら、そんな彼女を受け入れようとするクラスメートやらが描かれます。
バトルパートに関わることでは、水に濡れることで気持ち良くなって興奮する謎の女が登場。一挙にヴォジャノーイの裏側が判明とまでは行きませんでしたが、ヴォジャノーイにも明らかに彼女を特別視しているような動きが見られ、敵の目的を示すヒントにもなります。
相変わらず、濡れて透けるのを初めとして、縛られれば縛られるほど強くなるとか、一風変わったエロティシズムは健在で、描写も入念です。ただ、入念なのですが――
戦闘シーンそのものは事実の淡白な描写に留まっている感がある中で、エロス描写がやけに入念なのが少々違和感を感じさせるところでもあります。
まず足元のローファーを脱ぎ捨てる。次にスカートの下に手を入れ、するすると、黒のストッキングを下ろした。初めて見る、彼女の生足。白く肉感的な太股、ふくらはぎ。彼女はギリギリと歯噛みするようにしながら、スカートのチャックを開けて足元に落とす――大人びた下着が露わになった。次は上だ。セーラー服をめくり上げて、首を抜く。下とお揃いの洒落たブラジャーが露わになってはちきれんばかりの曲線がたわわに揺れてあれはいったいどんな禁断の果実なのか。それらが生む谷間は男の視線を誘う死の谷だ。魅入られれば死ぬ。実際に彼女の殺意の籠もった視線が陽平を殺そうとしている。しかしそれがわかっても、あまりのことに脳の理解が追いつかず、陽平は目が離せない。夜波がジト目でこちらを見ていることに気付いてもだ。
そして最後に。どうしてか、それが一番エロティックに見えたが――
塔子はゆっくりと、両腕の手袋を、外した。
形の良い、二の腕。
(水瀬葉月『鮎原夜波はよく濡れる 2』、アスキー・メディアワークス、2013、pp.260-261)
戦うために服を脱ぐ必要があるという設定は良いとして、戦いよりもこちらの描写の方がはるかに気合いが入っています。
そして陽平が人並みに性欲のある少年なのもそれ自体は良いのですが、――たとえ痛みを被る設定があるにしても――戦いを脇で見ているポジションであることもそれに拍車を掛けます。夜波たちの戦闘は遠目に見ていることとして、淡々とした事実描写に留まっているのに対して、視点人物の利害関心が関わること(エロス)は熱が入って描写されているような……
さらに、今回陽平が使う捕獲装置にしても、直前に準備しなければならないという設定によって陽平が現場で危険に身を晒すことを要求される……はずなのですが、戦況をよく見て好機が訪れてから脱いだり舐めたりして(なぜそうしなければならないのか、ということ自体は一応理由がありますが)準備している暇があるというのが、かえって緊迫感を削いでいる気もします。
敵がコミュニケーション不可能な怪物であって、やり取りが味方間にしかないこともこれに寄与しているかも知れません。
ただ、敵側に意志のある存在も仄めかされたことですし(まあ想像された通り)、さて今後はどうなるでしょうか。
以下は例によってネタバレを含む話を少しだけ。
今回判明したポイントは、ヴォジャノーイが特定の人間を攫おうと狙っているらしい、ということと、ヴォジャノーイ側に意志を持った何者かがいる、ということです。
というわけで、陽平の妹・月子や夜波の母親も、ヴォジャノーイに攫われた可能性が高くなってきました。
私は1巻の記事で「ヴォジャノーイの正体は水死した人間」と推測を提示しましたが、彼女らはあくまでは死亡ではなく行方不明になっているわけでしたし、そこは修正の必要がありましたね。
しかも、誰でもいいわけではなく、素質のある相手を狙っているようですし。
ただ、月子がノートに描いていた生物がヴォジャノーイの姿に採用されていることからして、やはり攫われた者たちが敵側に取り込まれて登場する可能性は高いのではないかと…。そして、やはりヴォジャノーイがそのような人間を攫うために、水の災害係数を上げているという可能性も。
真相はヴォジャノーイ側の意志次第でしょうが。
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