オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
殺し屋にも人並みの情――『サイコメ 4 殺人忌と裏盆会を』
そして外食に出かけると、隣席の客が煙草を……そのせいか頭痛もします(まあ、煙草の煙など吸わなくても頭痛がすることはあるので、原因は分かりませんが)。
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さて、今回取り上げるライトノベルはこちらです。
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(前巻の記事)
前巻、期末試験で成績上位者3名には仮釈放の権利が与えられる、という話になっていました。
今回は試験の結果発表から始まりますが、いずれにせよ仮釈放枠3人ではレギュラーメンバー全員は無理です。
しかし、この仮釈放枠とは別に鋭利が実家から呼び出され、京輔も呼ばれることに。仮釈放の権利を手にした煉子と京輔の妹・綾花もついて紅羽家に向かうことになります。
というわけで、作者も「番外編のような位置づけ」と言っている通り、レギュラーの一人である舞那や担任の久瑠宮が不在で、その他にもモヒカンやボブといった存在感のあるサブキャラもほぼ登場せず、その代わりに鋭利の家族――揃ってプロの暗殺者――が登場、と、普段とはだいぶメンバーが異なっています。
とまれ、今回は鋭利がメインです。
事情はどうあれ殺人を犯してしまった少年少女が集められるプルガトリウム更正学院にあって、鋭利は暗殺者の一族の生まれでありながら精神的な理由で殺しができず、学院に送り込まれていました。
そんな彼女のこと、いまさら実家に帰っても肩身が狭いのは想像に難くありませんが……
剣呑な第一印象からは適度にギャップのある可愛さ、家族想いの優しさ、そして殺しこそできないもののいざとなれば見せる強さと、鋭利の魅力をたっぷり描きます。
本作のメインヒロイン・煉子はガスマスクを外すと、――素顔は美少女というのもさることながら――凶悪な殺人マシーンの本性を現すという設定で、今までは終盤の山場で煉子のガスマスクが外れるのが恒例の展開でした。いわばヒーローの活躍のようなものであって、もちろん殺人鬼ですから京輔たちの手を焼かせることもありましたが、他方で時には主人公よろしく説教して活躍したり。
しかし今回はそれもなし。山場となる戦闘も鋭利が決めます。
ただ、ラブコメとしては煉子に対する京輔の気持ちに進展が見られましたが…。
そして、締めは割といい話です。
暗殺者であれ、家族の情に変わりなし、という。
「暗殺を生業にしてるんだもの……優先順位と損得勘定で、必要なら躊躇なく命を奪わせてもらうわ」
平然とそう断じる辺り、表社会とは根本的なところでズレていた。狂っているのではなくズレている。芙蓉にとって殺人とは『手段』の一つに過ぎないのだろう。
一般的な倫理や道徳という常識(ブレーキ)は、そもそも存在してすらいない。
(水城水城『サイコメ 4 殺人忌と裏盆会を』、エンターブレイン、2013、pp.294-295)
本作の地の文は三人称なので、これは主人公である京輔の現実認知と一致してはいないかも知れませんが、「殺人者たち」を一絡げに恐れていた初期の京輔の心理から思うと結構遠くまで来たものです。
京輔にとっては、長年一緒に暮らしていた妹の綾花が平気で人を殺せるような少女だったと知って、それでも受け入れることを決意したのが大きいのかも知れません。
容赦なく人を殺せる――殺す理由が個人的感情であれ利害計算であれ――人間であることと、身内に対して人並みの情を持った「いい人」であることは何ら矛盾しません。
それは一纏めに「狂っている」と括っていては見えてこないことです。
学園に居残りとなった舞那も、合間に日記で登場、ここでボブや千尋、道郎といったサブキャラたちが殺人を犯してこの学園に収監された事情も語られています。
やはり殺人者といっても、間違って殺してしまった者も多いようで。
そんな中で人肉食系女子・千尋だけは過失でもなく、しかも平然と人を殺している危険人物なのですが、それで憎めない可愛さがある辺りがあるんですよね。人懐っこく悪意がないせいでしょうか。
ところで前巻ラストの引きは煉子の親(制作者)が登場していましたが、今回そちらは動きなし。次巻でようやく登場するようです。
そう言えば、綾花も1巻・2巻のラストで続けてその動きが描かれた後、3巻でようやく登場したわけで、同じパターンですが、次巻に繋がらない引きというのはどうなのだろうと思わないでもありません。
ともかく、次でメインヒロインである煉子のエピソードということは、締めが近いのでしょうか。
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