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タイトルから想像されるほど切れ味鋭くはないが…――『総理への直言』

すでに旧聞に属しているかも知れませんが、一色正春事件というのも覚えておいででしょうか。
2010年9月7日、中国の漁船が海上保安庁の巡視船に衝突して破損させた事件で、漁船の船長は逮捕されたのですが、「尖閣諸島は中国の領土」とする中国側が船長を日本の司法によって裁くことに対して抗議。那覇地検は船長を解放したのですが、当時の官房長官であった仙谷由人氏による指示があったというのが定説で、要するに仙石氏は中国におもねる外交に終始したということです。
しかしこの時、ハンドルネーム「sengoku38」を名乗った海上保安官・一色正春氏によって漁船衝突時の映像が You Tube に流出。一色氏は国家公務員法(守秘義務)違反容疑で書類送検されたものの、結局起訴猶予処分となっており、そもそもこの衝突映像を本当に守秘義務の課せられる「機密」として扱えるのかどうかも疑問視されたままです。

さて、最近成立した特定秘密保護法が当時存在していたら、どうでしょうか。この衝突映像を「防衛に関する事項」を「ロ 防衛に関し収集した電波情報、画像情報その他の重要な情報」として指定することができたのではないでしょうか。
少なくとも、比較的記憶に新しい「情報流出」事件がこの一色事件であり、この秘密保護法案の検討自体、一色事件を受けて始まった経緯があることを考えれば、このような事態を考えるのは理に適っているはずです。

つまり、某国におもねり、日本を某国の属国にしたい政権がそのために不利な情報を隠蔽するために、特定秘密保護法は役に立つということです。
確かに現安倍政権は中国・韓国に対しタカ派の態度を取っていますが、政権はいずれ交代し、法律はその後も存続します。たとえこれから政権交代のない世の中がやってきて安倍氏が生涯首相を続けたとしても、寿命は来ます。
そこまで考えた上で特定秘密保護法を指示するのかどうか、ということです。
法というのは、運用者が可能な限り「悪い」時でもできる限り安全なように設定しておくべきだと思います。

「さすがにもう二度と仙石のような奴を権力の座にはつけない。有権者はそこまでバカではない」――残念ながら、これほど説得力のない言葉もありません。

このように考えた時、現政権が一見正反対のようであっても、奇妙に前民主党政権を引き継いでいるように思われることがあります。
立場として民主党を支持するというのなら、誰にもその権利はありますけれど、民主党政権にお引取りを願った人、反中国の立場を示す人(安倍総理を含めて)がなぜこうも民主党の肩を持つのかは、まったく不思議なことです。

 ~~~

そんな話と多少は関係あるところで、久し振りに新書を取り上げてみましょうか。

総理への直言 (イースト新書)総理への直言 (イースト新書)
(2013/10/10)
西田昌司

商品詳細を見る

著者の名前は先だっての参議院議員選挙で京都選挙区の候補として見覚えがあったので手に取ってみました。
自民党議員である著者が、与党内から総理に「直言」するのか? と思い。

が、実際に読んでみると、本書のかなりの部分は先の民主党政権、あるいはもっと以前の小泉構造改革に対する批判です。
しかし、著者の批判することで現政権でも継続されていること、たとえばTPP参加はどう扱われているのでしょうか。第三章「TPPは売国条約」を見ると、最後に以下のようにあります。

 要するに、自分で自分の国を守るということを念頭に置いてさえいれば、TPP問題は解決できるものだと思います。逆に、これを念頭に置かずにTPPを論ずると、アメリカに身を売るという選択しかできなくなってしまうのです。これでは、民主党政権と同じ轍を踏むことになるのです。
 私の再三にわたるこうした指摘にもかかわらず、安倍総理は、TPP交渉参加を決断されました。しかし、条約を批准するためには、自民党内で議論した国益を守る基準をクリアしなければなりません。この基準を守れば日本にとって最悪の事態は回避できるはずです。交渉をしっかり見守ってゆきたいと思います。
 (西田昌司『総理への直言』、イースト・プレス、2013、p.95)


これだけです。

たしかに「解決できる」とか「この基準を守れば」といった言い方は、「決して参加してはいけない」と主張するものではないかも知れませんが、そもそも参加せねばならない理由があるという論も本書からは引き出せません。
「指摘にもかかわらず」という言からしても総理の方針に対して異議はありそうですが、著者が最初に議員になった時以来の師であるという安倍氏に気を遣っているのか、タイトルから期待されるほどに総理に対し真っ向意見してはいないような……

ただ、先の選挙で西田氏のTPPに関する公約は「国益守りぬく」という、他の項目に比べても著しく抽象的なものでしたが(国益を守るためにどうするかが問題なのです)これは氏自身の立場と党の方針との板挟みの結果だったのか、という推察はできるようになりました。


それでも、著者が党や安倍総理とは異なる自らの意見を提示している箇所はいくつもありますし、またそこには独自の筋が通ってもいます。
たとえば憲法改正に関しては、著者は(改正手続きを定めた)96条の改正を「邪道」と言います。

では著者の意見はというと、そもそも日本国憲法は「占領基本法」であってGHQによる占領が解けた時点で無効、本来は大日本帝国憲法が生きているべきである、というのです。
たしかに、サンフランシスコ講和条約は日本の「主権の回復」を謳っているわけですから、それ以前の日本には主権がない、すなわち一つの国家として認められていなかったわけです。
その状態で「国の最高法規」(第98条)たる憲法を定めることができるのか、というのは――「押し付け憲法」であるとかいう論とは別の次元で――法学的に問う価値のないことではありません。
とは言え、現実的に考えて、半世紀以上通用してきたものを今更無効にできるのか、というのは別問題ですが。

いずれにせよ、西田氏は現行憲法を認めた上で改正することには反対ですし、無効を主張してもただちに理解されていないことも認めています。ではどうするのかというと、憲法の条文はそのまま、解釈で補うという(割と一般的な)論になるのですが、しかしここで「現行憲法下でも集団的自衛権の行使は認められるという憲法解釈をすること」(『総理への直言』、p.143)のはよく分かりません。
氏は9条の条文を引いて、これは「戦争放棄ではなく、国防という国家主権の放棄を宣言するものであり、独立国家としてあり得ないことです」(同書、p.133)と述べていました。「国防という国家主権」は当然、個別的自衛権に属します。そこからなぜ集団的自衛権に話が飛ぶのでしょうか。
著者の中にどのような理があろうと、「集団的自衛権」とはどういうものでなぜ必要なのか、一切の説明を欠いてこの語が出てくることは事実です。

西田氏は平成に入って日本社会は「タガが外れ」、「戦後の価値の枠組みの中でしか、ものを考えない人が出世できる」「思考停止社会」に陥っていて(同書、pp117-120)、「同朋を守るためには自己犠牲も厭わないという自主防衛の道理を正面から論ずることから逃避」(p.214)していると主張し、本書はまず「国民への直言」(p.239)のつもりだ、と述べています。
「自主防衛」のためには個別的自衛権だけでなく集団的自衛権が必要だということは、「タガが外れ」「思考停止」した国民も説明を要さず理解できるほど、自明のことなのでしょうか。
そうだとしたら、理解できない私は不明を恥じるより他ありませんが。

といった不明点はあり、理念は明瞭でも政策としてどうすべきなのか判明でないことはもっと多いのですが、著者の議論は批判することに関しては明晰であり、また新自由主義批判といった立場もはっきりしています。
たとえば第1章「「JAL再生」神話のウソ」における、そもそもJALの破綻は国交省航空局の「オープンスカイ」政策の誤りにあるというのにその反省がないこと、経営再建に税金を注ぎ込んでいながら上場益を国民に還元せず、外国人株主に流しているのは詐欺であること、といった論はよく分かるものです。

いわゆる「戦後レジーム」というのは、アメリカの庇護下で国の独立を損なっていても経済的に繁栄しさえすればよい、という体制のことで、近年になってその問題点が噴出している、われわれが今生きているのは先祖あってのことであって、権利とはまず相続の権利であり、歴史観をもって国を引き継いでいかねばならない、といった主張も――賛否は色々あるでしょうが――筋は通っています。

その上でやはり気になるのは、そうした一貫した立場から場合によっては党や総裁の方針にも異議を唱える著者が――本人の言によれば、異議を唱えているのは党内でも著者のみということもあったとか――それでも自民党議員をやっているのはなぜか、ということです。
もちろん、政党は党の方針に従順な人ばかりで結成されるべき、とは限りません。党内に意見の多様性があり、批判者がいた方が良いということもあります。
その辺をもう少し明瞭に語ってくれれば、議員としての著者に期待したくなったかも知れません。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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