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穢れといいつつ純真な絆――『穢れ聖者のエク・セ・レスタ』

中国の通貨・人民元の略号は日本円と同じ¥だと最近知りました。例によってネット通販サイトで。
書物に関しては、他の国の製品で替えは効きませんからね。

 ~~~

本日紹介するライトノベルはこちらです。第9回MF文庫J新人賞受賞作品ですね。

穢れ聖者のエク・セ・レスタ (MF文庫J)穢れ聖者のエク・セ・レスタ (MF文庫J)
(2013/12/21)
新見聖

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最初に言っておきますが、本作はロボット物です。
……何なのでしょうかこのロボットの欠片も感じさせない表紙は。白背景に女の子一人というのはライトノベルの表紙としては定番ですが、その中で目を引くものかどうかも疑問で…

読み出すと、まず戦闘シーンの文章が引っ掛かります。何しろ、「ッッッ――!!」と書いて「ッッッ」に「爆音」とルビを振っているのです(p.16)。
「ッッッ――」といった促音の連続は、声にならない叫びを表す時などに用いられることがありますが、本作の場合そうではなく、爆発音そのものを表すのに用いている模様。

 ツッッツツッッッツッッッ――!! 途端に敵が集中砲火。死に物狂いの連続攻撃。
 (新見聖『穢れ聖者のエク・セ・レスタ』、2013、p.18)


読めないのはもちろんのこと、あまり爆発音が伝わってもきません。独自の擬音の使い方をするのはいいのですが、あまり成功しているとは思われず。
それから、「爆発、爆発、爆発――!」(同書、p.15)とか「大爆発――――ッッッ!!」(p.20)といった地の文の叫びも目立ちます。促音の連続に「爆音」とルビを振るのはこの二つの特徴の合成の結果でしょう。
しかし「大爆発が起こった」と書くのに比べて、地の文が叫べば迫力が出るというものではありません。むしろ、スポーツ中継で興奮しすぎて冷静さと公平さを欠いているアナウンサーを見ているような……

文章の他、用語に関しても気になることはたくさんあります。

たとえば、作中世界の年代は「統一暦1999年」です。この数字そのものは西暦を思わせるもので、実際、魔法と搭乗型ロボット兵器「輅機(ロキ)の存在――いずれも、統一暦1954年に後のフィガロ魔皇国皇帝オルドネスが手に入れた時に世界に出現したもの――を除けば、作中世界に存在する技術は概ね現代準拠と考えて良さそうです(もしかすると核兵器は存在しないのかも知れませんが)。多機能型携帯電話「PCD」が皇族向けの希少装備というのも'99年という一昔前の時期に相応しい感覚です(現実の'99年には、携帯電話そのものはもう少し普及していたはずですが)。
しかし、統一暦の「統一」とは何でしょうか。
たとえば魔皇国が世界を統一して定めた暦だというのなら分かりますが、作中においてフィガロ魔皇国の建国は1959年、魔皇国が全世界に宣戦布告したのは1989年です。特に関係ありません。
現実にあるものを連想させつつ名前を実物とは少し変えるというのは一般的なテクニックですが、そこで採用する作中固有の名称は世界観を伝える上で重要です。本作の場合、「この語を選んだ理由」があまりピンと来ません。
「地中海沿岸」とか「ヨーロッパ」といったマクロな地名は現実のままなのも気になるところ。なぜ暦だけオリジナルなのでしょうか。

文章や用語の話ばかりで字数を使ってしまいましたが、そろそろストーリーの説明に入りましょう。
上に触れた通り、作中世界では、魔法という能力と輅機というロストテクノロジーを手に入れた男オルドネス「フィガロ魔皇国」を建国して40年、そしてフィガロ魔皇国が全世界に宣戦布告し、世界征服に乗り出して10年です。
今日日世界征服など、とりわけ現代に近い世界においては夢想染みて聞こえますが、それをある程度まで現実味のある設定にしているのが、輅機が圧倒的に強力な兵器である上、魔法と輅機はオルドネスの直系の血族「フィガロの系譜(フィガロエルヴェ)にしか使えないという設定です。これでは他国が追いつくべくもありません。

主人公のシリュウは、10年前にフィガロ魔皇国によって滅ぼされたスィグア王国の王子で、オルドネスの戯れにより魔皇国皇子(つまりオルドネスの養子)にされていますが、皇位継承権も後ろ盾もなく、有力な皇族の部下として飼い殺しにされている状態です。
ヒロインのエトラはフィガロ魔皇国第57皇女、つまりシリュウの義妹で「白銀の聖女」と讃えられる少女。しかし彼女には裏の顔があって、シリュウに接触し、ともにオルドネスと魔皇国への復讐を目指すことになります。

聖女と讃えられつつ、裏では色仕掛けや脅迫を振るう悪女……と思わせてやはり非常に純真でいい子なエトラのキャラが見所ですね。
それから、魔法を使うのに必要な血が少ないという短所を補うべく、エトナはシリュウの力を借りることになるのですが、そのために必要なのがキス。まあキスとか胸を触るとかで力を発動するのは定番の一つです。
「屈辱的なデメリット」(p.85)とか「穢れを恐れていては前に進めない」(p.91)とか言いつつその程度か、もっとえげつないことかと――と思ってしまうのは、一つには、現に本作には陵辱シーンが目立つせいでしょう。

陵辱を行う悪役として一番活躍しているのは女性キャラ――第5皇女ディーヴァですが、それによって救いが生じるわけでもなく。
これが山田風太郎小説とかならば定番ですけれど、ライトノベルではあまり見ませんよね。

まあ、キスくらいで躊躇っている二人が初々しくもあるのですが。

「エトラ。その……今はやめておくか?」
 目を開けて尋ねてみた。するとエトラも目を開けて睨んでくる。
「……野暮な男ね。気付かないフリくらいできないのかしら」
「……あいにく男女間のマナーには疎い」
「奇遇ね。私もよ」
「そう、なのか? とんだ女狐かと思ったが思い違いか」
「バカね、女狐よ。……強い自分に化けなければ、こんな真似なんてできないもの」
 どこか情けなさそうに、エトラが一つ溜め息をついた。
 (同書、p.90)


ちなみに、このどこか気取った口調も二人の会話のほとんど全てに見られるものですが、これも国への復讐という大業に挑むため、等身大の少年少女ではいられない二人の姿をよく表していることかも知れません。

さて、成り上がりのためシリュウたちは策を駆使するのですが、ここでまた少し引っ掛かる点あり。
どこまでが主人公の策で、どこからがイレギュラーなのか、よく分からないまま話が進むのです(後で明かされはしますが)。こういう場合、主人公が「こんな策がある」と提示、それに対してイレギュラーが生じることで緊迫感が生じ、そこでまだ読者に対し明かしていなかった手を見せることでカタルシスを見せるのが通例です。そもそも作戦が分からないまま「これは予想外、まずいぞ」と言われても、どう反応したものやら――

ついでに、タイトルにある「神代の詩(エス・セ・レスタ)とは、「フィガロの系譜」各人固有の最強魔法のことです。
「穢れ聖者」は当然エトナのことですが、実はエトナはまだ「神代の詩」を習得しておらず、そのために必要な「捧貢」も得ていないとのこと。ただ、彼女の捧貢が何なのか――それは多分シリュウとの絆に関わる――を示唆する布石はあったので、ラストバトルで「神代の詩」に開眼するのかと思いきや、そうならないのです。
新人賞作品でも引きがある、どころか壮大な物語の序章のようになっている例は結構ありますし、本作もその一つですが(当然のことながら、二人の復讐はこの1冊では完了しません)、まさかタイトルにあるものが登場しないとは予想外です。
簡単に必殺技に覚醒しない厳しさ、策略部分も含めてご都合主義のない作りは見所かも知れませんが、新人賞作品としては序章に過ぎる気もしますね。

皇帝オルドネスも外道ながら底知れない恐ろしさのある人物で、シリュウの復讐という目的も知りながら平然としていて、殺しても殺せそうにありません。
復讐は道遠しですが、穢れを引き受けると言いつつ純真な二人の絆はどこまで難関に挑めるのか。
そう、主題とキャラはなかなかいいのです。表現の難について字数を使ってしまいましたが……

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