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永遠と一瞬、歴史の領域へ――『うたかたエマノン』

梶尾真治氏の短編『おもいでエマノン』が発表されたのは1979年、最初の単行本化は1983年です。
(この『エマノン』シリーズについては、漫画版のことが中心でしたが、「奇跡の一作(色々な意味で)」で少し触れました)

そして、2000年に出た徳間デュアル文庫版の巻末に収録されたイラスト担当・鶴田謙二氏との対談で、梶尾氏はこんな構想を語っていました。

 ――「エマノン」には長篇のネタもあるとのことですが。
梶尾 ええ。彼女がマルチニク島に住んでたゴーギャンや、ラフカディオ・ハーンたちとゾンビ狩りをする話(笑)。
鶴田 ゾンビ狩り!? 新機軸ですね(笑)。
梶尾 ただのゾンビじゃないんですけどね。資料はそろってますから、あとは書くだけ(笑)。まあそのうちに。鶴田さんが「エマノン」はもう書きたくないという前になんとか…。
鶴田 がんばってください(笑)。
 (梶尾真治『おもいでエマノン』、徳間書店(徳間デュアル文庫)、2000、p.350)


この後に書き下ろしで『かりそめエマノン』『まろうどエマノン』、それにまた短編集『ゆきずりエマノン』と続巻が出ていましたが、長編の報は聞かず……と思っていたら、昨年11月、ついにそれが刊行されました。

うたかたエマノン (文芸書)うたかたエマノン (文芸書)
(2013/11/13)
梶尾 真治

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実は『エマノン』シリーズは一部しか読んでいないはず(そもそもどれだけ読んだか記憶定かでない)私でしたが、まあ時系列的にも前の方の話なはずだし、構うまい、と読んでみることにしました。
ゴーギャンとラフカディオ・ハーンがいる、ということで、舞台は1887年のマルティニーク島です。
主人公は島の公証人事務所で雑用をしている少年ジャン
エマノンは40年前(当然、祖母の代でしょう)にもマルティニーク島に来ているのですが、その時の記憶を無くしており、それを探しに来た、と。
エマノンの記憶を取り戻すため、40年前の足取りを辿るべくペレー山に登るジャンとエマノン、ついて来るラフカディオ・ハーンとゴーギャン。
例によってエマノンは男たち皆を魅了する存在で、ジャンもハーンもゴーギャンも彼女の力になろうと必死です。

他方で、エマノンは絶滅動物を密かに保護したりと、相変わらず自然史の影で活躍しています。

問題のゾンビですが――一般に流布した「生ける死者」の類ではなく、マルティニークの人々の伝承としては、得体の知れないものをほとんど何でも包摂するような怪物、という感じです。
その正体は読んでのお楽しみですが、やはりSFらしいものになりましたね。普通の「ゾンビ」のイメージにも縛られない設定でなかなかに印象的でした。

エマノンは30億年の記憶の重みに苦しみ、自らそれを失くすことを望んだようですが、結局取り戻しに来てしまうのが彼女の宿命なのでしょうか。
この辺り、「エマノン」は変わりません。

と同時に今回は、煙草にジーンズというエマノンのスタイルが完成した時のエピソードでもありました。いわばエマノン黎明編。

旅を続けるエマノンと人々の出会いは一瞬で、全ては無常に失われ、ただエマノンの記憶だけは全てを保存して永遠に存続する、という一瞬と永遠の交錯はいわば「エマノン」の基調音のようなものですが、今回は年代の古さと歴史上の有名人が登場するキャストの豪華さゆえに、それがいっそう際立ちます。
その後のマルティニーク島の歴史、何もかも失われてしまう喪失感。けれども最後には時代を現代(2013年)まで繋いで、エマノンは今も行き続け、人知れず全てを伝えていることを印象付けてくれます。

ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の作品ネタで「実はハーンのこの作品は、この時のマルティニークでの経験に基づいているのかも知れない」といった設定で楽しませてくれますが、それに比べるとゴーギャンの作品のネタはあまりないのが少し残念でしょうか(終盤の一面青い光に包まれた洞窟は、もしかしたら大作《われわれはどこから来たのか、われわれは何者か、われわれはどこへ行くのか》をイメージしているのかも知れませんが)。ただ、表紙絵が見事にゴーギャンのイメージなので良しとしましょうか。

 ―――

時期を同じくして鶴田謙二氏のコミカライズも新巻発売。鶴田氏の漫画で単行本3冊目というのは異例といっていい貴重さです。

續 さすらいエマノン (リュウコミックス)續 さすらいエマノン (リュウコミックス)
(2013/11/30)
鶴田 謙二、梶尾 真治 他

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こちらの内容は、原作の第3エピソード「ゆきずりアムネジア」のコミカライズ。山中で記憶喪失になっていたエマノンを発見、世話する青年・良三の話。
大筋は原作通りながら、無印「おもいでエマノン」に繋がる部分も書いて、原作とは異なる余韻のある物語になっています。
副題として年代を付けて、エピソード間の前後関係をはっきりさせているのもポイント。『エマノン』未読の方にはコミカライズの方から進めてもいいかも知れませんね。原作のイラストレーターも鶴田氏ですし、エマノンはすでに二人の合作キャラクターのようなイメージなので、違和感もないでしょう。



さらに既刊の新装版も刊行予定とのこと。

おもいでエマノン: 〈新装版〉 (徳間文庫)おもいでエマノン: 〈新装版〉 (徳間文庫)
(2013/12/06)
梶尾 真治

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さすらいエマノン (徳間文庫 か 7-5)さすらいエマノン (徳間文庫 か 7-5)
(2014/01/08)
梶尾 真治

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かりそめエマノン (徳間デュアル文庫)かりそめエマノン (徳間デュアル文庫)
(2001/10)
梶尾 真治

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まろうどエマノン (徳間デュアル文庫)まろうどエマノン (徳間デュアル文庫)
(2002/11)
梶尾 真治

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ゆきずりエマノンゆきずりエマノン
(2011/05/17)
梶尾 真治

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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