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スタイリッシュな軽快さ、助手席性、額縁性――『ユーミンの罪』

修士論文の提出が完了しました。
正確には、昨日今日と提出期間で、論文そのものは昨日すでに提出しましたが、同じ期間内に博士後期過程への進学願というものも提出する必要があって、そちらは先生の検印をいただくのが今日になりましたので、今日でようやく一段落ついた感じです。
後は試問待ち。

いつも通りに学術書を読んでいると、「修論提出したばかりでよく勉強する気になるね」と言われることがありましたが、実家で過ごした年末年始と比べると、京都の家は数え切れないほどの学術書に溢れていて、あれもこれも読みたい(しかしとても追いつかない)というのが実情です。

 ~~~

そんなわけで、かえってすぐ読み終わり、ブログで紹介できるような本は読了しない日々なのですが(学術書は基本的に取り上げない方針で今までやって来ましたし)、また新書を取り上げてみましょうか。

ユーミンの罪 (講談社現代新書)ユーミンの罪 (講談社現代新書)
(2013/11/15)
酒井 順子

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著者は『負け犬の遠吠え』等で知られるエッセイスト酒井順子氏。本書はデビューアルバム「ひこうき雲」(1973年)から「DAWN PURPLE」(1991年)までを年代順に論じたユーミン論(※)です。

※ 旧姓の「荒井由実」と結婚後の「松任谷由実」をまとめて名指すにはやはり「ユーミン」の通称がしっくり来ます。

'91年で終わっているのは、著者がユーミンのアルバムを追っていたのがその頃までだから、とのこと。
それゆえ、本書の分析は全て、リアルタイムでユーミンの歌を受容してきた女性としての著者の実感に基づいており、それだけに説得力に溢れています。
著者が見て取るユーミンの特徴は、たとえば、「瞬間を切り取る」ことと「永遠」への憧れの同居。たとえば、最近映画『風立ちぬ』の主題歌として使われた「ひこうき雲」も、明らかに死を描いていながら、死にまつわるストーリー性はありません。死んだ人を瞬間の中に固定する、というわけです。
そして、それに伴う軽やかさ。スタイリッシュでカッコいい女性像を描き、女性たちはあまりにも多くの夢を見せられ、癒されすぎてきた、というのです。
たとえば「ルージュの伝言」にしても、男の浮気を扱っていながら、曲調も言葉も何とも軽いのですよね。時に演歌や中島みゆきとの比較を差し挟みながら、失恋・別れ・嫉妬といったテーマを描きながらのユーミン独特の軽いトーンを論じる辺りはなるほど、と思わされます。

そして「海を見ていた午後」に見られるのは、「意地とか根性、自己犠牲の精神」ではなく、「ダサイから泣かない」という女の姿(pp.26-27)。

 八〇年代は、女の時代と言われました。女性はどんどん強くなっていったのだ、と。ユーミンは七〇年代半ばに、既にその時代を予感し、先取りしていたのです。男性との交際、その先にある結婚のために、涙という手段を使わない女。そして、自己憐憫にうっとりしても、そんな自分を客観視する女。そういった女性像を、一九七四年に二十歳だった荒井由実は、描いていました。その歌詞は女性達を励ますと同時に、「男とつがいになるためには手段を選ばない」というなりふり構わない必死さを、彼女達から奪ったのではないか。「男にしがみつかない女」は、確かにダサくはありませんでした。が、客観視の結果として見えてしまうダサさを恐れるあまり私達は、野太い生命力のようなものを失った気もするのです。
 (酒井順子『ユーミンの罪』、講談社、2013、p.29)


そうして夢を見て、カッコ良さを思い求めた結果が著者の言う「キャリア志向の負け犬」であり、その意味でユーミンは晩婚化と少子化の一因ではないか、と著者は言います。書名の「罪」もそういうことです。
こうした歴史的因果関係の検証は難しいことです。ユーミンの歌が原因というよりも、そのような時代潮流であるからこそ彼女の歌が登場し、流行ったのだとも考えられます。ただいずれにせよ、時代の空気の中にユーミンを位置付ける論考として本書は大変優れたものです。

もちろん著者としても、「罪」と言うことで非難しているわけでもありません。「あまりにも多く望むものを与えてくれすぎた」という意味での、愛を示す表現です。

その他、著者がユーミンに見出す概念として「助手席性」があります。

 ユーミンの歌には、車やドライブといったモチーフがよく使用されています。それらの歌は、どれも男性が運転し、女性が助手席に座るというスタイルを想像させる。
 この時代、運転という行為は主に男性がするものでした。警視庁の運転免許統計によれば、アルバム「14番目の月」が出た一九七六年、運転免許保有者の男女比率は、男性七六・七%に対して、女性は二三・三%。女性の免許保有率は男性の三分の一以下でした。
 (同書、p.48)


時代の開拓者であっても、決して一人で道を切り開いてきたわけではない、舵取りをするパートナーがいて助手席に座っていた。「ユーミンファンの中には、その助手席感に共感する女性も多かったのではないでしょうか」(同書、p.53)。

はたまた、「松任谷由実」の特徴として挙げられる「額縁性」

(……)とある情景を描いた絵と額縁とをユーミンが用意してくれて、その歌を聴くことによって、絵に描かれている人物に自分がなり代わることができる。松任谷になってからのユーミンは、皆に「私もあの中の人物になりたい」と思わせる素敵な額縁を提供することに、大きな力を発揮しました。
 (……)
 もしも今の若者が、「恋にやぶれた後にアカプルコを一人で旅する女」の歌を聞いたなら、「は?」と思うはずです。今の若者は、ユーミンが得意とした「額縁性の提示」というものに、全く慣れていません。今の若者が歌の歌詞に求めるものは、心のしんどさに対して、対症療法的効果を持つ言葉。「心の傷を癒すためにアカプルコを旅する」といった非現実的シチュエーションよりも、「あなたは悪くない。そのままでいいんだよ」と言ってもらいたいのです。
 (同書、pp.189-190)


今の若者に受けるか否かはともかく、きわめて具体的な情景を提示するユーミンの特徴と、メッセージを投げかける歌との対比を的確に語った言葉でしょう。
それで、文学を読んでも割とビジュアルイメージを気にする私がユーミンの歌に感じる魅力の正体もよく分かりました。



負け犬の遠吠え (講談社文庫)負け犬の遠吠え (講談社文庫)
(2006/10/14)
酒井 順子

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テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

No title

あなたは悪くない。そのままでいいんだよ、
そうです、それそれ、それはキーワードだと思っています。

セクハラ、草食系、アラフォー、おひとりさま、
そんな分節に潜んで、男女の位相を変えてしまったのが、
私は悪くない、だと思うのです。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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