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被害者は魔王、犯人は勇者――『魔王殺しと偽りの勇者』

昨日は新年会に修士論文提出の打ち上げを兼ねたような宴会でした。
私は二次会には参加せず、比較的早めに帰ったものの、あまりネタも用意していないのでそのままブログは休みました。

 ~~~

さて、今回取り上げるライトノベルはこちらです。
8月に1巻、先月に2巻が出たのですが、ちょうど2巻が出てからまとめて読んだ格好になります。

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さて、本作は完全に2冊で前後編です。しかもミステリで、2巻で解決編になります。
作者によれば元々単巻物の予定が、ページ数が収まらず分冊したとのこと。それはいいのですが、2巻のあとがきでは「二巻が出せるかどうかは一巻の売れ行き次第なのは、どんな構成の作品であろうが変わらないわけです」等と書いています。
とはいえ、レーベルによってはたいてい2~3巻は出させてくれるところもありますし、1巻の結果が出る前に2巻の発売予定が決定していることもあります。とりわけ前2巻で前後編構成ならばそのような短期間連続刊行も考えられるわけで、上述のような話をされて作者とレーベルに対する信用が上がるか下がるか、言うまでもありますまい。

そんな話はさておいて、内容のことに入りますが、本作はオーソドックスな「剣と魔法」ファンタジーの世界を舞台にしていながら、バトルはありません。

物語は「大魔王タラニスが打倒された」ところから始まります。
しかし、「大魔王を倒した勇者」を自称する者は4人いました
誰か一人が本物なら、残り3人は嘘を吐いている――というわけで、「犯人」は「大魔王を倒した勇者」として名誉を受けるがゆえに、「犯人候補」が全員犯行を自称しているという逆転現象はあるものの、正当派の犯人当てミステリです。

主人公は王宮に仕える女戦士エレイン・イアラーグ。彼女は国王ウェインI世から命を受けて、魔族のユーサーと共に調査に乗り出すことになります。
ユーサーは本来王族の生まれであるものの、幼い頃に魔族となったという人物であって、現在は王宮の地下労に幽閉されています。
女性捜査官と囚人探偵という取り合わせは『羊たちの沈黙』のクラリスとハンニバル・レクターを思わせる取り合わせですが、ユーサーはレクター博士ほどの危険人物ではなく、普通に地下牢から出て調査のためエレインと一緒に旅をすることになります。
危険人物ではないものの、冷静な皮肉屋でからかうようなことばかり言っているユーサーと、単純で直情型のエレインの掛け合いがなかなか楽しくもあります。

本作は三人称で描かれていますが基本的にエレイン視点で、彼女は読者に忠実に情報を伝えるという意味では正当なワトスン役です。もっとも、とりわけ序盤の彼女は大魔王が殺された時の状況を聞きもしないで捜査を始めようとするわ、王宮への忠誠心が熱い分、王や偉人の正当性を揺るがすような発言にはすぐに反発して怒るわで、事実に対する判断の面では読者の視点に近いとも言えないところがありますが。
ただ、そんな彼女が後半は成長し、自分である程度まで推論を示せるようになるのも見所です。決別を告げられた後、ユーサーに対して自分の答えを語るところがクライマックスですね。

謎解きそのものは、4人の自称勇者――騎士レデリック、大魔王復活の神託を受けた聖女ジュセル、大魔導師ガダフ、傭兵隊長ダリオン――に順次話を聞いて、その嘘を見破っていくというものです。
犯人候補から一人一人「犯人ではあり得ない」者を消していくやり方は、上手くやれば理詰めの説得力としては強いものです(逆に論理性の乏しいミステリには、「他の可能性が本当に検証されて潰されているのか」疑わしいものがよくあります)。
もっとも、坂口安吾が『不連続殺人事件』で言っているように、ミステリというのは真犯人は犯人でなさそうに仕掛けをする(たとえばアリバイトリックetc.)ものなので、「消去法では当たらない」ものなのですが。
ただ、消去法というのは単に「他の可能性を消す」という消極的な論証ですが、「残った可能性」をもちゃんと検証し、「その人物がなぜ、いかにして犯行を行ったか」の積極的な論証をも、ミスリードを乗り越えて行うのならば、「一人ずつ可能性を検証する」やり方は依然として有効です。

もっとも、読者の視点から答えを求めるだけなら消去法で、最後の一人を検証する前に見えてしまうことになりますが……そこはやはり、全員の話を聞いた後でもう一捻りあります。


さらに、本作の面白いのは、ミステリにおける「犯人を当てたその後」の問題と、「魔王と勇者」というファンタジー世界観にまつわる問題を絡み合わせて扱っていることです。

現代社会を舞台にしたミステリの場合、いかに犯人に同情や情状酌量の余地があろうが、それは法廷に任せることにして、警察が犯人を逮捕したところで一段落とするのが一般的です。
しかし、それは法廷の問題を描かないことによって成立しているのです。法廷だって全てをカバーできるとは限りません。
警察の手に負えない事件の場合、「解決」はいっそう困難になります。

本作の場合、「真犯人」は「魔王を倒した勇者」として讃えられるはずが、ではそれ以外の者達は嘘を吐いて勇者となろうとしていたのだから、軽蔑すべきということになるのでしょうか。
いあ、今回は嘘を吐かねばならない事情があったとしても、彼らの偉大さが無に帰すとは限らない――そういう点も触れられます。

他方でファンタジーの問題ですが、この世界のアルブリオ王家は300年前に大魔王タラニスを倒した勇者アルフの子孫です。かのゲーム『ドラゴンクエスト』で竜王を倒した勇者の子孫が『ドラゴンクエストII』で三つの王家の祖になっていたくらい、この「勇者が王になる」という設定も「魔王と勇者」草創期からの付き物の一つですが、しかし英雄であり神の化身の子孫であって、大魔王が蘇った時に倒せるのはその血を引く勇者のみ――と、王家を神格化しすぎることの政治的問題が、本作では指摘されます。
第一、「魔族」とか「魔王」とは一体、何なのでしょうか。魔族であるユーサーと一緒に過ごして旅をする内、エレインはその問題に向き合わされます。多くの人間はただ魔族を恐れ、邪悪であって相容れぬ敵と見なしているのですが――
さらに言えば、「魔王を倒すと戦いが終わり」になるのも、なぜでしょうか。

そうした中で見えてくる真相により、「魔王と勇者」の意味も大きく転換します。
「犯人」が「勇者」として讃えられるという通常のミステリとは逆転した状況からもう一転して、改めてエレインは「命じられた通りに“誰が犯人か”報告すればそれで済むのか」という問いを突きつけられます。そして、そこが自らの答えを出せるようになったエレインの成長を見せるところでもあります。

「魔王と勇者」という定型を扱った作品は今や数知れず(近年のライトノベルでは流行りと言ってもいいでしょう)、あるものはパロディ的に、あるものは正面から、その意味の転換や解体を図った作品も数多くあります。
しかし、それをミステリにおける「犯人当て後」の問題と組み合わせたのは記憶にありません。

主人公と探偵も魅力的で、作者によればこの二人組が事件解決に当たるシリーズ構想は他にもあるとのことなので、期待してみたいところです。


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プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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