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悪魔のウェスタン――『D9―聖櫃の悪魔操者―』

なぜこんなにハイペースなのか自分でも少々疑問に思いますが、今回取り上げるライトノベルはこちらです。電撃文庫の新作です。

D9―聖櫃の悪魔操者― (電撃文庫)D9―聖櫃の悪魔操者― (電撃文庫)
(2014/01/10)
上野遊

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世界はウェスタン風、と言うべきでしょうか。
別にガンアクションというわけではなく、主人公の武器は剣ですが、冒頭が荒野を走る大陸横断鉄道の描写から始まるだけで西部劇の印象を受けます。
銃器は存在し、鉄道の守りに機関砲も搭載されています(他に武器としては手榴弾も登場)が、鉄道以外の移動機械はまだ普及していないくらいの文明レベル、ということが分かれば大体の感じは摑めますし。
ただし、本作の世界は異世界です。鉄道も蒸気機関車ではなく、遺跡から発掘された古代文明の遺産である失伝機関(ロスト・エンジン)で動いています。開始から2ページ、主人公が登場する前に鉄道の描写だけでこういった世界観がすぐに伝わるのがいいですね。

そして、この世界には悪魔が跋扈しています。

主人公のソーマ・ノイン・スオウは美少女悪魔メルヴィーユと契約した「悪魔憑き」の少年。様々な悪魔の力を使って戦いながら、かつて悪魔を召喚して故郷を滅ぼした実の兄・トーマを追っています。
同時に、メルヴィーユも記憶を失っており、自分が何者なのかを探し求めています。
メルヴィーユ自身は人を喰うような悪魔ではありませんが、それを理解してもらうことは困難なので、悪魔憑きであることは隠さねばなりません。一目をはばかり正体を隠して旅をするヒーロー的なモチーフもありますね。

この巻のストーリーとしては、ソーマはデルナの街に高名な悪魔学者アーチボルド博士を訪ねるのですが、そこで事件に巻き込まれます。
後半の二転三転する急展開、それにバトルはテンポも良くて楽しめました。

それと、途中から女泥棒のファムを加えて3人組になるのですが(今後も3人旅が続きそうです)、彼らの掛け合いもまずまず。
ソーマの妻を自称して積極的に迫るメルヴィーユに対し、ソーマはそっけないのですが、ファムが加わるとメルヴィーユと激しい争いが発生し、ソーマが頭を抱える、という構図で。

「つれないのう。儂はこんなにソーマを愛しているというのに」
 とびっきりの美少女に上目遣いでこんなことを言われてときめかない男はいない。
 ただしそれは相手がまともな人間であればの話だ。
 メルヴィーユは悪魔である。人間を堕落させ、籠絡し、その魂を食らい尽くす魔性の存在である。悪魔の誘惑に迂闊に乗ったらどんなことになるか。
「俺は地獄には行きたくない。来世も人間として生まれたい」
「儂はソーマと一緒なら無間地獄も厭わぬぞ。地獄の一丁目で新婚生活というのも悪くはないな。子供は男の子と女の子が一人ずつ。庭付き一戸建てで白い魔犬(ケルベロス)を飼うのはどうじゃ?」
 (上野遊『D9―聖櫃の悪魔操者―』、アスキー・メディアワークス、2014、p.64)


「儂とソーマの甘い時間を邪魔しておるのは貴様じゃろうが。ええい離れろ、その板っ切れのような乳をソーマに押しつけるでない!」
 腕に爪を立てて引っ張られながら罵声を浴びせられて、泥棒少女の方もキレる。
「板っ切れですって!?」
「反応するのそこかよ」というソーマの突っ込みなど誰も聞いちゃいない。
「板っ切れと言って悪ければ下ろし金と言ってやろうか? いいから離れろ! 儂のソーマがすり減るでは……貴様、何をきょろきょろしておる?」
「え? あらそこにいたのね? ごっめーん。小さすぎて分かんなかったあ。こんな小さい人って初めて見たかも。あ、人じゃなかったっけ」
「儂もここまで流暢に人語を操るどぶ板を見たのは初めてじゃ」
「……あは……」
「……ふふ……」
 (同書、p.197)



さて、この世界における「悪魔」というのは、人を襲って喰らうこと以外は謎の存在です。ただ、繁殖するのではなく自然発生するとか、普通の生物でないことは強調されています。
ただの図形に過ぎない魔除けの印になぜ悪魔を遠ざける効果があるのか、といった疑問も作中でちゃんと提示されており、何か設定があることを予想させます。

それから、この世界でも教会が力を持っているのですが、悪魔は必ずしもキリスト教神学における悪魔ではなく、各地の神話的存在がごた混ぜです。
メルヴィーユは契約した人間を依代とすることで、一人で多様な悪魔の力を使える特殊な悪魔なのですが、彼女が「降魔展開(オープンデーモン)で使える能力と同名の悪魔が別に登場していたりするので、全てに対応する悪魔が存在すると考えると、そこに登場するのは「幻灯南瓜(ジャックランタン)だったり「火蜥蜴(サラマンダー)だったり「雪の女王(スカディ)だったり…「迦具土(カグツチ)とか「経津主(フツヌシ)とか日本の神々の名まであります。

さらに、この世界の創世神話は、楽園(エデン)に暮らしていた始祖アダムが箱船を作って大洪水を生き延びたという、アダムとノアを組み合わせたような話になっています。
ただ、ここに古代文明の存在を合わせて考えると、この神話も古代文明の時代のことを語っているのではないか、と想像が付きます。
つまり、箱船とは星間植民のため人々と生物を乗せた宇宙船であった、と。この想像を支持する記述も本書の終盤に見られました。
作中の人間も、古代文明については現にその遺産を利用していますし認めますが、神話の聖遺物となると懐疑的、というのが常識的な反応のようです。しかし、実は両者は同じものなのではないか、というわけです。

すると、悪魔も古代文明の産物であることが予想されます。
その鍵となるのが特殊な悪魔であるメルヴィーユであり、本人も知らない彼女の正体なのでしょう。
そして、悪魔とは何か、という謎は、トーマがいかにして悪魔を呼び出すことができたか、という謎にも、ひいてはトーマを追う主人公の目標にも繋がってきます。

そもそも、この世界では徐々に悪魔が増えてきていて、将来は結構悲観的です。悪魔の正体を探ることは世界の命運にも関わってくるかも知れません。
世界設定と主人公の目的がきっちり噛み合っていて、大きな謎と目標もあって、なかなかに今後が楽しみな作品です。


ついでながら、人類が入植した異星を舞台にしたウェスタン、と言うと思い出すのはやはりこれ↓ですよね。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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