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嫌われ者のいない幸せな世界を求めて――『魔物ワールドは二周目令嬢が作ったのだ!』

またも帰省中ですが、生活環境が大きく違うのでリズムが狂う、PCに向かうこと一つ取っても調子が上がらない、というのはあるようです。
こちらはエアコンもありませんし。炬燵というのは一番効率の良い暖房器具ですが、そこから出られなくなります。
まあ、それはそうと、今回はこちらのライトノベルを取り上げさせていただきます。

魔物ワールドは二周目令嬢が作ったのだ! (集英社スーパーダッシュ文庫 は 5-6)魔物ワールドは二周目令嬢が作ったのだ! (集英社スーパーダッシュ文庫 は 5-6)
(2014/01/24)
葉巡 明治

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本作の主人公・リテトエトは悪名を馳せた「貴族」でしたが、没落して民衆に追われ、そして魔物の住む島に辿り着きます。
魔物は二頭身のマスコットのようなものから大きなもの、人間に近い姿のものまで千差万別の外見をしていますが、ほとんどは知識を蓄積することもなくその場を享楽的に生きているだけ。リテトエトはそんな魔物たちの生活のアドバイザーになります。
しかし、平和な時は長く続かず、やがて魔物の島の存在を知った外部の人間たちが侵攻してきて……

と、あらすじを言えばそんな具合ですが、まず本作における「貴族」の設定が普通ではありません。
その役割は「人に嫌われること」なのです。

 あなたは、私の職業、貴族というモノをご存知ですか?
 階級社会の上野ほうにいる生き物、あの貴族です。
 ざっくりと言えば、二百年ほど前に生まれた国家公務員。血族であれば誰でもなれます。
 世間的には知られていませんが、『必要悪』の代名詞です。
 業務内容は、とても簡単。
 他人に嫌われること全般です。
 例えば、四六時中、日傘をさすこと。
 髪を変てこりんな縦ロールにしちゃうこと。
 高級な紅茶を常に飲むこと(おなかたぷたぷします)。
 舞踏会に出席すること。
 気にくわない庶民に大型犬をけしかけること。
 奴隷の闘士を使った非人間的な賭け事に参加して、大笑いすること。
 冬に暖をとるときは札束を燃やすこと。
 以上は、よく知られている代表的なものですね。
 もちろん、人に嫌われるための勉強を欠かさないのも、だいじなお仕事の一部。
 その目的は、領民たちに嫌われることで、一致団結してもらい、豊かな国を作ること。
 最終的には、悪として殺されることで街に平和をもたらすそうなのです。
 (葉巡明治『魔物ワールドは二周目令嬢が作ったのだ!』、集英社、2014、pp.10-11)


一部、貴族というより成金が混じっている気もしますが……
これは「貴族」のステレオタイプなイメージをパロディ化したものを大真面目にやっているというシュールな設定と言えますが、同時にかなりシリアスな展開に直結してもいます。
人に効率よく嫌がらせをするためには色々なことを知っている必要があり、魔物の島に流れ着いたリテトエトはその知識を活用して、今度は皆を幸せにするためのアドバイザーを務めるのですが、ふたたび危機が訪れた時に選ぶのは結局、自分が悪役を引き受けるという貴族としてのやり方です。
そして、多くの民衆は貴族に苦しめられている一方で、貴族も最後は倒される運命なのですから、これが誰も幸せにしない仕組みであるのは明らかです。

そんな中で、一度「没落」して貴族としての任を終え、「二周目」の人生を生きる彼女が幸せを摑むことができるのか――というのが物語の軸になっています。
その物語と「敵を必要とする社会」、それに対して敵のない社会への希求、というモチーフ(後半には、貴族に悪役を担わせる現在の仕組みが出来た経緯まで語られます)から「貴族」の設定が逆算されている感もあるのが、多少判断を考えさせるところです。
あまりシステマティックに意味を持った設定であるということは、シュールな設定としての可笑しさを減じさせるという面もありますから。

魔物には色々な個体がいますが、小型のゆるキャラのようなものが目立ちますし、実に喋りも生き方もマイペースです。

「しばらく食べていなかったのですか?」
『一年ぶりな』
 どうして生きてるの。
「ウ、ウソだー、一年もなんてそんなそんな。なんでまた」
『な? いつもは食べようと思わないしなー……? 食べていいよなんて久々に聞いたのな』
 (……)
「飢えではなかなか死なない……いや、なかなかどころか、死にそうにないですね……」
『飢えで死ぬのは甘え』
 何それ厳しい。
 (同書、pp.62-63)


女主人公によるですます調の語りと、このような奇妙な生き物との交流は、少なからず『人類は衰退しました』を思わせるところがありますが(個体名を持たない彼らに主人公が名前を付けるとか、細かいところで共通点を探していけば色々出てきます)、魔物は『人退』の妖精のように思いがけないものを生み出す力を持っているわけではなく、またリテトエトがアドバイザーとして行ったことも割とあっさりとしか描かれていません。むしろ、その辺の過程と成果を十分に見る間もなく後半の急展開に突入した感が強いですね。
その辺り、センス・オブ・ワンダーがもっと追求できそうな設定でありながら弱かった、という印象はあります。

後半では魔物の出自や、リテトエトに付き従っていた青年・セバスの辿った運命なども明らかになり、そうした伏線が上手く絡まって物語を盛り上げて行きます。
悪役を引き受け続けたリテトエトが幸せになれるのか、というのは、オーソドックスながら感動的ですね。
自己犠牲に走るというのはある意味で安易でもあるのですが、そういう役割を引き受ける存在として生きてきた主人公を最初から設定していたのですから、文句の言いようもありません(上で述べた、シュールな笑いどころなのかどうかという兼ね合いはまた別の問題ですが)。


人類は衰退しました 1 (ガガガ文庫)人類は衰退しました 1 (ガガガ文庫)
(2011/11/18)
田中 ロミオ

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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