スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

赤裸々な話とフィクションの兼ね合い――『男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。 (1) ―Time to Play― (上)』

自分ではほとんどTVをつけないのですが、実家にいると食事時等にはリビングのTVがついています。
今日は「ナニコレ珍百景」のスペシャル版をやっていましたが、そこで取り上げる「珍百景」の内容はともかくとして、それを取り上げる芸人たちがいちいち披露する芸、あれは何なんでしょうね。
あれが「面白い」として受けているのだとしたら、もうそのことにはとやかく言いませんけれど、当の題材(「珍百景」)の面白さに水を差しているようにしか思えないのは、私だけでしょうか。

 ~~~

今回取り上げるライトノベルがこちらです。

男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。 (1) ―Time to Play― (上) (電撃文庫)男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。 (1) ―Time to Play― (上) (電撃文庫)
(2014/01/10)
時雨沢 恵一

商品詳細を見る

作者の時雨沢恵一氏は、電撃小説大賞の審査員もやっている電撃文庫の大御所作家ですが、――本人も今回のあとがきで書いている通り――長編小説は『キノの旅』と『アリソン』~『一つの大陸の物語』の二つを10年以上続けており(後者は昨年完結)、実に12年ぶりの完全新シリーズということです。
私は過去シリーズを読んだ覚えがないので、短編・小品を除けば初の時雨沢作品ですね。

それにしても長いタイトルです。最長記録の更新を狙ってやっているのはほぼ間違いないでしょう。
まずどこまでがタイトルなのかよく分からなくなりますが、「男子高校生で~絞められている」までがメインタイトルで、「Time to play」はサブタイトルでしょう。
3月に2巻の刊行もすでに決定していますが、「~絞められている」の後に入る巻数が(2)で、「Time to Play (下)」となります。その後サブタイトルを変えて3巻以降も続けられる仕様ですね。

内容ですが、まさにタイトル通りです。
本文の冒頭でいきなりタイトルの文章が出てきて、「それが、今の僕だ」と続きます。
そうして首を絞められている主人公(男子高校生でライトノベル作家)の回想として、彼がいかにしてライトノベル作家となり、どう仕事をしてきたかが語られます。
内容としては本当にそれだけです。
自作『ヴァイス・ヴァーサ』のアニメの声優をやっている少女と思いがけず高校のクラスメイトとして出会う、というのが一番劇的な展開ですが、彼女との交流も、ほとんどはインタビューのように彼女が主人公に仕事のことを聞いているだけです。
なぜ現在の状況(首絞め)に至っているのかすら、まだ説明されるところまで到達していません。


しかし、最近になって、ライトノベル作家が主人公のライトノベルをよく見かけるようになった感はあります。
管見に入った限りでも、少し前の作例として入間人間氏の『バカが全裸でやってくる』があり、さらにごく最近の例として、ちょうど本作の一月前に伏見つかさ氏の新作『エロマンガ先生』、そして本作と同月のラインナップに『城ヶ崎奈央と電撃文庫作家になるための10のメソッド』があっただけに(『バカが全裸~』は電撃文庫の姉妹レーベルであるメディアワークス文庫、他は全て本作と同じ電撃文庫)、なおさらその印象が強くなります。
「ライトノベル作家が主人公のライトノベルが、これからドンドン増える予感がしたから」(p.317)という理由で「今だ」と思い刊行を決めたという時雨沢氏の時流に対する感性はさすが、というべきでしょう。

ただし――『バカが全裸~』の主人公は大学生であったのに対し、本作を含む電撃文庫の3作はいずれも主人公が高校生です。
同じく中高生を対象にしているとされる少年漫画などと比べても、とりわけライトノベルは主人公が中高生である率が高いように思われますが、今回もその例に漏れません。
しかし、問題は本作『男子高校生で~』の主人公は「売れっ子」でもあって、すでに作品がアニメ化もされている、ということです。ヒロインはそのアニメに出演している声優なのですから、この設定は欠かせない重要なものです。

才能ある人、若くしてデビューする人はいるでしょう。しかし、メディアミックスの話は一朝一夕に動くものではありません。詳しく調べて統計を取ったわけではありませんが、「アニメ化決定」と公開される時点でシリーズ刊行開始から1年は経っているのが普通でしょう。出版と制作にかかる時間を考慮すれば、高校入学と同時にデビューして、デビュー作がすぐに成功してアニメ化されても、アニメが放送される頃にはそろそろ卒業です。
が、本作の特徴は、そうした主人公の経歴を、新人賞の選考スケジュールや編集工程に関する説明と合わせて詳細に設定し、説得力を持たせていることです。

まず、主人公は1年休学した高校2年生、つまりストレートなら3年生の年齢です。
中学3年生時に電撃小説大賞に投稿した作品が拾い上げという形になり、高校1年生時にデビュー。翌年――つまり高校1年の3月にアニメ化の話が来て(かなり早めですが、彼が速筆でこの時点ですでに3巻を刊行済みであること、作者に「話が来」るのとその話が「決定」として公表されるのとでは時間差があるだろうと考えると、まあ納得できる範囲内です)、その後の4月から翌3月まで休学。そして休学を挟んでの2年生の春にアニメのアフレコに通っているわけですから、アニメ放送はもう少し先になるでしょう。
電撃小説大賞の募集締め切りと選考期間および過程、といった情報は事実に忠実で、さすがは関係者です(ちょうど来月2月が新人賞作品の刊行月です)。

(ただし、プロ2年目の刊行数に関する記述は何回読んでもミスがあります。この年の刊行数を「5冊」と書いているのですが、同年の1月に出た3巻を数え忘れているので、実際には6冊です。直前で「昨年」を「一昨年」と誤記していることに連動しているのでしょうか。「年」を「年度」に読み替え、「4月から翌年3月までの休学していた1年間」と解釈してもやはり6冊で、間違いは解消されません。普段私はこういうミスをいちいち突きませんけれど、本作の場合編集・校閲過程に関する詳しい説明が作中に存在することと相まって、これほどチェックしてもなぜかくも明瞭なミスが残るのか、というのがかえって興味深い話になってしまいまいました)


もう一つ、こうした作品を書く場合のポイントはおそらく、虚実の兼ね合いでしょう。
もちろん、作家が作家を題材に書く以上、実話や裏話に基づいたエピソードは期待されますが、しかし「赤裸々に描く」ことと「事実を詳細に描く」ことの間には差異があります。

なぜ内輪ネタはつまらないか――それは一つには、作家というのは本来、一人で一度に経験することの不可能な無数の登場人物の人生をシミュレートできるものだから、ではないでしょうか。
それに対して実話、内輪ネタというのは、要するに作者ただ一人の人生に基づいたものです。そちらの方が架空の人物より面白いのであれば、フィクション作家をやる資格がありません。ノンフィクションライターをやっていなさい。
つまるところ、作家の仕事に比して、事実に基づいた話というのはむしろ貧しいのです。

さて本作の場合、上述のような新人賞の選考とデビューのスケジュール、また打ち合わせや校閲といった出版工程、それにウィンドウズとマッキントッシュ、Word と一太郎が云々といったパソコンの使い方指南などは大変具体的で、事実に忠実であり、さらに初心者向けに丁寧に説明されています。何しろ、これらの話の大部分は、実際に容易に検証できることですし。
他方で、主人公の経歴を見ても、作者に通じるものはあまりありません。デビュー年齢の若さを見ても相当に才能に恵まれており、実にフィクションらしい人物設定です。
ですから、彼がいかにしてライトノベル作家となったか、という話も、あまり How to 的なものとして期待すべき代物ではないでしょう(そもそも小説が How to に矮小化されるのもつまらないので、それで正解だと判断させていただきますが)。
色々とお話を妄想してはきたけれど、実際に書こうとしてみると「物語」を動かしていなかったことに気付いてプロット作りから始めたとか、プロットから実際の物語を書こうとしてまた文章の書き方が分からず悩む、といった順序はいかにも堅実にステップを踏んでおりもっともらしく感じられますが、作家志望者が皆同じ悩みを経るとも限りません。主人公が悩みをクリアして新人賞の選考を通るだけの文章を書けるに至るまでも非常に早く、才能で突破した印象を強く与えるものですし。


ここで少し他を参照してみると、『バカが全裸~』(ver.2)は、主人公の経歴上の個々のエピソード――大学生でデビュー、『電波女と青春男』を思わせる作品で編集から求められて続きを書くものの最初の巻で話に片が付いていたので苦労する、毎月作品を刊行することにする等――は作者の実話を強く思わせるものの、他方でそれらが事実とは思えないエピソードと結び付いていたりしました。
何しろ、作者の入間氏が一時期月刊ペースで作品を刊行していたことは事実ですが、しかしその理由が大賞受賞者の伊次原幸子と売上で勝負したから、などというのはとても信じがたい話で、ご丁寧に(作中においてすら)伊次原幸子は架空の人物であることを強調しています(入間氏と同期の新人賞で大賞受賞者は紅玉いづき氏ですが、色々なデータが整合しません)。
これは、深刻なことを飄々と語り、真面目と不真面目の境をはぐらかすような入間氏の文体にもマッチしたものでした。
『男子高校生で~』は「作業工程」と「人物設定」でノンフィクションとフィクションが比較的はっきり分かれている印象なので、その傾向は大きく異なります。

ただ、『バカが全裸~』においても、月刊刊行を決めたはいいものの、次の原稿の前の原稿の著者校と日程が重なることを考慮しておらずスケジュールに負われた、といったエピソードは本当らしさに満ちています。
出版工程の話を持ち出しているのは『男子高校生で~』と共通する点で、「締め切り間際の修羅場」という定番ネタの延長のようなものとして、作家としての実話らしさを感じさせる最良の道具の一つなのかも知れません。
これ以上裏話を詳細に――たとえば締め切りの日付を細かく特定する等――すれば迫真性がもっと増すかというと、おそらく必ずしもそういうものではないでしょう。

いずれにせよ、本作が事実に基づいた具体的情報を語りつつ一人の人物の「いかにして作家となったか」を、フィクションとして(大した事件も起こらないにもかかわらず)面白く描いているのは確かです。
「首を絞められている」現状に至った事情として激動の展開が来るのかどうか――ヒロインの背景に関わっていそうな伏線もいくつか見当たりますし、まあ楽しみに待ちましょう。


ところで本作は装丁も凝っていて、カバーを裏返すと主人公の書いている作中作『ヴァイス・ヴァーサ』の表紙になっていたりします。

ヴァイス・ヴァーサ

vice versa という表現に馴染みのないのが多くの一般人、「ヴァイス・ヴァーサ」と言われて馴染みがあるのは英会話に堪能な人(ここまでは作中でも言われていた通り)、「ウィケ・ウェルサー」とラテン語読みするのは一部の古典語通あるいは語学マニア(=私)。

エロマンガ先生 妹と開かずの間 (電撃文庫)エロマンガ先生 妹と開かずの間 (電撃文庫)
(2013/12/10)
伏見 つかさ

商品詳細を見る

城ヶ崎奈央と電撃文庫作家になるための10のメソッド城ヶ崎奈央と電撃文庫作家になるための10のメソッド
(2014/01/10)
五十嵐雄策

商品詳細を見る

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 哲学へ
にほんブログ村 人気ブログランキングへ

テーマ : 大学生活 - ジャンル : 学校・教育

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

クリアカットな虚実――『男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。 (2) ―Time to Play― (下)』

今回取り上げるライトノベルはこちら。 男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。 (2) ―Time to Play― (下) (電撃文庫)(2014/03/08)時雨沢恵一商品詳細を見る  (前巻の記事) 今回で「Time to Play」は下巻ということで話は一段落、タイトルにある「首絞め」の真相その他が明ら...
プロフィール

T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

当ブログはリンクフリーです。

引用もフリーです(出典明記していただけるとより有難いですが)。

コメントは返信しないことも多いですが、基本的にちゃんと読んでいます。

実名での仕事
7ページだけですが、拙稿が掲載されています。
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
カレンダー
08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
参考文献
私が展開している思考の拠り所など(一部)。
スポンサー広告
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。