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異常を視る眼――『キルミルカタル 眼ノ宮瞳子の眼球探し』

今回取り上げるライトノベルはこちら。第15回えんため大賞の特別賞受賞作品です。

キルミルカタル 眼ノ宮瞳子の眼球探し (ファミ通文庫)キルミルカタル 眼ノ宮瞳子の眼球探し (ファミ通文庫)
(2014/01/30)
緋色友架

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ここ数年のファミ通文庫の新人作品の印象を振り返ると、何と言うか……前々回に引き続いて前回「2年連続の大賞」が話題作りめいて感じられてしまった、というのは本音です。

さて、本作『キルミルカタル』の主人公・切原刃(きりはら じん)は殺人鬼です。実に5歳の頃から人を殺している筋金入りの。
彼の幼馴染の少女・郷弥視央(さとや みお)は刃が殺人鬼であるという秘密を握っているのみならず、刃以上に容赦なく人を傷つけたり殺したりもできる恐ろしい人物で、刃の逆らえない相手です。
そんな刃が視央から受けた依頼は、左目に眼帯をかけてゴスロリを着た少女・眼ノ宮瞳子(めのみや ひとみこ)の失った「魔眼」を探すこと。瞳子は現在、眼帯の下に「偽眼」を嵌め込まれていて、それにより特殊な能力も発揮できるのですが、生まれつきの左目はそれとは別、「魔眼」だったということで……

というわけで、いずれの登場人物もまともではありません。
とりわけ視央は凶悪で、ほとんど黒幕のような存在です。
ライトノベルの定番ならば、「幼馴染の少女」に振り回されていても実は仲が良かったりするのですが、からかいつつも積極的にアプローチをかけてくる視央のことを、刃は本気で疎み、嫌っています。

他方で瞳子はいつもおどおどしている小動物系のヒロインで、幼少時から監禁され実験台にされてきたとか、色々とえげつない生き方をしてきたし、今もそれを強いられている人物です。
そんな彼女を刃が受け入れ、心を開かせていく様は王道のボーイ・ミーツ・ガール的にも見えます。
その分だけ、最後に瞳子の見せる腹黒さと、視央との女の戦いが印象的だったりもするのですが――

また食人やら、死体に恋する女殺人鬼・撫胎乱々(なではら みだら)死姦やらがきちんと描写されており、エログロ描写はなかなかのものです。

しかしこの話、結局はどこを向いているのでしょうか。
主人公が殺人鬼というのは、普通の読者にとってみればとっつきにくいはずです。もちろん、多くの人は誰かを殺したいと思ったことがあるかも知れませんし、またそうでなくとも、人を殺す心理が分かるように思われたり、共感させたりする物語は可能です。ただ、そもそも殺人などということは遠い世界の事柄だと思いたく、そんなことは「分かりたくない」という人間心理もあるで、そうした物語作りは成功すれば、読者の慣れ親しんだ世界を強く揺さぶるものになるでしょう。
ただ本作の場合、主人公の刃は自らの殺人衝動に理由が無く、自分は人間とは異質な殺人鬼という生き物であることを強調します。

 俺は、切原刃は、その日から人間ではなく――――殺人鬼になった。
 (緋色友架『キルミルカタル 眼ノ宮瞳子の眼球探し』、エンターブレイン、2014、p.11)


 最初の殺人が、楽しかった訳じゃない。
 快楽でも中毒でも依存でもなく、俺はただ当たり前のように、人を殺していた。
 さながら、呼吸でもするのかのように。
 他人にとってそれがどれだけ異常でも、他ならぬ俺にとっては、人を殺すことはなんの不自然もない日常の一コマだったのだ――――我ながら、おぞましいことに。
 きっと、誰とも共有できないだろう。
 人を殺さないと息苦しく、生き苦しいだなんて感覚は。
 (同書、p.96)


というわけで、本作の主人公は読者にとって身近な存在たることをかなり放棄したタイプです。
しかし同時に、理由が無いことの強調は、狂気を深く掘り下げて描いてはいないことをも意味します。狂気には狂気なりの筋道があるのであって、それを明るみに出すことこそ、狂気を狂気として深く描くことになるからです。

他方で、刃は高校生としての日常をも重んじ、それを大切にしています。瞳子への思い入れや視央のおぞましさに対する恐怖や怒りは熱いところも感じさせます。

(……)第三者から見れば俺も視央も、平気で人を殺す人でなしの、同類にしか見えないかもしれない。
 それでも、ガマンならないのだ。
 殺人鬼とも殺人姜とも違う、言葉で表せないほどに忌まわしいこの存在が。
「自分の都合だけで、ただの我儘のために、理知的に人を殺せるお前の方が――――本能で殺している殺人鬼なんかより、よっぽど狂ってる……気持ち悪いんだよ……!」
 (同書、p.178)


私も上述した通りで、言わんとすることは分かります。視央は恐ろしく、邪悪です(ただ視央の方はあまりにも謎めいて扱われているがゆえに、その心理描写はやはり立ち入ったものではないようにも思われますが)。
そして刃自身、傍から見れば自分も比較するようなものでないことは理解の上です。
それでも、言葉に説教臭い熱さが伴うと、お前が言うことなのか、という違和感はあります。

この主人公は読者の感情移入を誘う存在なのか、読者を突き放したところで動く存在なので、そのバランスに疑問を感じないではありません。
登場人物のネーミングを見ていても、作者がいわゆる「中二病」心に触れるモチーフに熱心なのは分かりますが、それをどういう視覚から見るか、という距離感に問題を感じます(奇矯なネーミングそのものはいいのですが、何も日常パートの一般人キャラにまで「罪忌輪廻(つみき りんね)」なんて名前を付けなくても……と思うのは、私だけでしょうか)。

主人公以外のキャラクターには実にいい感じにおかしいのが揃っているだけに、なおさら異常な主人公の扱いというものの難しさを感じます。

グロテスクな偽眼の嵌まった異形の少女や魔眼といったモチーフも美味しいのですが、本筋への食い込み具合は意外に弱かった気もします。
今後このセンスをいかに活かしていけるか次第、でしょうか。

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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