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仮想世界の試験、現実の異変――『アヴァロン42 理想郷に響く銃』

発売予定が公表されていた本の発売延期というのはよくある話ですが、その原因が公式に語られることは滅多にありません。
しかし考えてみると、それも当然かも知れません。出版社の公式は作者・著者の公式ではなく、また作者・著者の公式はイラストレーター・デザイナー等その他関係者の公式ではないからです。

たとえば「作者が原稿を落とした」というのは一番ありそうな原因ですが、もしそのことを出版社が公式に語って釈明したとしたら、その釈明の場に公式に作者がいるわけではない以上、「作者のせいです」と責めているように見えはしないでしょうか。
そのつもりはなくとも、言葉を選ぼうと、そのおそれはあります。これは他のところに原因がある場合も同じで、本人以外が無闇に釈明などすべきではないのです。

――と、そういう判断が実際に出版業界に存在しているのかどうかは知りません。ただ、下手な説明をすればまた問題が発生しそうなことは、想像に難くありません。

 ~~~

それはそうと、今回取り上げるライトノベルはこちらです。

アヴァロン42 理想郷に響く銃 (1) (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)アヴァロン42 理想郷に響く銃 (1) (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)
(2014/02/03)
吉野匠

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本作の舞台はヴァーチャルリアリティの世界です。
主人公の藤間涼司(ふじま りょうじ)たち少年少女は学校に通い、銃や剣といった武器、それに魔法で、モンスターや、必要とあれば他のプレイヤーと戦います。
もちろん、死ねば強制ログアウトですが、現実の身体が死ぬわけではありません。

つまり、最近流行りのネットゲーム物を思わせる設定ですが、ただ本作においてこれは遊びではなく、「適合者選抜試験」です。
涼司は妹の雪音(ゆきね)と姉の沙霧(さぎり)とともに「適合者」に選ばれることを目的にしています。
しかし、「適合者」とは何の適合者なのかというと――この説明が本文中に見当たらないのです。
その代わり、あらすじには説明があります。

人類は汚染された地球を捨て、テラフォーミングされた他の星系に移住しようとしていた。
移住適合者を選抜するため、広大な仮想都市を使ったテスト「アーク・セレクション」が行われる。
そこは剣を帯び、銃を持った少年少女が学校生活を送る世界。大人は全てがNPC。
オンラインの中に存在する、厳しいルールで縛られた街。
彼らはそこで名実ともに「生き残り」を賭けて戦う。


追い追い説明する予定なのかと思って読んでいると、最後まで説明がないままで首を傾げました。これは何かのミスでしょうか。
もしその話を2巻以降に回す予定だとしたら、それは構成として疑問があります。
適合者に選ばれることがどのくらい重要なことで、選ばれなかったらどうなってしまうのか、それが分からないと、主人公が何に一所懸命になっているのかも分からず、話について行けません。

このレーベルの不慣れさを考えると、打ち合わせの段階でこの設定を作者も編集者も周知していたけれど、本文中に書いていないことに気付かなかったとかいうこともありそうなので困ります。

まあとりあえず、あらすじも多少念頭に置いて読んでいきましょう。
そもそも「適合者選抜試験」とは、少年少女のどんな資質を見ているのでしょうか。

まず、この仮想世界は細かい感覚まで作りこまれていて、食事や睡眠も必要です。お茶だってお湯を沸かして淹れなければならない等、隅々まで現実を再現しています。
そしてこの試験に参加する生徒同士の殺し合いは、当然禁止です(それでも色々裏をかいてプレイヤーキラーを行う連中が登場、そいつらとの戦いが一つの山場になりますが)。さらに生徒たちは自ら申請してコミュニティを作らねばならず、合格はコミュニティ単位で下されます。
してみると、シミュレーションの世界においていかに共同生活を行えるか、をテストしているようにも思われます。

しかし同時に、この世界は魔法を使うことができ、モンスターを倒すと経験地を得て強くなったり、お金を手に入れたりできるというRPG的な世界でもあります。現実にどんな状況が訪れるにせよ、これがそのまま将来の生活のシミュレーションになるとも思えません。


それともう一つ、――私はそれほどネットゲーム物のライトノベルを読んでいないことを断った上で言いますが――ネットゲーム物のポイントは、ネットと現実の関係です。
物語の軸はネットにあるのか現実にあるのか、登場人物がネットゲームをやることやそのゲーム中で起こることは、現実にどのような形で影響するのか。

本作の場合、これは選抜試験ですから、「ゲーム」の結果はそのまま現実での彼らの一生を左右します。
しかしそれだけでなく、この仮想世界で死んで強制ログアウトした(作中では「蜘蛛の糸が切れる」と呼び習わされています)人間は「現実でも消えてしまう」といった不穏な噂が流れます。
涼司たちは一度だけ現実に戻りますが、ここで涼司自身も自らの身に異変が起こっているのを経験します。
この選抜試験には、何か隠された事情があるのか……
つまり、現実にいるゲームマスターの謎を物語のコアに持ってくる構成です。この謎は当然、上述の「そもそも何を見る試験なのか」という疑問とも密接に結び付いてくるでしょう。

ただ、この1巻の内容は仮想世界内で暴挙を働く奴らとの戦いがメインで、選抜試験が一段落付いたところで引きとなっています。
次巻以降が引き続き仮想世界の物語なのか、現実世界に出てそちらの問題に切り込んでいくのかも不明です。

すなわち、1巻である程度まで区切りのついたストーリーとしては仮想世界での戦いを描きつつ、その「外側」にあるさらなる謎と物語を仄めかしておく構造ですね。なかなか楽しみなのは、間違いありません。

 ―――

ところで、本書の目次はページ番号が間違っています。目次に記載されているページと実際に各章が始まっているページが合わないのです。
これでこのレーベル「ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ」は、イラストの挿入箇所の間違いに引き続き短期間で立て続けに編集工程のミスを披露しています。

そこで重要な資料があります。
このレーベルの創刊ラインナップの一つ『ランス・アンド・マスクス』は、作者ではなく編集者があとがきを書いているという珍しい作品でした。
そこでは、編集者がポニーキャニオンの人間ではないのはもちろん(ポニーキャニオンは元々出版社ではなかったのですから)、書籍編集者ですらなく、Studio五組というアニメーション制作スタジオの人間である、という事情が説明されていました。
これで編集が不慣れな理由はよく分かりました。将来ライトノベル史の編纂者が「ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ」の項を書くに当たって、『ランス・アンド・マスクス』のあとがきは必須の資料となるでしょう。

そして本作『アヴァロン42』のあとがきにおいては、作者が以下のように声をかけられた、とあります。

「実はですね、今度、アニメ化を前提としたラノベレーベルができるんですが、吉野さんご興味は(以下略)」
 (p.316)


これで、編集者を外注しておきながらプロの書籍編集者を呼ばなかった理由も分かってきました。
京都アニメーションのKAエスマ文庫のような感じを狙っているのか、最初からアニメ会社とのタイアップなのですね。

しかし、その結果としてライトノベルとしての体裁に支障をきたすとなると、大いに疑問はあります。

Lance N' Masques (ランス・アンド・マスクス) (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)Lance N' Masques (ランス・アンド・マスクス) (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)
(2013/12/03)
子安 秀明

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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