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戦国の世を何のために戦う――『村上海賊の娘』

今回取り上げる小説はこちらの時代小説です。

村上海賊の娘 上巻村上海賊の娘 上巻
(2013/10/22)
和田 竜

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和田 竜

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同作者の『のぼうの城』は一昨年に映画化もされましたが、私は未読です。

海賊ほど、現実には嫌われ者でありながら(現代でも海賊被害を受けたことのある海運業者はいるはず)、高い人気を誇るものも珍しいでしょう。
海賊を主役にした漫画やアニメ等が人気を博するだけではありません。反体制のシンボルとして「海賊」を名乗る人達もいます。スウェーデン発、ドイツで話題を呼んだ「海賊党」という政党もあります。浜本隆志氏によれば、ヴァイキングに遡る海賊の民族としての伝統、それに第二次世界大戦中にナチスに抵抗した「エーデルワイス海賊団」といた伝統が存在し、それが海賊党ムーブメントにも連なっているとか。
さて本作『村上海賊の娘』が描くのは戦国時代に瀬戸内で暴れた村上海賊(「水軍」とい名称の方が一般的な気はしますが)、しかもその娘です。

本作の時代は織田信長が一向宗(浄土真宗)の本拠・大坂本願寺と戦っていた天正4年(1576年)
信長軍に包囲された本願寺は、中国地方の毛利氏に兵糧入れの支援を頼み、毛利はその兵糧を輸送するに村上海賊に依頼します。
村上海賊三家の中でも最大の勢力を誇る能島村上の当主・武吉(たけよし)には2人の息子と一人の娘がいましたが、中でも武吉の武勇を受け継いだのは娘の(きょう)姫であった、というのです。この景姫が主人公です。
もっとも、この景の名が登場する文献は一つだけ、『北畠正統系図』などの家計図にその名はない、というのは作者も断っていること、つまりほとんど資料のない人物のことであって、その分作者が非常に自由に筆を振るっていて、それが物語の爽快さに繋がっています。

とにかく、この小説における景は滅法強いのですが、豪快で、戦うことばかり考えている脳まで筋肉のような女で、「軍船に女を乗せるべからず」という村上家の戒めを無視してしょっちゅう海賊働きに出ては兄に説教されています。
醜女であるため20歳にして嫁の貰い手がない、と評されていますが、その描写はというと、

 長身から伸びた脚を腕は過剰なほどに長く、これもまた長い首には小さな頭が乗っていた。その均整の不具合は、思わず目を留めてしまうほどである。
 最も異様なのはその容貌であった。
 海風に逆巻くらんぱつの下で見え隠れする貌は細く、鼻梁は鷹の嘴のごとく鋭く、そして高かった。その眼は眦が裂けたかと思うほど巨大で、眉は両の眼に迫り、眦とともに怒ったように吊り上がっている。口は大きく、唇は分厚く、不敵に上がった口角は、鬼が微笑んだようであった。
 (和田竜『村上海賊の娘 上』、新潮社、2013、pp.69-70)


しかも六尺(180cm)近い長身とありますから、西洋人風の彫りの深い顔にモデル体型という感じですね。
ただ、それはこの時代の美人像とは対極であった、と。

でありながら、海賊のイケメンと結婚して一緒に戦に出るという夢を持っています。

そんな彼女ですが、戦いに加勢しようと本願寺に向かっていた農民たちを助けて、堺では西洋人を見慣れているため姫様も美人と見なされるはず、と聞いて、彼らを望み通り本願寺に送って自分も堺に行こうと飛び出していきます。
毛利家や村上家の思惑など知ったことではありません(毛利家の中でも、ここで本願寺に加勢すべきかは意見の相違があって、村上武吉はその辺をきっちり見抜いていたりするのですが)。

実際、景の男勝りで破天荒な性格は泉州侍の気質に合って、大いにちやほやされたりもするのですが……
しかし同時に景が見ることになるのは、憧れの華やかさとは程遠い戦の現実。もちろん、血腥いのは景も慣れていますが、民を騙して戦に駆り立てるようなやり方は、戦を晴舞台のように考える彼女には受け入れがたいものでした。
けれども、綺麗事など通じない、皆「家を守るため」に戦っているのが現実。

一度は打ちひしがれて帰り、海賊働きもやめて大人しくなろうとした景ですが、それでも――武家の「家を守る」とは別に――自分が守いたい、そのために戦うべきものを見出し、もう一度立ち上がります。
そして明かされる、村上家が軍船に女を乗せることを禁じた本当の理由――
上巻と下巻の後半部はそれぞれ合戦になっていますが、その描写は圧巻です。

ここでもう一つのポイントは、「家を守る」ということが必ずしも一義的ではないことです。
果たして長いものに巻かれて生き延びて満足か、いや勇ましく戦って、討ち死にするともその姿を後代に伝えるべきなのか――
そもそも、戦国の世が終われば海賊の栄華も終わります。遠からず終わることを知りつつ延命を図るべきなのか――
本作中に登場する武士たちはそれぞれに異なる思惑を持ち、同じく「家を守る」と言いつつ対照的な選択がなされることすらあります。
そもそも戦国時代というのは、(たとえば主君に従うべしといった)従来の習いが通用しなくなった世の中ですから。そこで生きるというのはどういうことなのか、一口に語れる答えはどこにもありません。

そんな中で、まさに「男気」とでも言うべきものが計算づくの政治的駆け引きに勝る場面も出てくるのです。
そこに立ち上がった景の魅せ場もあります。

登場人物の能力にはしばしば漫画的な派手さがあって、中でも前半で景を歓待する泉州侍の代表、後半では最大の敵として立ちはだかる眞鍋七五三兵衛(まなべ しめのひょうえ)銛を投げれば大砲のような威力という人間兵器です。
そんな、性格も力も豪快な男が物語を引っ張っている面は実に大きいですね。

景の弟の景親(かげちか)もなかなかいいキャラで、景が堺を目指して飛び出して行った時にも追いかけて付いていく破目になる彼ですが、いつも姉に振り回され、痛い目に遭わされてばかりの臆病者です。
しかし、景に付き合わされて逃げ足が鍛えられたがゆえに身体能力は高いのであって、そんな彼が後半で成長するところも一つの魅せ場です。実に漫画向きのキャラクターです。

いや実際、現代的で痛快なキャラ造形と言い時に破天荒な人物の強さと言い、漫画的なところは随所にありますが、それが悪いとは思いません。いつかコミカライズを見てみたいくらいです。


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(2013/06/25)
浜本 隆志

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Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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