オタクと形而上学(旧:山中芸大日記)
愛知県立芸術大学出身のある学生によるブログ。
吸血鬼探偵の登場――『白暮のクロニクル』
ゆうき氏は現在、『でぃす×こみ』も同時連載中ですが、こちらの方が週刊であるためか単行本化は先になりましたね。
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本作の舞台は現代日本風の世界ですが、ただこの世界の人間の中には少数ながら「オキナガ」と呼ばれる不老不死に近い存在がいて、それは一般に認知され、その扱いは法的にも定められています。
基本的には不老不死ですが、心臓に杭を打てば殺せるとか、また日光に弱いらしい設定もあり、要するに吸血鬼を思わせる設定です。
血を吸うという話こそありませんが、どうやら血を介して後天的に「なる」ものでもあるようで……。
主人公は普通の人間で、厚生労働省の職員・伏木(ふせぎ)あかり。
長身で眉毛の太い女性です。

(ゆうきまさみ『白暮のクロニクル 1』、小学館、2014、p.26)
なるほど、病気にもならず(ただ保菌者となる可能性はある)寿命も通常より遥かに長い人間が存在したら、医療や福祉にそのための制度が必要です。だから主人公が厚生労働省関係者とは、さすが筋が通っています。
しかもこの世界において、オキナガは(少数ゆえに会ったことがない人は多いものの)当然のように認知されている存在で、それゆえ登場人物もそれを当然のように流し、読者のためのことさらな説明は散発的にしか入りません。かくして読者はこの設定を少しずつしか知らされないのですが、その中で「皆がそれを当然として扱っている世界」に馴染まされていくわけです。
さて、伏木あかりはオキナガに関する問題を扱う部署「夜間衛生課」に配備され、オキナガの連続殺人事件と関わることになります。心臓に杭を打たねば殺せないのですから、なかなか手の込んだ殺人事件です。
しかも、人間のジャーナリスト一家の殺人事件や、さらには現在の連続殺人とは別に、70年も前から12年置きに怒っている連続殺人、通称「羊殺し」といった複数の事件が絡まり合い、事態はなかなかに複雑です。
探偵役は少年の外見ながら89歳のオキナガ、雪村魁(ゆきむら かい)。

(同書、p.38)
伏木を夜間衛生課に配備した厚生労働省の参事・竹之内や、雪村を殺人事件の犯人として追っている刑事・唐沢など様々な人物の思惑が交錯する群像劇は毎度のことながら見事。
現在の事件の犯人が判明したところで、70年前から続く「羊殺し」の事件が前面に出てくるという構成も読ませます。
ただ今のところ、事件についても登場人物に関しても判明していることは僅かですし、この1巻内で解決した事件についても、探偵の「推理」がそれほど説明されていないので、狭義のミステリと言えるのかどうかは微妙なところかも知れませんが、歴史やら伝奇やら犯罪小説やらといった要素の合わさった、楽しみな作品になっています。
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