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殺人とその周辺――『水木しげ子さんと結ばれました』

外国語というのはしばらくやらないと落ちるものと言われますが、ある程度習得したものは、久し振りでも結構思いだせるものだ、という感覚が私にはあります。
まあ、それもあくまである程度馴染んでいればの話。今日は知り合いとヘブライ語の勉強会をやったのですが、かなり久し振り(ほとんど1年ぶり)なので基本単語もなかなか思い出せず苦労しました。

 ~~~

今回取り上げるライトノベルはこちら。
第20回電撃小説大賞の特別賞受賞作ですが、この「特別賞」というのは20回記念特別賞、つまり今回だけだとか(受賞作一覧を見る限り、従来の「選考委員奨励賞」の枠がこの賞に変わっただけのような気もしますが…)。

水木しげ子さんと結ばれました (電撃文庫)水木しげ子さんと結ばれました (電撃文庫)
(2014/02/08)
真坂マサル

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内容に入りましょう。主人公・楠見朝生(くすみ あさお)はある事件がきっかけで人の小指と小指を結ぶ「赤い糸」が見えるようになった高校生。
彼は転校先の学校で自分とその「赤い糸」で結ばれた相手・水木しげ子さんと出会いますが、彼女は出会った時には猫の死体を手にしており、呪いだの猟奇事件だのの話をするのが好きな怪人物で……

小指と小指を結ぶ赤い糸、というと恋愛に関わるロマンチックなものを想像しますし、朝生も最初はそう考えていましたが、その正体は、殺し殺される関係の人を結ぶ血の糸でした。
この糸を追うことで、朝生は何件もの殺人事件に関わることになります。物語はいくつかの事件を描いた連作短編のような形で展開し、最後にしげ子さん自身に関わるエピソードになります。
事件は陰惨で、多くの場合人が死ぬのは止められず、しかもどちらが殺されるのか、巧みに予想を裏切ってきます。
(もっとも、「意図が結ばれている相手はこの人と思わせて実は違った」という展開もありましたが、朝生は当の相手を間近で見ているのに気付く機会はなかったのか、といった疑問はあります。その手の粗さはところどころ感じました)

事件に関わる人物の周辺描写には、時になかなか強烈なものがあります。
たとえば、引きこもりの同級生・日影日和(ひかげ ひより)は、一階は綺麗に掃除が行き届いていましたが、日和の部屋のある二階に上がると――

 そこからが異質な世界だった。
 いや、これがこの家の真の姿なのだろう。まず驚いたのが、怪談を上りきったところに置かれていた食事皿だ。日影さんの昼食なのだろうが、その量だ。優に三人前はある。全て、子どもが喜びそうなご馳走ばかりだ。そのどれもが少しずつ食べられ残されている。
 それを見て戸惑う僕に、日影ママは、「わたし、料理が好きだからついつい作りすぎちゃうの」と優しい笑みを返す。
 (真坂マサル『水木しげ子さんと結ばれました』、KADOKAWA、2014、pp.140-141)


そして部屋に踏み込もうとすると――

 慌てて、日影ママが、声を上げる。
「日和、お友達が来たわよ!」
 それがなんでもないかのような言い方をしているが、余裕がなく、まるで、「敵が攻めてきたぞ」と言っているように僕には聞こえる。
 どの部屋からも返答はない。
 その代わり、一拍あき、いきなり大音量の音楽が流れ始めた。いつも憂鬱な少年が、勝手な大人の言い分にまんまと言いくるめられ、ロボットに乗って戦うことになるアニメの主題歌だ。
「ごめんなさい。あの子集中するといつもこうなの」
 日影ママはどう見ても見当違いの解釈を言う。まるで、どこかの集落の独特の風習を見ているかのような不気味さがあった。
 (同書、p.142)


その後の、日和の父親が「外に出て傷付くよりも引きこもっていた方が幸せだ」と子供の引きこもりを積極的に擁護する場面と合わせて、過保護な家庭の不気味さと、姿を見せぬ日和がそれゆえに苦しんでいるであろうことをはっきりと感じさせます。
ただし、事件はその後さらに、思いがけない真相を見せるのですが――その真相と合わせて、家庭の歪みの描写は見事でした。

さらに、終盤で主人公の唯一の家族である姉が敵に篭絡されている場面は、確かにぞっとするものがありました。

ただ、本作においてこういった歪みの描写が生きているのはむしろ事件の周辺だという感もあります。
ある事件の犯人についてしげ子さんがプロファイリングし、犯人が「ほう、素晴らしいな」と答える場面は象徴的です。
この犯人はとりわけ理知的で計画的な犯人として描かれている、ということもあるのですが、「こういう理由でこういう犯罪願望を抱えるようになった」とあまり明晰に説明されてしまうと、何だかかえって薄さを感じます。
狂人だから理解できないはずである、とかいう以前に、そもそも内面性とはその本性により、外からの分析や説明によって汲み尽くされないものだからです。そこに論理的に明晰すぎる説明がなされるのは、かえって人物の存在感を損なうことがあります。

だから本作の登場人物は――とりわけ犯人は――、その本性はあまり描かれないか、描かれると存外まともだったり矮小だったりする印象を与えてしまっている感はあります。

そして主人公の朝生ですが、彼はいつも人を救おうと奔走していて、人を殺そうとしている者に「やめよう」と説教もします。
もちろん、そんな言葉がつねに届くとは限らず、悲劇は避けられないことも多い(そもそも、往々にして朝生は事件の実態を理解しないまま行動しています)のですが、しかし割とあっさり言葉が届いてしまうこともありました。
朝生には、父親が冤罪で獄中死し、多くの人々から「犯罪者の家族」として罵られたという過去があります。だから犯罪者の側になることも、人から悪意を向けられることも経験している――のですが、しかし近い立場を経験しているからといって、気持ちが分かり言葉が届くとは限りません。

人を救おうとする彼の努力が成功することも失敗することもあることによってバランスを保っていますが、それが「人が人を救うことはいかなる限りで可能なのか」という問いがどれだけ問われた上で描かれているのかというと、疑問はあります。

そして、水木しげ子さんは挙動や発言にこそ不気味なところがありますが、実は毎回事件の真相を明敏に見抜き、解決のためにあれこれ手を打って奔走していることが分かります。
「呪うなら自分を呪いなさいな」という彼女の決め台詞も、きちんとした理性と倫理性を備えた人物が悪人に突きつける台詞です。
朝生もそんなしげ子さんの人物を少しずつ理解して、彼女を信じて一緒に運命を切り開こうと思うようになる――それが本作の筋でもあります。

というわけで、本作の主人公は凡庸にまともであり、ヒロインはまともでしかも頼りになります。
頼りになる、のはいいのですが――少し万能すぎます。
「トビラ堂」という怪しい店で買ったと称して、怪しいグッズに交えて警視庁の全刑事のデータまで入手していますし、プラスチック爆弾まで操ります。
「トビラ堂のノブオさん」のせいにすれば何が出てきてもおかしくない勢いです。

「どうせそれもトビラ堂で買ったんでしょ」
「よくご存じで」
「キラキラした顔のノブオさんが店主のトビラ堂」
「えぇ、キラキラした顔のノブオさんが店主の、一階が骨董品店、二階が病院のトビラ堂」
「二階が病院?」
「えけ、言っていませんでしたか? ノブオさんは、医師でもあるのです。凄いんですよ、ノブオさん。顔が修復不可能なぐらいにケガをした患者に、死体の首をつけ替えたんです」
 次から次へと、トンデモ情報が出てくる。
「もう、それは医療ではなく、人体実験だね」
 (同書、p.279)


どう見てもギャグのようなノリなのですが、これが後に真面目に活躍してしまいます。
「そんなのかアリなのかよ」「そこがストーリーに関わってくるのかよ」ということをネタにする『ニャル子さん』のようなギャグ作品であればそれでも良かったのかも知れませんが、本作の雰囲気はその手のバカバカしさは程遠く……

ある種の異常性や陰惨さを描く能力は、この作者にはあると思います。
主要人物がまともなのも(しばしば薄いのも)、まあ良いでしょう。
しかし、それらをどう組み合わせて話を作るかという点に関しては、少なからず課題を感じます。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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