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「新たな神話」が紡がれる時――『剣刻の銀乙女 6』

3月には大学院博士後期課程への進学手続き書類を提出することになります。
提出期間は4日間……なのですが、受付時間は1日につき午前中の90分間だけ。
しかしこの不便さこそが大学事務です。

 ~~~

さて、今回取り上げるライトノベルはこちらです。

剣刻の銀乙女6 (一迅社文庫)剣刻の銀乙女6 (一迅社文庫)
(2014/02/20)
手島 史詞

商品詳細を見る

 (前巻の記事

前巻で魔王の地位を継承して戻ってきたエステルは、同時に歴代魔王の記憶をも受け継いでいました。
というわけで、今回は丸1巻使って、1000年前の物語――12人の円卓の騎士たちが魔神を退治した、と伝えられる英雄譚の真相です。
ですが、過去篇の登場人物が現在の主要キャラクターにそっくりなのも定番で……

剣刻の銀乙女 1000年前
 (カラー口絵)

口絵右端(表紙左)の少女はサクヤ、「竜の一族」と呼ばれる一族の出身で、並外れた強さの持ち主ですが、それゆえに「力とは何か」を求めて旅に出てきました。
左から二番目の青年はトーマス・プルガトリオ。小さな村の一介の兵士でしたが、サクヤと出会って強引に旅に連れ出されることになります。
あくまで凡人のつもりのトーマスが天真爛漫やサクヤの奇行に振り回される様は、まさに現在のヒースとエステルそのもの。サクヤがエステルの先祖の初代魔王であることは最初に明言されていますし、「プルガトリオ」はヒースの叔母にして師匠の姓なので、それぞれの先祖なのでしょう。

ただし、サクヤが「力とは何か」という問いの答えを求めているのに対し、エステルは初登場時からすでに「力は壊すだけで何も生み出さない」ことを悟って、道化師として「人を笑わせる」道を追究していたという違いは大きく、今の主人公たちは1000年前のメンバーが届かなかったところまで進める可能性をも暗示しています。

当時は魔神が暴れており、プレギエーラ教の聖女イリア(口絵右から二番目)を中心に、名立たる騎士12人を集め、それぞれに神から与えられた聖剣を授けて、魔神の討伐部隊が決定されていました。
このイリアは当然、プレギエーラの皇女シルヴィアの先祖と思われます。やはり弄られ役の気配もありますが、こちらは少し違いも感じられます。
そして、口絵左端は12人の「聖剣の騎士」の一人、「白銀の乙女」マーリンです。彼女が現在のルチルに相当するはずですが、少し間延びしたですます口調も、「呪い子」として迫害を受けるがゆえに孤立した立場も、リチルとは大きく異なります。
このマーリンこそ、占刻「円卓の騎士」と、そして剣刻のルーツにあり、そして今回の物語の軸ともなる最重要人物です。

世界観も重要です。1000年前にはプレギエーラ教が強い権力を持っており、そして現在では「占刻使い(オーメントーカー)の素質の証として重用される浅紫の瞳は、「呪い子」として忌み嫌われていました。
それは、「呪い子」の――今では「占刻」として体系化されている――力を教会も知っていればこそであって、奇跡と同じものが無闇にあっては困るからです。
呪いと奇跡はいつだって紙一重です。

現在のエストレリャはいわゆる「神」に対する信仰のない国で、英雄譚がいわば神話の役割を果たしています。プレギエーラ皇国出身のシルヴィアはこのことに随分と驚いていました(プレギエーラでは当然今でも、プレギエーラ教が信仰されています)。
無論、「神」と名指されないにしても、その宗教性にさほど違いはないのかも知れません。しかしさればこそ、この1000年前の物語は「神話の時代の物語」そのものであって、かつての神話(プレギエーラ教)に新たな神話が取って代わらねばならなかった理由を、説明しているのです。

それどころか、本作の世界では学園が国の内乱の中でも独立自治を保っており、物語の主な舞台が学園であったことも、今まで以上に重い意味を持ってきます。
かつて迫害されていた「呪い子」が一つの才能として認められ、その才能を活かすための教育機関が発達を遂げたのは、先人たちの苦しい努力と犠牲の結晶だったのです。

さらにこの巻では、物語の主だった謎はもちろん、あまり謎として注目されてこなかった(しかし読者は疑問に思う余地のある)事柄もおおむね説明されます。
たとえば、罪禍(いわゆる魔物)は「魔神の眷属」として知られていました。ですが皇禍、つまり罪禍のトップであるエステルたちも魔神のことなど詳しくは知らず、魔神の復活を目論んでいるクラウンは皇禍に近いとも言われましたが、また別物のようでした。その上、1000年前の魔神を封印した戦いにはエステルの先祖が参加していたのです。
しかし、罪禍が魔神の眷属と言われることには、ちゃんと根がありました。
そもそも罪禍とは何であり、なぜサクヤは魔王となったのか。そして神とは何であり魔神とは何なのか――これらの真相がちゃんと説明されます。

要するに「奇跡と呪いは紙一重」の延長なのですが、このテーマもじっくり追求すれば、過去篇が数倍の長さになってもおかしくないところです。
ただ、今の主人公たちは魔王であるエステルとやはり皇禍であるエリナを受け入れていることにより、もう罪禍の正体を知ったからといって「ではどうすべきなのか」と悩むことのない立場になっています。つまり、彼らはある意味で、真相に伴う葛藤をすでに乗り越えたところにいるのです。そしてそれもやはり先人の遺してくれたものがあればこそ、というのは、過去篇を読み終えれば感じることができます。

かくして全てが明かされたところで引きとなり、そして次巻で最終巻とのこと。
後に残るのは魔神との決戦しかありませんが……しかし現段階でも一応、魔神は封印されています。
もっとも、四つの剣刻を持って姿を消したヒネーテが何かを引き起こしそうではありますが……
しかし復活した魔神と対決するとして、1000年前の戦いでも「剣刻」に魔神を封印することしかできませんでした。
そして1000年前の戦いは犠牲を出し、生き残った者たちもその後の処理のためにバラバラにならざるを得ませんでした。

1000年前の結果を超えて、新たな神話を紡ぐことができるのか――これが最終巻の見所でしょう。

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T.Y.

Author:T.Y.
愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻卒業。
2012年4月より京都大学大学院。

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